POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ\パーティ - /08 -


ハコニワノベル

 一限目、二限目と授業が終わるごとに未来を見ようとしたものの、朝から変わったものは見えなかった。そう言えば、積極的に未来を見ようとするのは久しぶりで、どうも上手く出来ていない気がしてならない。こんなことなら未来を見る訓練もしっかりしておけば良かった。嫌でも見えるものなので、出来れば見えなくなって欲しかった。今みたいに中途半端に見えるぐらいなら、もっとしっかり見える方がいいのかもしれない。
 昼休みに三人で昼食を食べた。中庭にある三人がけのベンチに座って、それぞれの昼食を広げた。バンチョは相変わらずピーナッツパンを取り出してかじる。毎日飽きずによく食べられるものだ。栄養バランスはどうなんだろうと心配してしまう。小早川さんはいつも彩り鮮やかでバランスのよい食材が綺麗に詰め込まれた可愛らしいお弁当。私のは毎朝三杉さんが三段重ねのお重にお弁当を作って持たせようとするのを断って、その中から調度良い量を別の弁当箱に詰めて持ってきている。母がいないことと、お弁当の見た目だけで料理上手だと判断されているけれど、私は料理がまったく作れない。調理中に未来が見えると全てのタイミングが狂ってしまうのと、失敗するのが見えるとそこで作るのをやめてしまうからだ。失敗すると分かっていることを、そのまま継続するような無駄なことはしたくない。

「ねぇ、しーちゃん。特に何も起きない平和な一日だよー?」
「何も起きないなら起きないでいいんじゃない」
「……せやね」

 何度も何度も見えている黒煙は、間違いなくこの学校のトイレで立ち上る。それがいつなのか、どこのトイレなのかが分からない。もしかすると、今日じゃないのかもしれない。
 そのまま何事もなく昼食を終え、教室へ向かう。中庭から渡り廊下に入り、階段を登る。教室のある二階の廊下は昼休みなだけあって、どたばたと騒がしい。教室に入ろうとしたところで、小早川さんが申し訳なさそうに口を開いた。

「しーちゃん、トイレに行ってもいいかな?」

 軽く頷いて応え、三人でそのまま教室を通り過ぎ、二階の女子トイレの前まで移動した。入り口を凝視しながら集中する。「し、しーちゃん?」と小早川さんの何度目かの呼び掛けに「ええよ、ここは大丈夫そう」とだけ言っておいた。実際はここが大丈夫なのか、はっきりとは見えていない。トイレだというだけで女子トイレを想像していたけれど、男子トイレで黒煙が上がる可能性だってあるはずだ。好き好んで男子トイレの中に入ったことはないけど、そんなに作りが違うとも思えない。
 女子トイレの入り口を見ながら考えていると、隣にいたはずのバンチョがいないことに気が付いた。左右をきょろきょろと見回していると、耳障りで高飛車な声が聞こえてきた。

「あら、七ノ宮さん。こんなところで何をなさってますの?」
「……」
「さっきから辺りをきょろきょろと。いつもの落ち着きがなくってよ」
(なくってよとちゃうわ、相変わらず話しかけられるだけで疲れるやつやな)

 よく見れば、いつも側にいるはずの御影龍彦がいない。いるのは金原麻衣子だけだ。

「人を待ってるだけだから」
「そうでしたか。泉には誰かを探してるように見えましたわ。あなたにもそう見えたでしょう、麻衣子」
「は、はい」
「……」
「あなたともっとお話したいところですが、先を急ぎますので失礼」
(別にこっちはあんたとなんか、これっぽっちもしゃべりたくないけどな)

 モデルのような歩き方で目の前を通り過ぎて、紫ノ宮泉と金原麻衣子は行ってしまった。行き先は教室だろう。バンチョも先に教室へ戻ったのかもしれない。

「ごめん、お待たせ」
「べつにかまへんよ」
「あれ? バンチョは?」
「急にいなくなったんよ」
「バンチョ、待つの苦手だからねぇ」

 小早川さんと一緒に教室の方へ歩き出した瞬間。目の前に鮮明に立ち上る黒煙が見えた。振り返ってさっきのトイレを凝視する。「ここじゃない」教室へ向かって走った。後ろから「し、しーちゃん? どうしたの?」という声だけ残して教室の中を確認する。バンチョがいない。教室を突っ切って窓を開けると、また黒煙が見えた。ただ、それは未来じゃなくて本当に立ち上っている黒煙だ。焦げた臭いが鼻をつく。黒煙は一階から立ち上っているらしい。踵を返したところで小早川さんとぶつかりそうになった。

「わ! しーちゃん、さっきからどうしたの? ってなにこの臭い」
「燃えてる」
「燃えてる? え? どういうこと?」
「小早川さん、バンチョ見てない? 先に教室に戻ってると思ったのに……。うち、ちょっと探してくる」
「あ、しーちゃん! ちょっと!」

 もし、この黒煙にバンチョが巻き込まれていたとしたら、私は本当に生きている価値がない。何が未来だ、見えたとしてもアクシデントを回避できず、他人も巻き込んでしまうなら、こんな力なんて無意味だ。十年前と何一つ変わっていない。抵抗しても、対策を講じても、逃げても結果は大きく変わらない。コースすら変えることが出来ないのなら、生きていくだけ無駄だ。十年前と同じ結論にしかならない。何度も見えた自分の人生は、十年前の時点で既に見飽きている。その見飽きた未来を何一つ変えられないのなら、生きていくことさえ苦痛だ。決まっている未来を変える唯一の方法は、自ら死を選択する以外にない。
 自分自身に吐き気を覚えながら、教室を飛び出したところで力が抜けた。視線の先に、ピーナッツパンを持って呑気に歩いているバンチョが見えたから。

「バンチョ、なにしててん!」
「ん? あ、部活の前に食べるパンを補充するの忘れてたからさー。千紗待ってる間に買ってこようと思ったんだよね。ちょっと購買が混んでて遅くなっちゃったけど」
「心配さすなや」
「心配? なんで?」
「……」
「しーちゃん? ほら、私は大丈夫だよー。元気元気! てかさ、何か臭うね。焦げ臭い感じ」
「どっかのトイレが燃えてんねん」
「トイレ? どこの?」
「しーちゃん! あ、バンチョ! 良かった無事だったんだね」
「無事? 別に危ないことはしてないよ? ちょっと購買でパン争奪戦してただけだし」
「しーちゃん。あの煙、一階から出てるみたいだよ」
「煙? わ、なんだあれ」

 ジリリリリリリリリ!
 非常ベルが鳴り響く。それと同時に目の前に鮮明な未来が見えた。確認と同時に走る。「しーちゃん、どこ行くの!」バンチョをかわして一階の教職員用トイレへ急ぐ。昨日の本屋で見えたのと同じモノが見えた。燃えているのは物じゃなくて、人だ。



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