POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ\パーティ - /09 -


ハコニワノベル

 一階に駆け下りて職員室のある棟へ向かう。渡り廊下を走りきって教職員用トイレの方向へ廊下を曲がった。鼻をつく焦げた臭いと、黒煙が充満しいる。何人かの先生が消火器を持っていたり、近くにいた生徒に避難するように促している。その中にいた黒岬先生に見つかった。

「ちょ、七ノ宮! なんでお前こんなところに来てるんだ。教室に戻りなさい」
「そら無理やわ。それより救急車呼んどいて!」
「へ? 今なんて言ったの?」
「ええから、救急車! それと、そこ邪魔や」

 軽く黒岬先生を押しのけて、先生たちの間を縫うように走り抜ける。教職員用トイレの入り口だと思われる場所からは、もうもうと黒煙が漏れ出している。ハンドタオルで口元を押さえてから、その入口に飛び込んだ。煙で目を開けてられないので目は閉じたまま、呼吸もままならない状況で集中する。見えてきたのは倒れている女子生徒の上履き、場所は一番手前の個室だ。
 薄目を開けて一番手前の個室を確認する。軸足に意識を集中させ、蹴り足をまっすぐ伸ばして高く上げる。少しだけ溜めてから上げたその足を、思い切り個室扉へたたき落とした。鈍い金属音のような音のあと、ドゴっという音とともに個室扉が個室内側へ外れる。さらに扉を蹴り押して個室の中へ入ると、そこに倒れている女子生徒の姿があった。無理やり抱え上げる形で、倒れていた女子生徒をトイレの外へと運び出した。

「うぉ! 七ノ宮、無事か? 他にも生徒がいたのか。さ、ここは危険だから離れなさい」
「あほか、まだ終わってへん」
「そりゃ、まだ消火出来てないしな」
「で、救急車は?」
「さっき消防署に連絡したからじき来る。その子を病院へ連れて行くんだな」
「ちゃうよ。もう一人の方」
「もう一人?」
「ええから、それ貸してもらうで」
「お前消火器持ってどうするんだ……ってまさか」
「先生はこの子頼むわ。ほな」
「いや、いやいやいや! もう入るなって、危ないぞ」

 抱え上げていた女子生徒を渡し、黒岬先生が持っていた消火器を奪い取る。大きく息を吸い込んでから、再びトイレの中へ。今度は躊躇なく一番奥まで進み、さっきと同じように個室扉に踵をたたき落とす。すると、さっきよりも簡単に個室扉は外れた。熱気と黒煙が溢れ出てくるその中に、背中を燃やしながらうつ伏せに倒れている女性を確認した。
 残念ながら、今から消火したとしてもこの人は助からない。しかし、消火しなければ焼き尽くされて、見るも無残な姿になってしまう。死という結果が変わらないとしても、せめて無残な姿にはしたくない。安全ピンを抜き、ホースの先端を個室内に向ける。思い切りレバーを握ると、勢い良く消火剤が個室内へと噴射された――。

「あのな、七ノ宮」
「なんですか?」
「いや、まぁいいか。結果として無事に一人助けたんだしな」
「せやろ?」
「だけどなぁ、教育者としてはそれで済ませるわけにはいかないんだよね」
「難儀な職業やな」
「とにかくだ、先生の言う事は聞きなさい。それと、勝手な行動を慎みなさいってことだよ」
「ええやんか、結果オーライやろ」
「だからさ、それはそうなんだけどって話。分かった?」
「はーい」

 病室から黒岬先生が出て行く。あの日から三日、私はここ上坂西病院で入院している。消火器を持ってトイレに突入したあと、どうやら煙を吸い込み過ぎて倒れたらしい。あのとき、一番奥の個室内で燃えていたのは若松先生だったということは、後で聞いた話だ。ただ、あのときに見えていたから知ってはいたけれど、病院に搬送されたときには既に亡くなっていたことも聞いた。出火の原因はタバコらしく、学校側はそういうことで既に処理をしてしまったらしい。私は参列出来なかったけれど、他のクラスメイト全員は若松先生の通夜に参列したとのことだった。顔は綺麗なままだったという話をバンチョと小早川さんに聞いて、不謹慎かもしれないけれど少しだけ嬉しく思った。それだけでも消火器を噴射した甲斐があったと思いたい。
 出火原因と言われているのはタバコだけれど、あの出火の原因はタバコでないことは間違いない。ただそれについては、今はまだ何も言わないでいる。
 静かな病室にコンコンというノック音が聞こえる。返事をしかけて一気にうんざりしてしまったのは、黒岬先生の他に毎日お見舞いにやって来る人物だということがすぐに分かったからだ。何も応えていないのに、スライド扉が開けられた。

「失礼しますわ」
「また来たんかい」
「あら、この泉の命を救って頂いたお礼は、どれだけ言っても言い足りません」
「だからって毎日来んなや、うっとうしい」
「照れなくても良くってよ?」
「良くってよ? ちゃうわ。ほんま、あんたやって分かってたら助けへんかったのにな」
「何をおっしゃってるのかしら? この泉を助けるという素晴らしいことをしたのですから、誇りに思って下さればいいだけです」
「はぁ……、さいですか。あのさ、来てすぐで悪いんやけど、もう帰ってくれない? ちょっとしんどいし」
「そうですね、長居して回復に支障をきたすわけにはいきませんもの。要件だけお伝えしたら、すぐに帰らせて頂きます」
「要件?」
「これが、今日の授業で取っておいたノートですわ。この泉との差がこんな理由で開いてしまうのは不本意ですものね」
「逆ちゃう? 差は縮まると思うで」
「それからこれは……」
(今のスルーしてまうんかい!)
「クラス全員で作った千羽鶴。ちなみに、この一番黄金に輝いている鶴は、この泉が折ったものですわよ」
「いや、その情報は一切不要やろ……、まぁええわ。おおきにって伝えといてや」
「かしこまりましたわ。それでは泉はこのへんで失礼致します。一日でも早く退院されるのを、心待ちにしておりますわよ」
「まぁ、ぼちぼち頑張ります」
「それでは、お大事に。ご機嫌よう」

 あの日、一番手前の個室で倒れていたのは紫ノ宮泉だったらしい。必死だったので誰かまでは確認していなかった。なぜ教職員用トイレにいたのかと聞いたら「ウォシュレットが付いているのは、あそこだけですわ」とか言っていたので、あのまま燃えていても良かったんじゃないかと思う。その理由を聞いたときに「やっぱり、ただのあほやんか」と言ってしまってから面倒になり、そのとき一緒にいた黒岬先生と紫ノ宮泉に対しては、標準語で話すのを辞めた。
 翌日、私は退院して、翌週からいつもの生活に戻ることになった。



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