POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ\パーティ - /32 -


ハコニワノベル

「それでも、やっぱり変だよ。しーちゃんは何が見えてるの……」
「見たくないものが見えんねん」
「どういうこと?」
「見たくて見えてるんちゃうねん。見たくなくても勝手に見えよる。そういう気分悪いもんが見えてるだけや」
「……」

 小早川さんは腑に落ちたような、落ちないような中途半端な顔をした。何かを言おうとして口を開いたようだけど、眼を閉じて大きく息を吸い込んでから「……ごめんなさい」と言って頭を下げた。きっと聞こえたんだと思う。私が誰も聞き取れないぐらい小さな声で「産まれる前から未来が見える」と言ったのが。冗談かなにかだと思っただろうか、それとも私をバケモノのようだと思っただろうか。もしかしたら、小早川さんはもう私と一緒に笑いあえないのかもしれない。なんとなく小早川さんが遠のいていくように感じた。その時だった。

「はいはい。二人とも、もういいって。千紗に何が聞こえていてもー、しーちゃんに何が見えていてもー、私たちは親友です!」

 バンチョが小早川さんと私の間で肩を組み、無理やり頬ずりしてきた。しばらくそれを続けていると、何を思ったのか爽太がそこに混ざろうとしてきた。それを三人で同時に蹴り倒したところで、三人とも笑った。

「はい、仲直りー」
「バンチョには敵わんわ」
「なんか、ウジウジ考えてたのがバカみたいじゃない。もー、バンチョのバカー」
「なんで私がバカになるの? それっておかしくない?」
「あのー、なんで僕は寝転がってるのかな?」
「コケたんちゃうか? 足元は注意しなあかんで?」

 ふぅ、と息をついてステージに寄りかかっていると、コツコツコツという足音が耳元に近づいてくる。振り向いて見上げると、憎たらしく笑う槍紙舞子がいた。

「おいでー、ガキんちょ」

 その呼び方にイラついたものの、確かにさっきは自分をコントロールできていなかったのだし、子供だと言われれば子供に他ならなかったのだから仕方がない。ここは言い返したいが、飲み込んでおこう。
 そのままステージの裾から奥に連れて行かれた。

「で、なんなん?」
「あっれー? あんたが言ったんじゃないのー? ここから出たいって」
「出られるん? どこから?」
「今は無理だしー」
「それやったら、わざわざこんなとこまで連れてくんなや」
「早とちりしすぎだしー。ちゃんと言ったじゃん、今は無理って。ねぇ、マコちゃん?」
「確かにそう言ったな」
「でっしょー」

 槍紙舞子がマコちゃんと呼びかけた先から、ガタイの大きな男が現れた。それまでそこには気配すらなかったというのに、突然大きな男が現れたのだから驚いた。パッと見で二メートル以上はありそうだ。確か十枚の――。

「さっきの話、本当なんだろうな槍紙舞子」
「この子が言ってたことだしー。ま、本当かどうかなんて分かんないけどー。それよりマコちゃん、フルネームで呼ばれたくないんですけどー」
「そうなのか。おい、そこのお前」
「は? もしかしてうちのこと?」
「この状況は尻紙が意図的に作っているのか?」
「なんやねん、薮から棒やな……! ?」

 突然苦しくなって、身体がふわふわと浮いているようだ。そう感じてからすぐに、自分が首を掴まれて上に持ち上げられていることに気が付いた。

「もう一度だけ聞く。この状況は尻紙が意図的に作っているのか? 聞かれたことだけ答えろ」
「マコちゃん相変わらずせっかちだしー。ウケルー」

 こいつの名前は守紙真だ。確か、槍紙舞子の前に自己紹介をしていたはず。そこまで考えたところで、少しずつ意識が遠のいていくのが分かる。これ以上は本気でシャレにならない。

「や、やめろー!」
「しーちゃんを離して下さい!」

 バンチョと小早川さんの声が遠くに聞こえる。そしてその声はどんどん遠ざかっていくようだ。さっきまで黒く感じていた視界が、ふいに白くなった。苦しかった呼吸も苦しくなくなっている。
 ――あぁ、良かった開放されたのか。



   ◇



「ねぇ、名前決めてくれた?」

「そういうお前は決めたの?」

「うち? もちろん決めてるで」

「男の子だったら俺が名付ける」

「女の子だったらうちが名付ける」

「約束だからな」

「せやね、そういう約束やったね」

「じゃぁ、お前から言えよ」

「はぁ? そんなんあんたから言ってや。ここはバシッと男らしく」

「そ、そうか? よ、よし、分かった」

「男の子やったら、この子はなんて名前になるん?」

「じゅ、十蔵」

「えらい古風な名前やな」

「お、お前はどうなんだよ。そんなこと言ってさ、実は考えてないんだろ」

「アホか、考えてあるわ。この子が女の子やったら……」

「女の子だったら?」

「静香や。なー、静香」

「ま、まだ女の子かどうか分からないだろ! な、十蔵」




   ◇



 白から黒、黒から赤に変わって、身体の隅々が熱くなっている気がして目が覚めた。私は床にぺたりと座り込んでいて、目の前には傷だらけの背中が見えている。

「あのー、僕の静香をいじめないでもらえませんか?」
「……お前、何者だ?」
「そんなの、静香と一生一緒にいる男に決まってるでしょ」
「そういうことを聞いているんじゃない。貴様、俺の握力がいくつか知ってるか? 二百を超えているんだぞ」
「ん?」
「確かに殺さない程度には力を抜いてはいたが、それをいとも簡単に外すとは……。今一度聞こう、お前何者だ」
「だから、静香と一生一緒にいる男です。それと、さっきから何を言っているんですか? 僕はただ静香を助けようと思っただけで、あなたの握力とか意味が分からないんですけど」
「……どアホ」
「あ、静香大丈夫? でさ、うーんとね、この状況は何?」
「あんたが、あいつに掴まれてたうちを助けたってだけや」
「あ、そういうこと。ふーん。でもまぁ、いいや」
「相変わらず、どうでもええんかい」
「うん。静香が無事ならそれでいいよ」
「ふむ……。槍紙舞子、こいつ危険だな」
「確かにー。そこのお嬢さん二人の気配は感じてたけどー、そいつの気配はまったく感じ無かったしー。そう言えばさっきも気配感じなかったんですけどー」
「あのー、お取り込み中失礼します。実は僕、今ちょっとばかし怒ってるんですよ」
「はぁ? こいつ何言っちゃってるのー? もしかして彼女傷つけられたからとかー?」
「そうですよ。静香に何かあったらどうするんですか」
「そんなの知らないしー。それに手を出したのはマコちゃんだから、アタイ関係ないしー」
「槍紙舞子、俺はこいつを危険と判断する。排除してもいいか?」
「はぁ? もう勝手にやってろだしー」
「よし。ならば、そこのお前。悪いが消えてもらおう」
「え?」

 守紙真がしゃがみ込んで床に手を付いた瞬間、二メートルを超えるであろうその巨体が、一瞬で爽太に向かって飛び込んできた。



≪/31へ
/33へ≫

スラッシュ\パーティ - /31 -


ハコニワノベル

「なるほど。最初にお出しした紅茶ですか……」
「少なくともあの紅茶の中には、何かが入ってたはず。その何かが爆発を引き起こしてるんやと思う」
「何その私にはすべてお見通しでしたー的な? そういうの分かってたとかってー、実は犯人だからとかー? キャハハハ。まぁ別にどうでもいいけどー」
「まぁまぁ、舞子ちゃん。そんなに疑ってかからなくても」
「いちいち言われなくても分かってるしー」
「それに、先程三枚のカードキーを見付けてくれた協力者というのが、静香ちゃんなんですし」
「へぇー。やるじゃん、あんた」
「見付けてきたんは、そこのどアホやけどな」
「さっきの突然キ……何?」
「それ以上言わんとってくれる?」
「なになにー? もしかして恥ずかしい系? ガキすぎてウケルー」
「舞子ちゃん、言い過ぎですよ」

 この女、確か名前が槍紙舞子。チャラチャラしていて、会話してるだけで疲れるタイプだ。ただ、頭が弱いというわけではなくて、喋り方から知性を感じられないだけみたいだ。思考自体はまともな気がする。それにしても服装というか布切れを着ただけの、異常な露出が癇に障る。履いているヒールもかなり高くて、今見えている後ろ姿が、どうにも下品に思えてならない。

「魅力的だね、あの人」
「は?」
「ポイント高いよ」
「なにが?」
「見えそうで見えないってとこが」
「アホか」
「でさ、あの人さっき何を言おうとしてたの?」
「さっき?」
「トツゼンキってなんなの? 新種のポケモン?」
「なんの話なんやろうな」

 下品な後ろ姿をずっと見ている爽太をしばきつつ引っ張って、ステージの下で待っていたバンチョと小早川さんの元に戻った。
 ステージ上から大広間を見渡すと、残っている参加者は十枚がカードキーを見付けてきてくれると思っているからなのか、焦った様子はあまり見られない。例えカードキーが見付かったとしても、助からないというのに。

「ねぇ、しーちゃん」
「バンチョ、どないした?」
「あのさ、千紗がちょっと変なんだよ」
「小早川さんが?」

 少し離れたところにいる小早川さんは、うつむいたまま何かをブツブツとつぶやいていて、どうやら震えているみたいだ。

「小早川さん、どないしたん? 大丈夫?」
「……ないで」
「へ?」
「来ないで!」
「どないしたん? 来ないでってどういう……」
「しーちゃんはやっぱり変だよ!」

 ――最後は恐れられ忌み嫌われる。
 冷たい汗が背中を伝っていく。ただ立っているだけなのに、視界がグラグラと揺れていく。気持ちが悪い、気持ちが悪い、気持ちが悪い。

「私、紅茶飲んでないの」
「それは千紗が紅茶苦手だって言ってたでしょ」
「違うの。そうじゃないの」
「え? どういうこと?」
「聞こえたの」
「聞こえたって何が?」
「声」
「声?」
「そう、声だよ。バンチョには聞こえなかった?」
「誰の声?」
「しーちゃんの声だよ!」
「しーちゃんの声は一緒にいるときは聞こえてるよ?」
「そうじゃなくて!」
「ちょっと千紗、落ち着こうよ」
「なんで? なんでなの?」
「だから、落ち着こうって」
「だってあのとき、しーちゃん言ったじゃない! ”この紅茶、飲んだらあかん! ”って!」
「そうなの、しーちゃん?」
「……言ったよ」
「なんで紅茶を飲む前にそんなことが言えるの? それってやっぱり分かってたんじゃないの? ねぇ、答えて! 答えてよ、しーちゃん!」
「それは……」
「それとさっき”なんで、結果しか見えへんねん”とも言ってたよね? 結果しか見えないってどういう意味なの? 見えないって何? しーちゃんは何を見てるの?」

 頭の中がクラクラする。耳を塞ぎたい、目を閉じたい、どこかに逃げてしまいたい。頭の中に昔言われた言葉が木霊する。



   ◆



「あー、バケモノだー」

「バケモノ! バケモノ!」

「もう、バケモノは死ねよ」

「そうだ! そうだ!」

「死ね、死ね、早く死ね!」

「死ね、死ね、早く死ね!」

「死ね、死ね、早く死ね!」



   ◆



「ちょっと待ってよー。あのときってさ、私たちとしーちゃんたちは別々の席だったよね? しーちゃんの声、私には聞こえなかったけどなー」
「いや、だからそういうことじゃなくて、そもそも紅茶を飲む前に、その……」
「ちょっと千紗は落ち着きなよ」
「だって聞こえたの。バンチョにはたまたま聞こえなかっただけで……」
「そうかなー?」

 小早川さんの顔が青ざめていくように見える。

「や、やめてよ。まるで私だけにしか聞こえてなかったみたいに言わないでよ」
「確かに静香はそんなこと言ってたよ」
「えっと、爽太さんはしーちゃんと一緒の席だったんですよね?」
「そうだよ。だからよく聞こえたね」
「そうでしょうね」
「と、とにかく聞こえたのは間違いないの。だから私、紅茶を飲まなかったんだし」
「それはそれでいいんだけど、やっぱり思い出してみてもさー、私には聞こえなかったよ?」
「……だ、だって」

 小早川さんの顔が完全に青ざめてしまった。小さな声で「なんで? どうして私だけ? 嫌、そんなの嫌」と繰り返している。その様子が視界に入ってから、私の視界の揺れは一瞬にして治まった。そのかわり鈍い頭痛がする。最初は驚かれ、次に頼られ利用され、最後は恐れられ忌み嫌われる。それの繰り返し。そう、それの繰り返しだ。

「小早川さん、もしかして耳がいいんと違う?」
「え? う、うん……。私、小さい頃から耳がよくて、たまに聞きたくないことも全部聞こえちゃって……、いや違う。そうじゃなくて」
「そうなの? あー、だから先生が来るのをいつも誰よりも早く分かったりしたのかー。センサーっていうあだ名はあながち間違ってなかったなー」
「やめて! そういうの……」
「バンチョ、そんなこと言わんとき」
「分かってるよー。確かにそれなら聞こえてるかもだね。私は駄目だなー、都合のいいことしか聞こえないや」
「だ、だからその……」
「小早川さん、もう無理に言わんでええよ。うちもバンチョも気味悪がったりしーひんから」
「……」
「あ、思い出した! そう言えばあのとき静香が、爽太のことが大好きとかって言ってた気がする。うん、言ってたな」
「え?」
「え?」
「……安心してええで、それは完全にあんたの気のせいや」



≪/30へ
/32へ≫

スラッシュ\パーティ - /30 -


ハコニワノベル

「し、静香ちゃん?」
「はよ答えてんか? 移動コストなしで、この大広間を出たいねんけど」
「いや、あの、今はバラバラになるよりも、参加者全員で協力をしていくべきだと思いますよ」
「そんな悠長なこと、言ってられへん」
「というか静香ちゃんって、関西弁でしたっけ?」
「細かい話はええ、移動コストなしでここから出られんの? 出られへんの?」

 塗紙一の襟首を揺さぶりながら問い詰めていると「塗ちゃんがタジタジとか、マジウケルー!」という声が聞こえた。

「ねぇねぇ、塗ちゃんってロリコン? それとも何か訳ありとか? これどういう状況なの?」
「舞子ちゃん、これは別に何でもないんだけど、そうは見えないだろうね」
「無理無理ー。これが訳ありじゃないなら、何なの?」
「ちょっと状況は飲み込めてませんがこちらのお嬢さん……、静香ちゃんが移動コストなしでこの大広間から出たいそうなんです」
「ふーん。都合のいい事ばかりとかー、マジでガキっぽいしー」
「関係ないやろ」
「すぐ噛み付いてくるとかー、まさしくガキだしー。理由はあんの?」
「だから関係ないやろ!」
「これだからガキは困るー。目的とかー、理由の説明もできないのにー、自分のしたいことだけ主張する。しかもそれが通らないとなると逆ギレだしー」
「あんたと話はしてへん! なぁ、移動コストなしで移動できへんの?」
「あの、静香ちゃん。少し落ち着いて」
「これが落ち着いてられ……」

 三度目だ。柔らかい。今度は人前か、ってそれこそ一大事だ。早く、一刻も早く引き離さないと。なんでこんなことになるんだろう。

「わー、大胆だねー」
「バ、バンチョ! み、見ちゃ、だだ、駄目だよ」
「いきなりキスするとか何これー、突然過ぎてウケルんですけどー」

 力が入らない腕をなんとか伸ばして、やっとのことで爽太を引き離すことに成功した。もう叫ぶ力も残っていない。視界の先にいる爽太はヘラヘラと笑っている。「お前、なにすんね……」言いかけたところで、静かにするように爽太が「しー」とジェスチャー付きで表したので黙ってしまった。そんな私を満足そうな顔で見てから、爽太はかなりきわどいドレス、いや布切れを着たチャラチャラした女の方へ向き直った。

「僕の静香が失礼しました」
「僕の? なにそれ、あんた彼氏ー?」
「いいえ、静香と一生一緒にいる人です」
「あはは! 婚約者とかそういう系? なんかドラマチックなんですけどー」
「それはどうも」
「別に褒めてないしー。なにこいつ、超面白いんですけどー」
「ありがとうございます」
「だから褒めてないって。まぁいいや、で? 何か用とか?」
「ん?」
「いや、ん? じゃないしー。そっちから話に入ってきたしー」
「え? そうなの?」
「なんなのこいつ、記憶障害って奴とかー?」
「そうなの? ねぇ、静香」
「うちに聞くなや」
「また何かした?」
「したけど教えへんわ。あほらしい」
「まぁ、いいか」
「ちょっと、ちょっとー。ほんとなんなの? 突然話に入ってきて、微妙な空気なんですけどー」
「あ、そうだ思い出した。ねぇ、静香」
「なんや」
「落ち着こう」
「お前に言われたくないわ」
「漫才? ねぇ、これ漫才なの? マジウケルー!」

 悔しいけど、落ち着いてしまった。それよりも悔しいのが自分で自分をコントロールできなくなっていたことだ。いい加減取り乱し過ぎな部分をなんとかしないと、無駄に犠牲を増やしてしまいそうだ。今できることをしっかり考えて、着実にこなしていかなければ。とりあえず、今はこの大広間から出る手段を探そう。

「なぁ、塗紙さん」
「なんでしょう?」
「本当にあらへんの? 移動コストなしでこの大広間から出る手段。もしくは、十枚の力でそれを可能に出来るとか」
「割ちゃんだったら出来るしー。というか、既にやってるしー」
「割ちゃん?」
「割紙氏のことですよ。先程、最後に挨拶した男です」
「あいつか」
「おや? ご存知で?」
「この大広間に入る前にちょっと……。で、その割紙さんはどこに?」
「だからもうこの大広間にはいないしー。割ちゃんがどこにいるとか、誰にも分からないしー」
「なんやねんそれ」
「でー? どうして大広間から出たいとか言ってんのー? 別に出るだけなら移動コスト20分だしー」
「知り合いを助けたいねん」
「お知り合いを? それは静香ちゃんどういう意味ですか? そのお知り合いを助けるのと移動コストに何の繋がりが?」
「……」
「そこをちゃんと説明しないとか、マジでいい加減にしろって感じー」

 横目でバンチョの顔を見た。バンチョは小首をかしげてこちらを見返してくる。眼を閉じて、息を吐き出してから視線を前に戻す。

「この余興、この時計を外したところで終わらへん。たとえ腕時計を外せても意味がないねん。とにかく残り寿命は極力残さないとあかん。移動コストなんかで寿命を減らされたら、生き残ることなんかできへん」
「ちょ、ちょっと、しーちゃん? それどういう意味かなー」
「バンチョ、爆発してるんわ腕時計じゃないんよ。それとこれ見てみ?」
「これって私の腕時計? ってあれ? なんで数字減ってるのこれ? 外れたら止まるんじゃないの?」
「止まらへん。あの尻紙とかいう奴が言っていたルールは嘘や」
「あの、静香ちゃん? どうしてそう言い切れるのかな?」
「最初にあの尻紙とかいう人に爆破された人は無作為に選ばれてへん。その証拠に、現時点でパートナーが爆発したという人はおらん。確認出来る範囲の円卓を確認してみたけど、かならず偶数人数が消されとる。しかもパートナーとペアで爆発してる。それから爆発の仕方、まるで腕時計が爆発するかのような説明やったけど、爆発した人を確認すると全員綺麗に上半身のみが消し飛んでる。体格差や、爆発時の姿勢によっては上半身すべてが消し飛ぶなんておかしいやん」
「あ、あのしーちゃん。それだったら一体何が爆発してるの?」
「小早川さん、まだうちにも何がどう爆発してるのかは分からんけど、体内で爆発は起こってると思う」
「体内? それって爆発物が既に体内に入れられてるということですか、静香ちゃん」
「そうや」
「全員にそんなこと出来ないしー。いつの間に全員の体内に入れたって考えてる訳?」
「……紅茶や」



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スラッシュ\パーティ - /29 -


ハコニワノベル

「や、やった! 外れた!」

 ステージ前に集まった人の中心からそう叫ぶ声が聞こえた。その声の主が高々と振り上げている腕には、時計が外されていることだけが見える。徐々にどよめきが沸き起こって広がり、やがてそれが収まりだすと、まだ確認出来ていない人がわれ先にと人ごみを無理に掻き分けていく。

「今、一名の方の腕時計が取り外せました。そして、皆さんに更なる朗報です。とある素敵な協力者の方のおかげで、更に三枚のカードキーがこちらにあります。お一人ずつ確認をお願いします。それから、一列にお並びください。皆さん共に残された時間は有限です。効率よく確認作業が行えるようにご協力をお願いします」

 一人、腕時計の解除ができたからなのか、塗紙一の呼びかけに対して、大広間内の参加者達は素直に従った。最初の四枚側にできた列の最後尾に全員で並ぶ。前に立つ紫ノ宮泉の姿を改めて見ると、紫色のゴージャスだったドレスはところどころ黒く汚れ、重力を無視して盛られていた髪の毛は、だらんと垂れ下がっている。周りの参加者を確認してみても、誰も同じようにボロボロだ。
 一人、また一人とカードキーの確認をしていく。今この大広間内にある七枚のカードキーのうち、一枚は既に該当者が出ているので残り六枚。私たちがまだ確認できていないのはそのうち三枚だ。並んでいた列の長さが半分になったころ、列の先頭で歓声が上がった。どうやらまた一人、該当者が出たらしい。これで残りは二枚。
 そのまま該当者も出ず、先頭にいた紫ノ宮泉の順番になった。ピー、ピーと虚しく機械音が鳴る。私も、爽太、小早川さんも同じだった。最後にバンチョがカードキーをかざす。ピー。もう聞き慣れた音が鳴る。もう一枚。
 ――ピピッ。聞き慣れない音と共にゴトンと何かが落ちる音がした。

「あ、外れた」

 当の本人がまるで他人事のようにそう言った。しばらくの沈黙のあと、小早川さんがバンチョに駆け寄る。

「バンチョ、良かったね!」
「うーん」
「どうしたの?」
「いまいち実感が湧かないんだけどさー、これって良かったんだよね?」
「当たり前でしょ! これでバンチョは助かるじゃない」
「そうなのかなー」

 小早川さんの方が喜んで見えるのは、きっと無理をしているからだ。バンチョがあまり喜ばないのも、小早川さんを気遣ってのことだろう。床に落ちたままだった腕時計が、小早川さんに蹴られて転がった。その文字盤に表示されている数字が4254から4253になったのが見えた。

「なんでやねん……」

 バンチョから取り外された腕時計を拾いあげて確認する。しばらくすると4253から4252になる。今知り得ている情報を頭の中で整理する。円卓の壊れ方、転がっている下半身の数、残された椅子の数、106、53、今の段階で腕時計が解除された人。この余興のルール。そこまでの情報を整理して、疑問は確信へ変わってしまう。全身を言い知れない寒気が覆う。
 そもそも、爆発の原因はアレだというのに、なぜ安心していたんだろうか。これは、あえて言うべきではない。知り合いからも腕時計が解除された人が出たのだから尚更だ。そもそもそんなこと、どんな顔をして言えばいいのか分からない。――腕時計を外しても意味が無い、なんて。

「静香、どうしたの? また暗い顔してるよ?」
「なんでもあらへん」
「それならいいけどさー、笑ってる静香の方が好きだよ」
「……うるさいな」
「やっぱり静香変だ。そんなに焼きそばが食べたかったなら、もう一回……」
「なんでもない言うてるやろ!」

 一瞬、周りの空気が静まり返った。「ご、ごめん」そう言うことしか出来なかった。

「怒った静香も可愛いね」
「あんたなぁ、ええかげんに……っ! ?」

 突然、目の前に繋がれた手が見える。二人は抱き合うように近い距離にいるみたいだ。片方の腕には腕時計がなく、もう一方の腕には腕時計が見える。その腕時計には957という数字が表示されている。しばらくすると、その二人から徐々に黒煙が立ち上っていくのが見える。ゆっくりと、じれったいぐらいにゆっくりと、その二人の全体が見えてくる。その二人の顔が見えたところで映像は終わった。

「最悪や……」
「ん?」
「なんでや、なんで、結果しか見えへんねん」
「静香?」
「……」

 生きている価値がない。なんのためにこのパーティに参加したんだ。見えていた危険な未来、その被害に知り合いがあわないように守るためなのに。なんの役にも立たない、結果だけ見えても防ぎようがない。しかも二人だ。知り合いが二人、被害に合う。

「静香、気分でも悪いの?」
「……どこや、あれ」
「どこ? あれ? あ、おにぎりはもう全部食べちゃいました」
「狭かったな……」
「僕の心? うーん、そんなことないよ。広すぎて見えないかもしれないね」
「個室か? この館に個室なんてどこにあんねん」
「え、もう二人きりになりたいの? 積極的だね。個室なら、一階の廊下の奥に沢山並んでたよ?」
「一階か。行くしかないな」
「ほんと積極的だね、静香。まだ真昼間だけど、僕としては望むところだから大丈夫。それより、静香は大丈夫? 心の準備とか」
「ちょっと、しーちゃん? おーい。しーちゃんがさ、こういう難しい顔してるときっとアレだねー。ねぇ千紗」
「……」
「ちょっと、ちょっとー。千紗まで難しい顔しないでよ。どうしたの?」
「……変だよ」
「え、僕のこと? まいったなー。だけど静香を愛してる気持ちは本物だよ」
「えっと、多分あなたのことは誰も言ってないと思いますよー?」
「さて、一階に行くぞー」
「うわ、この人はこの人で人の話を聞いてないし。ちょっと、みんな落ち着いてよ、なんか私だけ仲間はずれになんですけどー」

 ステージに向かって走りだす。「ちょ、しーちゃん? どこ行くの?」バンチョの声は聞こえたけれど、振り向きもせずにステージ上に飛び上がる。「おやぁ?」と言った塗紙一の襟首を捕まえた。

「なぁ、移動コストなしでこの大広間から出られへんの?」



≪/28へ
/30へ≫

スラッシュ\パーティ - /28 -


ハコニワノベル

 ステージが近付くほどに、ピーという機械音が何度も聞こえる。「早くしろ」だの「こっちはまだ試してないぞ」という野次も聞こえてくる。その人だかりを避けるようにして、ステージ横へ。「ちょっと待っとって」と三人を待たせてステージに上る。

「おやぁ、これはこれは静香ちゃん。無事でなによりです」
「まぁ、なんとかですが」
「カードキーの確認に?」
「それもあります。それとは別に、これを渡しに」
「おぉ、これは! なかなかやりますね、我々十枚が探しても四枚しか見つけられていないカードキーを三枚も。ちなみにどこでこれを?」
「厨房」
「外に出られたんですか? それはちょっと危険過ぎますよ。もう少し慎重に行動しないと」
「私もそう思います。とにかく、お渡ししましたので」
「ありがたく頂戴しますよ、静香ちゃん」
「あと、一つ聞いておきたいんですが」
「なんでしょう?」
「尻紙とかっていう十枚の残り一人は、どんな人なんですか? 男なのか女なのか、どういったことをしてるだとか、この黒煙はどうやって立ち上っているのだとか」
「それを言われるとですね、ちょっと弱るんですよ」
「なぜですか?」
「実を言うと、我々十枚も今の尻紙一族のトップとは会ったことがないんです」
「どういうことですか、それ?」
「つい最近、トップが入れ替わったんですよ。そして、我々としても今日が初めての顔合わせでもありましたし」
「ということは、誰にもどんなやつなのか分からないということですか……」
「そうなりますね。あぁ、でも尻紙一族について言えることは、絶対に関わらないことです」
「関わらない?」
「十枚には単純な順番である序列とは別に、役割の序列というものが存在してましてね。まぁ、詳しくは言いませんが、尻紙一族と関わるとろくなことにならないことは、間違いないですから」
「そうですか。でも、既にその尻紙一族のトップが初めた余興に関わってますから、どうにもならない部分はありますよ」
「これはこれは、手厳しい」
「ちなみに、この余興のことは主催者側で認識していたことですか?」
「いいえ。どうやら尻紙一族のトップが独断で行っているようです。なので我々十枚は参加者の皆さんをサポートしていくつもりですよ」
「こちらも協力できることは協力します」
「それは頼もしいですね。こちらこそよろしくお願いします」

 カードキーを塗紙一に渡し、ステージから下りる。
 十枚の人間でさえ、今の尻紙一族のトップがどんな人物なのか知らないということらしい。最近トップが入れ替わったということは、以前の尻紙一族トップはどこに行ったのだろう。グループ内でトップ争いをしているという話は、パーティ開催前に聞いていたけれど、どんなふうにトップ争いをして、なにをもってトップが入れ替わるのかまでは分からない。それと、尻紙一族には絶対に関わらないことという言葉も気になる。役割の序列というのが関わっているのかもしれない。

「しーちゃん、あの人と知り合いなのー?」
「あぁ、あれはパーティ開催前に……」
「この泉のパートナーですわ」
「うわ、生きてたんか……」
「皆さんも参加されていたのですね。ご無事でなによりですわ」
「へぇ、紫ノ宮さんも参加してたんだー」
「紫ノ宮さんは無事?」
「伴さん。この泉こそ、パーティにふさわしいのですよ。それと小早川さん、泉は無事ですわ。ご心配なく」
「別に心配してへんわ」
「あら、七ノ宮さん。そちらの男性はどちらさまで?」
「僕は爽太だよ」
「爽太さんとおっしゃるんですね。この泉、いえ私は紫ノ宮泉と申しますわ」
「綺麗な人だね。静香の友達?」
「あら、なかなか正直な方ですわね。七ノ宮さんとは同じクラスで、学級委員長をしております」
「どこが綺麗やねん。今日はいつも以上にケバいわ。……まぁ、無事で良かったけどな」
「少しアクシデントが続いてますが、ご心配なく。この泉のパートナーである塗紙さんが、なんとかしてくれるはずですわ」
「そうなるとええけどな」
「あぁ、そうですわ七ノ宮さん」
「なんや?」
「泉、この煙に見覚えがある気がしますの」
「……それは、気のせいやろ」
「そうでしょうか……。まぁ、今はそんなことを考えても無駄ですわね。泉としたことが申し訳ございませんわ」
「そういえば、あんたの取り巻き二人は無事なんか?」
「龍彦と麻衣子には、まだ出会えていませんの。無事でいてくれると、この泉、信じてますわ」
「あんた、ええ性格してるわ」
「もちろんですわ!」
「まぁ、褒めてへんけど」

 紫ノ宮泉と会話をしつつ、十枚が集めた四枚のカードキーを試す順番を待った。
 適当に相槌や否定をしつつ、さっきの会話の中で浮上した疑問を考える。全国で多発している人が燃える事件、確か瑠衣さんが言っていた話の中で、大半は放火魔みたいな奴が人に火を付けているけれど、中には”そうじゃない事件も起こっている”というのがあった。そのそうじゃない方の事件は私の知る中で駅前の大型書店、上坂市立鳳華中学、そして今いるこの陽碧の館だ。かなり狭い範囲で頻発しているとも言える。一連の事件の犯人は、あの映像の中に写っていた白いフード付きパーカーを着ていた尻紙一族のトップだろうか。少なくとも事情、手段ぐらいは知っていそうではある。
 そこまで考えて冷や汗が出た。仮にこの一連の事件を引き起こした犯人が同一人物であれば、鳳華中学のトイレで若松先生を燃やすことが出来たということを考えれば、かなり身近な人物が犯人ということもあり得る。しかし、あの事件は今のように上半身が吹き飛ばされているわけでもない、そう考えるならば別件だろうか。

「静香ー、なんでそんな暗い顔してるの?」
「ちょっと考えごとしとっただけや」
「焼きそばのおかわり?」
「まったくそんなことは考えてへんわ!」



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