POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ\パーティ - /02 -


ハコニワノベル

 教室の入口が見えてくる。それと同時に別のものも。

「今日は部活動か……」
「え? しーちゃん何か言った?」
「なんでもない。二人とも先に行っててくれる? ちょっとお手洗いに……」
「はーい」
「まふぁ、あふぉでねー」
「こら、お口の中にものを入れながらしゃべらないの」
「ごふぇんなふぁい」

 軽く手を振って二人が先に教室に入っていく。私はトイレに向かうと洗面所で顔を洗った。このあと教室に入るといつもの調子で彼女がやってくる。しっかりここで気合を入れておかなければならない。いや、気合を入れると言うよりも、気を緩めないようにしなければ。どうしても彼女のような人間を相手にしていると、地が出してしまいやすくなる。何が起こるのか分かってはいたけれど、今朝は面倒なことが続く日だ。ハンドタオルで顔を拭き終え、鏡に映る自分を少し哀れんだ目で見てからトイレを後にした。教室に入り、廊下側の後ろから二番目の席に着く。すると、すぐに高飛車な声が聞こえてきた。耳障りにも程がある。

「今朝は随分とごゆっくりなさってますわね、七ノ宮さん」
「……」
「おい、七ノ宮。泉さんが話しかけてるのに無視するなよ」
「いいのよ龍彦。朝からこの泉に話しかけられて、驚くのも無理はないもの。そうでしょう、麻衣子」
「あ、は、はい」
(せやな、朝っぱらからあんたに話しかけられると疲れるしな)

 今時お水なご職業のお姉様方ぐらいしかしていない、くるくると無駄に巻いている髪型で、高飛車が服を着て歩いているようなこの女は紫ノ宮泉(しのみや いずみ)。残念なことにこのクラスの学級委員長をしている。家が資産家らしく、言葉遣いや態度にはかなりの問題があるものの、教養高く、バレエや乗馬といったセレブなお稽古で鍛えられた運動神経を持ち、ピアノやヴァイオリンなどもたしなむ絵に描いたようなお嬢様。更に付け加えるなら、曲がったことや間違ったことを嫌い、弱きを助け強きを挫くを地で行くクラスや学校内に一人はいるヒーロータイプの人間。これで性格が良ければ非の打ち所の無い素敵なお嬢様だったのだけれど、そこは天が与えてくれなかったのだから仕方がない。
 この紫ノ宮泉に絡まれるようになったのは、先月の中間テストの結果のせいだ。多少間違えておこうと適当に間違った回答を埋めていたというのに、クラス内どころか学年で一位の成績を収めてしまった。今時そんなことをしなくてもいいのに、テスト結果を貼り出すのがこの中学の決まりらしく、無駄にでかでかと貼り出された。それを見た紫ノ宮泉が「この泉より上位に入る方がいらっしゃるなんて、信じられませんわ。あなた、この泉のライバルですわね」とか話しかけられてから、三日に一度はこうして絡まれている気がする。

「それで、七ノ宮さん。あなた部活動はどこに所属するかお決めになって?」
「……」
(ほらきた、ほんま何でもかんでも絡めばいいと思ってんとちゃうか)
「おい、七ノ宮。聞いてるのか?」
(お前は黙っとけ)

 毎回、紫ノ宮泉の後で繰り返すように言い寄ってくるのは、紫ノ宮泉の取り巻きで、同じクラスの御影龍彦(みかげ たつひこ)だ。本人と紫ノ宮泉は気付いていないだろうけれど、この男、紫ノ宮泉に惚れている。クラス全員がそれに気が付いているのは間違いない。恋愛感情的な憧れからか、紫ノ宮泉への異常な忠誠心はまるで下部、いやまさに犬のような存在にしか見えない。しかもよく吠える。それから、この二人の影に隠れるようにしているのは金原麻衣子(かなはら まいこ)。図書委員をしていて物静か。いかにも目立つことが苦手なタイプだ。この金原麻衣子がなぜ紫ノ宮泉とつるんでいるのか理由が分からなかったのだけれど、先日、バンチョが仕入れた話によれば、金原麻衣子は紫ノ宮泉と幼馴染ということらしい。ふむ、どんな過去であれ、過去を知るのは面白い。

「まだ決め兼ねてらっしゃるのかしら? この泉、既に五つの部活動に入部致しましたわよ。龍彦、説明して差し上げて」
「はい。まず陸上部、それからバレー部。弦楽部に、演劇部、更に茶道部です」
「いかがかしら?」

 何がいかがなのかは分からないけれど、どうやら所属する部活数で私に勝ち誇りたいらしい。沢山所属すれば勝ちという発想が既におかしい。このまま無視を決め込んでいても、解放してくれないのは既に見えているので、ここは素直に答えてやるとする。

「決めてる」
「あら、それは何部で、いくつ所属されるのかしら?」
「弓道部」
「それだけですの?」
「そ、弓道部だけ」
「せっかくお決めになった部活動ですから、あまりこういう話はしたくないのですけど、この鳳華中学の弓道部は設備も環境もよろしくなくってよ?」
「別にいいよ」
「泉は、あなたの有意義な中学生生活を心配して助言差し上げてますのに」
「あほか、大きなお世話や」
「え?」
「……大きなお世話」
(どうにも修行が足らんな、言葉遣いに気を付けんと)
「ふふん。これはごめんなさい。あなたがお決めになったことに横から口を挟み過ぎましたわね。行くわよ龍彦、麻衣子」
「はい」
「は、はい」

 勝ち誇ったように縦巻きロールを揺らしながら、まるでモデルのような歩き方で自席へと紫ノ宮泉とその他二名は戻っていった。まだ朝礼も終わっていないというのに随分と疲れた。

「しーちゃん、お疲れー」
「……」
(バンチョ、ほっぺにピーナッツバターついてるで)
「お疲れのところ申し訳ないんだけどさー」
「宿題は見せない」
「な、なんで分かったの? あれ? 私まだ何も言ってないでしょ?」
「顔に書いてある」
(主にほっぺにやけどな)
「え? ほんとー? うーん。仕方ないなー……、千紗ー宿題見せてー」

 パンを食べ終えたからなのか、更にエンジン全開なバンチョは元気よく小早川さんの席へ走っていった。残念だけど、小早川さんも宿題は見せてくれない。もっと言うと自分で解こうとしない限り、今日これからの未来は変わらない。

「今日はセンサーって二回呼んだから駄目!」
「そんなー、いけずー」
「さっさと自分で解きなさいって。……んあっ! バンチョ、先生来るよ!」
「ほら、やっぱりセンサーじゃん」
「怒るよ?」
「ごめんちゃい、ごめんちゃい」

 チャイムと同時にざわついていた教室が少しずつ静かになっていく。それぞれが自分の席に着席すると、教室の入口が勢い良く開けられた。

「みんな席に着けよーって着席してるな、偉い偉い。じゃぁ委員長、号令頼む」
「起立、礼」
『おはようございます』
「着席」
「ふぁぁあ、先生ネットゲームやり過ぎで眠いけど、みんな元気か? おし、出席取るぞー。安達、磯部。磯部? あれ? 磯部は遅刻か? 仕方ないな。遠藤、片岡……」

 いつも通り、何も変わらない。変えることのできない一日が始まる。一限目の国語が始まってから磯部が教室に入ってくる。遅刻の理由は嫁のサポートがどうとかだ。二限目の数学で宿題を一問ごとに当てられて回答する。問いの二はバンチョが当てられる。バンチョは慌ててとんちんかんな回答を黒板に書いて怒られる。三限目の理科は水溶液の性質実験。四限目の体育は五十メートル走で、紫ノ宮泉がこれ見よがしに好タイムをたたき出し、自慢してくるのがいつも通りにウザイ。昼休みにバンチョが本日二個目のピーナッツパンをかじる。五眼目の音楽でバンチョが居眠り。六限目の社会で黒岬先生が居眠り。今日の授業風景は以上の通り。
 見たくなくても見えてしまう。これは最初の記憶がある頃からずっと見えてきたものだ。これから先も変わらないし、変えることが出来ないもの。予知だとか予知夢、デジャヴといった類ではなく、ただただ確定した未来が見えてしまうだけ。
 ただ、それだけのこと。



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COMMENT

●じゅじゅさん

イメージは読んだ人それぞれにあっていいと思うので
ご自由にご想像下さいませねw

泉が泉がって、うるさいんだよwwwwww
お蝶婦人のちっさいの、と考えればいいんですね( ̄ω ̄)b

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