POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ\パーティ - /34 -


ハコニワノベル

 槍紙舞子がすぐ側の壁に対してまっすぐ向かって立った。その横顔からは、今までのチャラチャラした雰囲気はまったく感じられず、どことなくヒリヒリとした冷たい空気を感じる。静かに呼吸を整えているその姿と一緒に、頭の中に映像が流れこんでくる。

「あ、あかん! バンチョ、小早川さん伏せて! 早う!」
「えー? しーちゃんどういうこと?」
「……バンチョ、いいから伏せよう」
「千紗までどうしたのよー」
「いいから、いいから。ね?」

 二人は渋々とその場に伏せる。私も爽太からスルスルと崩れるように床に伏せた。「ん? どうしたの静香」と疑問を投げかけてくる爽太のことは軽く無視しておいた。

「……一蹴必貫」

 まるでダンスのターンのように、槍紙舞子がその場で軽やかに回ったかと思うと、その回転に合わせるように鋭い蹴りを壁に向かって放った。

 ――コツ。

 何事もなかったように、蹴り出した足を元に戻すと「出来たしー」とさっきまでの調子で話しかけてきた。それから数秒後、蹴られた壁から裂けるような音、そしてすぐにその音が砕けるような音に変わったかと思えば、一瞬で消し飛んだ。その衝撃が遅れて周りにある機材や、椅子や机などをそこら中に撒き散らした。
 これをやってのけた張本人の周りには、一切衝撃が来ていないところを見ると、これは無理やり力づくで行ったことではないらしい。守紙真には吹き飛ばされた長机がぶつかっていたが、まるで意に介していない。私とバンチョ、小早川さんは伏せていたおかげで特に目立った被害はなかった。何も知らずに立っていた目の前の爽太には、かなりの被害があるかもしれない。後ろ姿しか見えないが、さっきから微動だにしていない。軽い気持ちで盾にでもなってくれればと思っていたけど、すこし行き過ぎだったか。

「おー、凄い凄い」

 目の前の爽太は、ただ素直にそう言った。

「なにこいつ、マジキモイんですけどー。これだけ機材が飛び散ったってのに、もしかして、無傷ー?」
「ん? なんで機材が飛び散ったの?」
「アタイが今、目の前で壁に蹴り入れたからだしー。さっきの今で覚えてないとか、ウケルー」
「あ、静香見て! 壁にでかい穴開いてるよ。ここから出れば移動キャスト減らないんじゃない?」
「移動コストやろ……」
「アタイらは尻紙を見つけ次第始末することにしたから。そのついでに、あんたらもここから出ていいしー」
「よし……行くか、槍紙舞子」
「当たり前でしょ。十枚の秩序を脅かしたことの罪はー、しっかり償ってもらわないとだしー。それに、新入りに舐められっぱなしじゃ、攻守二枚としてのプライドズタズタ」
「そうだな。例え尻紙一族のトップだとしても、攻守二枚で排除できない道理はない」
「じゃ、アタイらは行くしー。ここは勝手に通ればいいけど、あの尻紙一族のことだから、下手に首突っ込めば命は無いと思うけどね。あはは!」
「一つ忠告しておく。我々の邪魔だけはするな。とばっちりで殺されたいなら別だがな」
「うちらは尻紙のトップ捕まえて、この余興を終わらせるのが目的やねんから、そっちこそ邪魔せんといてや」
「まー、早い者勝ちってやつ? だしー」
「そういうことだな」

 お互いに、壁に空いた直径数メートルはある穴の前で睨み合った。こいつらより先に尻紙一族のトップを探し出して余興を終わらせなければならない。余興を完全に終わらせることが出来なかったら、あの二人があのとき見えた未来のように犠牲になってしまう。未来は変わらないものかもしれない。だけど、確定した未来だと決めつけずに、自分に出来ることを出来る限りでやってみるべきだ。そう強く思った。なんだろう、なんとなく爽太と出会ってから未来に対する諦めが少なくなってきた気がする。そういえば爽太の姿が見えない。

「あー、こいつはやられたなー」

 壁に開いた穴の奥から声が聞こえる。睨み合っていた三人同時にそちらを確認すると、穴の向こう側に爽太が腕組みをしているのが見える。

「またこっちに気付かれずに動いてるしー。ねぇねぇマコちゃん、あいつさー割ちゃんみたいじゃない?」
「確かに。あいつも割紙もどっちも薄気味悪くて嫌なところも似てるな」
「マコちゃん、相変わらず毒舌だしー」
「爽太! 勝手に動くなって何度も言うたやろ!」
「ストップ!」

 しばいてやろうと穴の中へ進もうとすると、向こう側で爽太が両手を前に出して制止してきた。

「なんや? 命乞いでもするんか?」
「違うよ。だけど、こっちには来ちゃ駄目」
「ならあんたがこっちに来たらええ。な? ちょっとしばかれとこか?」
「うーん。それもお断りだね」
「なんやねんそれ。まぁええわ、今からそっちに行くから逃げんなや」
「だから来ちゃ駄目だって」
「やかましいわ。ほな、どないせい言うねん」
「夫婦漫才見てる暇ないしー。アタイらはもう行くからー」
「あぁ、あなた達も辞めた方がいいですよ」
「指図されるの嫌いだしー」

 爽太が制止するのを無視して、槍紙舞子と守紙真は穴の向こうへと行ってしまった。あの二人が先に尻紙一族のトップを片付けてしまえば、安全にこの余興を終わらせることが出来なくなってしまう。これ以上の遅れは致命的だ。壁の穴に飛び込むようにして、私は穴の向こう側へと出た。

「あちゃー。なんで来ちゃったの、静香」
「あほか、これ以上遅れられんやろ……って、なんでやねん」
「やられたしー。なかなかやるじゃん、新しい尻紙のトップ。益々お仕置きしないとだしー」

 穴を抜けた先の廊下側から穴の上を確認する。ため息のような、こらえきれなくなった吐息が漏れた。

「しーちゃん? 私達もそっち行っていい?」
「あかん! 絶対にあかん! 二人は中で待っとって!」
「どういうこと?」
「携帯でまた連絡するから。絶対、この穴は通ったらあかんで! いい? 悪いけど中で待っとってな」
「う、うん。分かった」

 薄目にして、まるで祈るように自分の腕時計を確認した。そこには2853という数字が無機質に表示されているだけだった。もう一度視線を穴の上に戻していく。出来れば嘘であってほしいと祈りながら。しかしそこには、デジタル時計のようなもので1080という数字が表示されていた。



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