POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ\パーティ - /04 -


ハコニワノベル

 しばらく部活についての話をしてから、弓道場を後にした。ブラスバンド部が鳴らしているだろう楽器の音と、運動部の掛け声がそこら中に響いている。その音を聞きながら旧校舎を通り抜け、渡り廊下を通り昇降口へ。靴を履きかえて校門を出た。
 既に柔らかい日差しになってきているので、周りには同じように帰宅する生徒がチラホラと見える。その流れに合わせるように自宅の方へと進む。「また明日ね」と言った声が聞こえる度に、羨ましくなっている自分がバカバカしい。交差点に差し掛かったので駆け足で歩道橋に上った。夕方の風が心地よく感じて、小さく深呼吸を一度。気を取り直してまた歩き始める。
 気分転換に本を買って帰ろうと思い、駅前にある大型書店へ向かおうとした瞬間に、いつもの映像が見える。大型書店の一角から黒煙が立ち上っている。ボヤか何かだろう。あいにくそういったアクシデントに対しては極力関わらないようにしているので、大型書店に寄るのは辞めて、帰宅することにした。
 駅を越えると住宅街が広がり、通行人の数も一気に少なくなってくる。スーパーで買い物をした女性が自転車で行き交うのを何度か見かけながら歩く。住宅街を抜けた場所にあるY字路が見えた。ここを右に行けばすぐ自宅なのだけれど、左側へ少し進んだ場所にある喫茶店に入った。

「いらっしゃい。あら、静香ちゃん。おかえり」
「ただいま、瑠衣(るい)さん。いつもので」
「かしこまりました」

 ここは瑠璃の色という喫茶店で、レトロな雰囲気の静かな店だ。店長の瑠衣さんはいつも和服を着ている。今日のはすみれ色に白い帯だ。ちなみに本名は何度聞いても教えてくれない。瑠衣が本名かどうかも怪しい。まったくの謎だ。厨房の奥へと移動して行く瑠衣さんを見ながら、いつも座っている窓側一番奥の席に座った。
 この店にはもう一人名物店員がいる。その店員がそろそろ来る頃なので、一度座ったものの、立ち上がって三歩ほど席から離れておいた。

「静香ちゃん! おまた……あぁっ!」

 派手な音を立てながら、私が頼んだミルクティーは、さっきまで私が座っていた席中にぶちまけられている。厨房の方から「ミッチー、またやったな!」と少しドスの利いた瑠衣さんの声が聞こえる。

「ごめんなさぁい! あちゃー、またやっちゃったよ。静香ちゃん、汚れなかった?」
「大丈夫。分かってたから」
「そっか、それなら良かった。超特急で作り直してくるから、待っててね!」

 盛大にこぼれたミルクティーの後片付けをしてから、名物店員である彼女は厨房へと戻って行った。彼女の名前は山城美知留(やましろ みちる)。愛称はミッチーらしいけれど、瑠衣さん以外からそう呼ばれているのを聞いたことがない。一日に両手では足りないほどに飲み物をこぼすという、この店の名物店員だ。いつもスカイブルーと白のストライプ柄のエプロンを着けているのだけれど、そのエプロンだけはまったく汚れないという、こぼしのプロだ。ちなみに、さっきのは予め見えていたので避けておいた。ミルクティーがこぼれた席の向かい側に座り直す。

「静香ちゃんごめんね、遅くなりました」
「おおきに、瑠衣さん。あの人は?」
「今お仕置き中」
「そっか」
「んで、中学生活はどう? イケイケ?」
「イケイケて、それはないわー」
「あら、最近の子はそういうの言わないのね。じゃぁ、イケメンはいる?」
「おらへん、おらへん。将来イケメンになるのはおるけどな」
「将来の有望株はいるのね。いいわね、そういうイケイケなの。羨ましい。ゆっくりしていっていいけど、あまり遅くならないうちに帰りなさいね」
「はーい」

 この店のいいところは圧倒的に客が少ないところだ。まぁ、あの名物店員のおかげか興味本位で来店する客は後を絶たないものの、常連になる人はほとんどいない。これで経営が成り立っているのは、夜になるとバーになることが大きいのだろう。夜は名物店員もいないので、近所の常連客で賑わっているらしい。夜の八時以降は未成年お断りらしいので、夜八時以降の店の姿を私は知らない。くだらない酔っぱらい達の会話から察するに、瑠衣さんが歌って踊るパフォーマンスが最高らしい。確かにあの大人の魅力たっぷりで、大和撫子な瑠衣さんが歌って踊るのなら、最高と言っていいのだろう。聞いた話ではあるけれど、どうやら瑠衣さんは最終的に脱ぐらしい。どういう意味かは分かるけど、知らないことにしておく。
 ミルクティーをゆっくり飲みながら、今日出された国語と社会の宿題を片付ける。家に帰ったら弓の稽古があるので、宿題が出された日はここで片付けてから帰るのが日課になっている。
 静かな店内に、私の携帯電話から鳴り出した若い女の子の声が響きわたる。

 六月の雨はちょっとセンチだけど
 こっそりお揃いにしたんだよ
 君と一緒の青い傘

 最近売り出し中のアイドルユニットのCDデビュー曲らしい。無音でバイブのみにしていたのを、バンチョが勝手に設定したらしい。確証はないけれど、確信はある。どうやらメールを着信したみたいだ。届いたメールを確認すると「お散歩中」というタイトルのみで、バンチョとそれから今朝見せられた犬が、一緒に写っている写真が添付されていた。その写真を見るのと同時に、別のものも見えたので、軽く返信しておいた。

 件名:Re:お散歩中
 本文:帰ったらちゃんとリードを繋げなさい

 件名:珍しい!
 本文:しーちゃんから返信きたの2回目だヨ!
    いつもちゃーんとリード繋いでるから大丈夫
    !!
    ありがちょ

 返信した直後に再度返信メールが来た。間違いなく大丈夫じゃないけれど、これ以上助言する意味はない。そのまま携帯電話をマナーモードにして、宿題の残りを片付けていく。

「静香ちゃん、何してるの?」
「宿題や、宿題」
「何か分からないところがあったら、私が教えてあげるよ!」
「断る」
「なんで? 遠慮しなくてもいいのに」
「分からないところはないから」
「強がっちゃってぇ。ほら、お姉さんに見せてごらんってば。なになに、この主人公は最後の決断をしたときに何を思ったか? ……あぁ、ごめんごめん。私、理数系が得意だから文系はちょっとお手伝い出来ないや」
「別に頼んでないしな。あ、それから、そろそろ戻った方がええで?」
「大丈夫、大丈夫。バレないバレない」

 そこでまた厨房から瑠衣さんのドスの利いた声が聞こえる。

「ミッチー! あんたまだ皿洗い終わってないのに、油売ってんじゃないでしょうね! ?」
「すぐ戻りまーす!」

 雷に撃たれたように飛び上がってから、名物店員は私が飲み終えたミルクティーのカップを持つと、厨房へと吸い込まれて行った。そしてカップが割れる音がして、ドスの利いた声の雷が落ちた。



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COMMENT

●ミッチーさん

本当は、第一部で生存している人は
新しいキャラにしないようにしようと思ってたんですが
ちょっとアクセント的に入れちゃえと思いましてw

実在したとすれば
絶対に見たい店員さんですよねw
(一度きりだろうけどwww)

名物店員てwww
笑えたw

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