POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ\パーティ - /06 -


ハコニワノベル

 真っ黒な何かが私にぶつかる。尻もちをついて見上げた先に真っ黒な何かがいる。徐々にその真っ黒な何かが私に近付いてくる。じりじりと後退りしているけれど簡単に追いつかれ、ついにその真っ黒な何かが私を――。

「夢……ちゃうな、未来か……」

 時計を確認すると午前四時を回ったところだった。最近ははっきり見えるようになっていた未来だったので、今見えた未来はちょっとだけ新鮮に感じる。さっき見えた未来にはまったく覚えがない。つまり、今まで見えていた未来が変わるような、何かしらの変化が、私に関係するどこかで既に起きたということだろう。それでも、最終的にたどり着くはずの未来は大きく変わらない。結局ゴールは同じで、少しコースが変わったぐらいのことだろう。今までにも、多少の変化はあった。私が自分の人生に幕を下ろしていないのも、その些細な変化の一つに過ぎない。そう、最後はどうせ変わらない。
 起床時間までしばらくあるので、そのまま眠ろうと目を閉じてはみたものの、空腹過ぎて眠れそうにない。特にすることもなく手持ち無沙汰だったので、古いアルバムを引っ張り出した。産まれたばかりの自分、それを抱きかかえて笑う父。静香と達筆な字で書かれた半紙を持つ祖母。誕生日のケーキを食べる自分。七五三で着飾った自分。幼稚園の入園式、卒園式。小学校の入学式、運動会、遠足、修学旅行、卒業式。中学の入学式、ついこの間遠足で行った、上坂植物園での写真。一緒に写っている黒柳徹子みたいな人は、園内の案内をしてくれた人だ。控えめだけど綺麗なブルーセレストのスーツに、上品なバラのフレグランスを付けた人で、とても丁寧な案内をしてくれた。数年後には部長クラスになるのは間違いない。それから、教室で窓を眺める自分。これはバンチョが勝手に撮った一枚だ。
 ただ、このアルバムに母の写真は一枚もない。それどころか、私が産まれる前のアルバムにだって母の写真はない。私は母から産まれたのは間違いないけれど、母の顔は一度も見たことがない。親族の噂では既に死んでいると思われているが、母は姿を消しただけだ。私を産んだ日に産院からいなくなった。ただ姿を消しただけでなく、自宅に置いてあった母に関係する、ありとあらゆるものを処分したか、または持って行ってしまったので、突然姿を消したのではなく、前々から姿を消すことを決めていたのだと思う。母に対しては父も祖母も「いつか帰ってくる」というようなことを言っているけれど、母が帰ってくる未来は見えたことがないので、母はずっと帰って来ない。これからもずっと。

 六月の雨はちょっとセンチだけど
 こっそりお揃いにしたんだよ
 君と一緒の青い傘

 目覚ましのアラーム用にマナーモードを解除していた携帯電話が突然鳴り出した。こんな早朝から何事かと確認しようと手を伸ばすと、鮮明な映像が見えた。「だからちゃんと繋がなあかんって言うたのに」携帯電話の画面を確認すると、伴千代の文字。しかもメールではなくて着信だ。まだ四時半にもなっていないというのに電話してくる神経が少し羨ましい。

「……」
「あ、え? 繋がってるかな? しーちゃん! 朝早くからごめんね! あのね! あのね! のびたが、のびたがいなくなっちゃったの!」
「……」
「ちゃんと繋いでたと思ってたリードが外れちゃったみたいで……」
「……だから?」
「え? あの、あのね。しーちゃん、メールで忠告してくれたでしょ? ちゃんとリード繋げなさいって」
「……」

 ――最初は驚かれ。

「もしもーし? 聞いてるかな?」
「……だから、何?」
「あの、だからね、しーちゃんの予言が当たったんだよー」
「たまたまでしょ。それをわざわざ報告するために電話したの?」
「ちがーう! しーちゃんに聞いたら分かる気がしたの」
「……何が?」
「のびたが今いる場所! しーちゃんの予言は当たるんだよ!」
「たまたまだって」
「たまたまなんかじゃないってば! ほら、昨日の数学、宿題の問いの二! あれも当たったもん」
「……そ、それは偶然だって」
「それなら偶然でいいよ! 今、いろいろ探したんだけど八方塞がりなんだよー。お願い! しーちゃんが今思い付く場所を教えて!」
「……」

 ――次に頼られ利用され。

「ほんと何でもいいんだ、方角だけでもいいからさー、お願いします!」
「……」
「しーちゃん、お願い! わらをもすがる気持ちなんだよー」
「……」
「この通り! お願い、お願い!」
「……いつも散歩してるコースを逆に進んでみたら?」
「うん! 分かった! ありがとね、しーちゃん!」

 そこで突然電話は切られた。終話音が虚しく鳴り続ける携帯電話を閉じる手が震えている。
 ――最後は恐れられ忌み嫌われる。それの繰り返し。

「ま、しゃーない。どうせ繰り返す未来だったんやろ」

 自分に対して鼻で笑って携帯電話を枕元に置こうとすると、また携帯電話が鳴り出した。恐る恐る出てみる。

「しーちゃん! ありがとー! いたよいたよ! のびたいたよー! 飼い主もいないのに勝手に散歩しちゃってましたよ、まったく心配したんだぞーのびた。それでも今日も可愛いなぁ!」
「……」
「ほんとしーちゃんの予言は当たるよね。びっくりしちゃったぜー。ほら、のびた! あんたもお礼言いなさい」
「たまたまいて良かったね。それじゃ……」
「待って待って!」
「何?」
「……しーちゃん怒ってる?」
「何に?」
「いや、なんか急に他所他所しいしゃべり方になったというか、声のトーンっていうのかなー」
「……べ、別に」
「ほ、ほら! 今の、今のだよー」
「……」
「私、何か怒らせちゃうようなことしたかな?」
「……別に」
「ほんとにほんとー?」
「まぁ、こんな朝早くに電話されるのはちょっとね……」
「あ! う! そ、そりゃこんな朝早くからは迷惑かなぁとは思ったけど……」
「けど?」
「その、大丈夫だって思ったんだよぅ」
「大丈夫? 何が?」
「今朝、のびたと散歩しようと思ったらのびたがいなくて……」
「いなくて?」
「必死に探したけど見つからなくて……」
「見つからなくて?」
「そうだ、しーちゃんに聞けばきっと見つかるかも! って思って……」
「思って?」
「朝早いけど、電話しても大丈夫だって思ったんだよぅ」
「だから、なんで大丈夫だと思ったの?」
「だって……」
「だって?」
「だって、しーちゃんとは友達だからさ!」

 なんだろう。何かで頬が濡れた気がする。きっとあくびをしたせいだ。



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COMMENT

●じゅじゅさん

この時点ではマリモ課長だったりするんですが
常にあのマッシュルームヘアだったわけですねw

マリモ部長!あのヘアスタイルは筋金入りなんですね、恐れ入りました^-^

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