POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ\パーティ - /35 -


ハコニワノベル

「なんでもっと具体的に説明しーひんかってん!」
「え?」
「え? ちゃうわ!」
「説明って何の?」
「そんなもん決まってるやろ、1080分も移動コストがかかることや」
「あー、あれか。もう過ぎたことだし、気にしないことだね」
「気にするわ! 1080分って十八時間やぞ? こんなことなら普通に移動コスト消費してれば良かったやん」
「静香」
「なんや?」
「切り替えて行こう!」
「……」

 小さくガッツポーズをして見せた爽太の後頭部を叩いておいた。こいつといると調子が狂うだけじゃなくて、状況も悪くなっていく気がする。軽く息を吐き出してから、気持ちを入れ替えた。
 槍紙舞子が開けた壁の穴から出て、館の奥へ向かいながら前に見えたものを一つずつ思い出してみる。

 ――繋がれた手、抱き合うように近い距離、片方には腕時計がなく、もう一方には腕時計、957、黒煙。

 自分の腕時計を確認すると2846と表示されている。あの二人のうちどちらか一方は、かなり移動コストを消費しているはずだ。現時点で私よりも移動コストを消費しているとなると、かなりのリスクを負って移動しているに違いない。そうまでして移動する目的が何かしらあるのだろう。それと、あの場所は狭かったように見えた。個室なのかもしれない。確か個室は一階の奥だったはず。それからあのとき見えたのは、視界がゆっくりと塞がれていくような、閉じられていくようなそういう映像だ。

「あ!」
「なんやねん、急にでかい声出すなや!」
「見て見て静香! ほら、あれミウ★マヤだよ」

 そう言ったかと思った矢先、爽太は走り出していた。確かに直角に折れ曲がった廊下の先に、等間隔で並んでいる複数の扉、その扉の一つの前で会話をしている男一人と女二人が見える。
 ――ピッ、ピッ、ピッ。
 突然自分の腕時計が鳴り出す。慌てて確認すると、2843、2842、2841と数字が減っていく。

「あんのどアホ!」

 スキップしながら、嬉しそうに視線の先を走っていく爽太を全速力で追いかけた。

「だから、これは十枚の演出でしょ。我々はさ、何も心配せずにここら辺の一室を借りて、次の出番を待てばいいんだよ」
「だけどマネージャー! ほら、この腕時計の表示がずっと減っていくんですよ?」
「マヤもこれ、演出とかじゃないと思うんですけど」
「これだから新人ってのは面倒なんだよ。いいか、この世界はなしょせん作られた筋書き通りに演じられてるだけなんだ。ぽっと出の君たちには、まだ理解出来ないかもしれないけど、これが現実」
「だけど……ねぇ、マヤ」
「うん。そうだよねミウ。あの、マネージャー。やっぱり不安なんですけど」
「大丈夫だって。それよりもさ、あの十枚とこうしてコネが出来たってことはかなりのアドバンテージだよ。同世代のライバルたちには完璧に差を付けたな。君たちのマネージャーに配属されて最先いいね。ふふふ」
「……」
「……」
「あのー、ミウ★マヤさん! 一緒に写真撮ってもらってもいいですか?」
「え?」
「え?」
「はぁ?」
「あ、すいません。これでちょっと写真撮ってもらえます?」
「へ? あ、あっと! ファンの方ですか? 写真? んー、全然オーケーですよ。あ、でも勝手にネット上とかにばらまかないで下さいね。さっ、ほらほら二人とも! 写真撮りますよ。スマイル、スマーイル」
「あ、はい」
「わ、分かりました」

 視線の先で爽太が女二人に挟まれてヘラヘラしている。腕時計からはやっと音が鳴り止んだものの、数値は2823まで減ってしまっていた。もう歩いても大丈夫だけど、歩く気にはなれない。そのまま逆に加速していく。

「こちらの携帯で? かしこまりました。ではいきますよー、はいチー……」
「お前は、ええかげんにせぇっ! !」

 ――ピロリロリーン。
 間の抜けた携帯の撮影音が、廊下に響く。それからゴンという鈍い音。

「え?」
「え?」
「あ、え?」

 廊下の壁に激突した爽太と、激突させた私の間で男一人と女二人は視線を何度も往復させた。

「勝手に動くな言うてたやろ」
「あー、そうだったっけ」
「あんたわざとやってへんか?」
「うーん、どうなんだろうね?」
「うちが聞いとんねん」
「あ、すいません。写真どうなりました?」
「はっ、え? あ、はい。いやー、これはちょっと、そのー」
「いい写真撮れました? ほぅ……、これはまた綺麗なドロップキックの写真ですね」
「……で、ですね。あの、顔、大丈夫ですか」
「愛のムチですから」
「は、はぁ」

 爽太の耳をちぎれるほど引っ張ってから視線を戻す。男はスーツを着ていて、大きめの手帳を持っている。聞こえていた会話からするに、ミウ★マヤのマネージャーなのだろう。女二人はパーティ開演時に歌を歌っていたミウ★マヤの二人だ。

「お、岡崎さん。とにかくこの後私たちはどうすれば?」
「だから、この辺の部屋を一室借りて控え室として使えばいいでしょ。ほら、ここなんて別に鍵もかかっていないし」
「だけど勝手に入るのは良くないと思います」
「いいって、何か言われてもすいませんでしたで済む話なんだから。んー、ここはちょっと狭いか……。こっちは?」

 岡崎と呼ばれたマネージャーらしき人は、並んでいる扉を片っ端から開けて中に入っては出るを繰り返している。その姿を不安そうにミウ★マヤの二人が眺めている。

「不安に思って正解や。だから下手に行動しないことやで」
「へ? あ、ありがとう。あなたは?」
「そこにいるどアホのパートナーや」
「それより、今言った下手に行動しないってどういう意味?」
「あんたらのマネージャーみたいなことしないほうがいいってこと」
「何か知ってるの? この余興のこと」
「最悪の事態だってことは知ってるで」
「……じょ、冗談だよね?」
「あんたら知ってるんか? かなりの数の人が死んでんねんで」
「嘘! ?」
「余興の説明は聞こえてたし、腕時計も十枚のスタッフさんに付けられたけど……」
「そう言えば私たちが歌ったあとに、変な爆発音が何度もしてた」
「もしかしてあのとき?」
「そうや」
「……」
「……」

 無駄に不安をあおってしまったかもしれない。それからミウ★マヤの二人は口を開かずに、お互いに見つめ合って固まっている。

「とにかく、考えなしに動くと悲惨なことになるで。あ、それと……」
「ま、まだ何かあるの?」
「何?」
「あんたらの歌、うち好きやで」
「へ?」
「ほ?」
「これからも頑張ってな」
『あ、ありがとう!』

 無理やり自分撮りで写真撮影に勤しんでいた爽太を引きずりながら、反対側の角まで移動すると、一階へ降りる階段を発見した。



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