POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ\パーティ - /10 -


ハコニワノベル

「あら、静香ちゃん。いらっしゃい。いつものでいい?」
「うん」
「なになに、元気ないじゃない。どうしたの、若い子はイケイケじゃなきゃだめよ?」
「別に元気ないんとちゃうよ、なんというか平凡やなぁって」
「平凡? 日々の生活がってことかしら。それなら平凡でいいじゃない、変化ばかりだとそれはそれでつまらないものよ」
「そんなもんかなぁ……。あ、瑠衣さん。あの店員そこでこぼすから少し離れておいたほうがいいよ」
「静香ちゃんのミルクティーおっ待たせー! とっととと、あ!」

 ティーカップの砕ける音と、トレンチがわんわんわんと回転する音。「ミッチー? そろそろ差し引くバイト代もないんだけど?」という瑠衣さんの声。慌てて後片付けする名物店員。いつも通りの光景で、いつも通りに平和だ。
 入院する前は未来が見えるタイミングが、極端に直前になっていたから、何が起こるのか前もって知ることが出来なかった。ただ、それが楽しくも感じていたのは事実だ。それが退院してからは、またもとの生活に戻ってしまった。この間開催された上坂弓道大会でも見えたままの結果で、個人優勝と団体は下から二番目になった。特に代わり映えのしない日々。見えたことを繰り返すだけの日々だ。

「なぁ、瑠衣さん。なんでもええねんけど面白いことない? 面白い話とかさ」
「んー。面白いことっていうのはね、自分で見付けるからこそ面白いんだよ。まぁ、人によっては鉛筆が転がるだけで大笑いしちゃったりするから、一概に面白いかどうかは言えないっていう側面もあるけどねぇ」
「そらそやろな。うん、ごめんなさい。今の聞かなかったことにしといて」
「ふふふ。あぁ、だけど面白い話と言えば」
「なんかあんの?」
「全国でね、人が燃える事件が多発しているらしいのよ」
「人が燃える?」
「大半は放火魔みたいな奴が人に火を付けてるらしいけど、中にはそうじゃない事件も起こっているらしいわね」
「へぇ……」
「あぁ、こんな話は面白いなんてものじゃなかったわね」
「ううん、ちょっと興味でたわ。おおきに」
「だからって下手に首を突っ込んじゃ駄目よ? 探偵の真似っ子とか危ない目にあうんだから」
「そんなしょーもないことせーへんよ。仮にしたとしても、うちはそんなヘマしーひんし」
「そうだとしてもよ。大人の忠告は素直に聞いておくのが、世渡りのコツよ。静香ちゃん」
「覚えときます」

 今聞いた話は、別に特別な話ではない。新聞やニュースでことあるごとに取り上げられている事件だから、誰だって知り得ることのできる情報だ。ただ一点だけ一般の報道などで流れている情報と違うのは、大半は放火魔まがいの人による事件なのに”中にはそうじゃない事件も起こっている”ということ。これは何かしら有力な情報元から瑠衣さんが聞いた話なんだと思う。つまり、誰かが火を付けたわけじゃないのに人が燃える事件も起きている。あの若松先生のように。
 それから毎日、人が燃える事件のことを人知れず調べるようになった。類似の事件を省いたとしても多発しているこの事件は、もしかしたら若松先生の事件とも繋がりがあるのかもしれない。どこかで核心的にそう思っていた。なぜなら、この事件の未来を見ようとするとはっきりとした未来が見えないからだ。見えるときはどうとも思わないのに、見えなくなると無性に見たくなる。人間という生き物はそういうものかもしれない。新聞、インターネット、テレビ、噂話などの情報収集をしつつ、自分で行動出来る範囲内で事件が発生したときは、事件の現場まで行ってみたりしてみたものの、有力な情報となるものは一切手に入らなかった。そのまま次第に事件の発生頻度は落ちていき、それと正比例するように事件に対する調査熱も冷めてしまった。

「しーちゃん、どうして今日雨が降るって教えてくれなかったのさー」
「うちは天気予報のおねーちゃんとちゃうねん」
「バンチョもたまには自分で天気予報ぐらい確認しようよ」
「だってー、テレビの天気予報よりしーちゃんの予言の方が当たるんだもん」
「だから予言じゃない言うてるやろ。たまたまや、たまたま」
「それにしては的中ばかりだってばー」
「だけどバンチョ、今六月なんだよ? 梅雨時期なんだしさ、雨が降りやすいのは分かってるでしょ」
「まぁそうなんだけどね。おかしいなー、今朝家を出たときはいけるって思ったのにぃ」
「自分を信じた結果なんやからしょうがないやろ。小早川さん、帰ろうか」
「うん」
「ちょっ、ちょっとちょっとー。なにかな? もしかして二人は私を放ったらかしにして帰っちゃうのかな?」
「せやね」
「うん。そうだね」
「ひどいー! 二人とも酷いよー。私泣いちゃうよー。えーん、えーん」
「こっちをチラチラ見ながらなんて、泣かれへんやろ」
「体育座りまでしちゃっても、魂胆丸見えだよバンチョ」
「ちぇ。じゃぁさ、じゃぁさ! 傘に入れてくれないかな?」
「どうせそのつもりだったんやろ? しゃーないから、これ貸したるわ」
「あ、あれれ? 折りたたみ傘! だけどこれを借りちゃうとしーちゃんが」
「うちの傘はこっちにあるから」
「えー! なんで傘二つ持って来てるの? もしかしてさ、私が忘れるのが分かっててわざわざ二つ……」
「ちゃうわ、部室に置いてる置き傘や」
「しーちゃん! ありがとね! んもー、いいこいいこ」
「だから勝手に頭をなでなですなや!」
「うふふー」
「さ、しーちゃんもバンチョも一緒に帰ろう」

 くだらない話をバンチョが繰り広げながらの帰り道。雨が傘に落ちる音、なんとも言えない雨の香り、くるくる回る傘。終りに向かって生きるだけの人生だとしても、こんな日々が続くのなら悪くはない気がした。
 駅前で二人と別れて住宅街を抜けY字路を右に。今日は瑠璃の色には寄らずに真っ直ぐ家へと向かう。強めの雨が降っていて、跳ね返りがすごかったから早く着替えてしまいたかった。自宅の門の中に入り郵便物を確認する。ピザのチェーン店のチラシ、新しく駅前に建つマンションの広告、神社の宮司の家にキリスト教の冊子はどうかと思う。あとは通販関連のカタログだ。と、その中に見慣れない封筒が入っているのを確認した。
 封筒に手を伸ばし手に取った瞬間、持っていた傘を落とした。興味を失っていたはずのあの黒煙が、それも一つや二つじゃない数が見えたからだ。雨に打たれながらその封筒に視線を落とすと、宛名が書かれていない代わりに「スラッシュ\パーティ ご招待状」という文字だけが書かれていた。



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