POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ\パーティ - /01 -


ハコニワノベル

 人生に希望はない。
 希望を求めるだけ無意味だ。
 始まる前に終わっていたのだから。

 自分に残っている記憶を思い返すと、一番最初の記憶は母親のお腹の中での記憶がある。四ヶ月という言葉を何度か聞いていたので、年齢で言うならばマイナス〇.五歳というところだろう。母親が毎日話しかけてくれたので、狭い場所にたった一人しかいなかったけれど、寂しさは感じなかった。それから半年後に母親の体外へと出た。外の世界は眩しくて、直接聞こえる初めて音にものすごく驚いた。その騒がしい音の中から、毎日聞こえていた母親の声を今でもちゃんと覚えている。

「お誕生日、おめでとう」

 そして、それが最後に聞いた母親の声だった。



「おっはよー」
「……」
「ちょっと、しーちゃん! 朝から無視は良くないと思うな」
「……おはよう、伴さん」
「そんなに他人行儀じゃなくてもいいのに。せっかく同じクラスになったんだからさ、もっと気楽にやろうよ」
「……」
「んもー、また無視? しーちゃんってなんて言うのかな、謎! って感じだよね。ほんとミステリアス! あ、センサーだ。おーい、センサーおっはよー」
「もぅ、センサーって呼ばないでよバンチョ。あ、その前におはようだった。しーちゃんもおはよう」
「おはよう、小早川さん」
「しーちゃんズルイよー、千紗は無視しないなんてさー」
「それはバンチョが朝からうるさくしてるからじゃないの? みんながバンチョみたいに朝からエンジン全開なわけじゃないんだし」
「……」
「ちょ、ちょっとしーちゃん、何その目は? 言わなくても分かるよね? みたいな目しないでよ」
「ほら、やっぱり」
「そんなことないってっば! あ! そうだ、うちにさーめちゃんこ可愛い犬がいるんだよね。写メ見て、写メ」
「わ! ほんと可愛いね! 名前は?」
「のびたっていうんだよ。私の相棒。これが今朝ののびたでしょ、これが昨日で……って、しーちゃんさっさと先に行かないでよ」
「……遅刻したら、責任取ってくれる?」
「怖っ! しーちゃん怖いよ。なんで急に責任とか私が嫌いな言葉を使うかなー」
「でも確かに遅刻はちょっと嫌だよ。まだ中学生になって二ヶ月しか経ってないしね」
「分かったってばー。ちぇー、のびたの可愛さをもっと自慢したかったのにー」

 ふて腐れた顔をしながら携帯電話をカバンに入れているのは、クラスメイトの伴千代(ばん ちよ)で、その姿を笑いながら見ているのは、同じくクラスメイトの小早川千紗(こばやかわ ちさ)だ。二ヶ月前に入学した上坂市立鳳華(ほうか)中学で最初に話しかけてきたのが、この朝からうるさい伴だった。彼女はフルネームを文字ってバンチョと呼ばれている。なるべく他人と関わり合いを持ちたくなかったし、できる事なら誰とも友達になんてなりたくなかったのだけど、この朝からやかましいバンチョが私に付きまとい、、いつの間にか小早川さんをも巻き込んでくれたおかげで、残念ながら友達は増えつつある。もちろん、バンチョや小早川さんも私がそんなことを考えていることは知らない。もちろん、あえて言うつもりもない。
 目の前に突然モノクロフィルムのような映像が現れる。そしてそれが次第にはっきりとした色を付け始めていく。驚くことはない。見慣れたものだからだ。「またか……」どんなにうんざりしてもこの映像は消えてくれないし、何を現しているのかを既に理解してしまったのだから、今更消えてくれても意味はない。

「……伴さん」
「な、なにかな?」
「数学の宿題、問いの二だけはやっておいた方がいいよ」
「ちょっと待ってよ、しーちゃん。それじゃ私が宿題やってないみたいじゃない」
「じゃぁバンチョ、宿題やって来たんだ」
「いや、やってないけどさー」
「……」

 悪い癖だ。見えてしまったら、なんとかして救おうとしてしまう。そんなことをして何かが大きく変わることなんてない。それはもう十年前に分かりきったこと。それに、このことが他人に知られて良いことなんてひとつもない。最初は驚かれ、次に頼られ利用され、最後は恐れられ忌み嫌われる。何度経験したら分かるんだろう、何度繰り返せば理解できるのだろう。いい加減自分自身に呆れてくる。どんなに夢みたとしても現実はまったく変わらないというのに。所詮私は人外の存在に過ぎないのだから。

「しーちゃん?」
「……え?」
「大丈夫? なんかすごく表情が思いつめてるけど」
「……ありがとう。小早川さん。伴さんの将来を考えてたらちょっとね」
「それどういう意味ー? しーちゃん酷いよー」
「うーん、でも確かにバンチョ見てるとちょっと不安かな」
「センサーまで酷いー」
「またセンサーって言ったなぁ!」
「そっちだって私をイジメたんだから、おあいこだよーだ!」
「こらっ、待ちなさい!」

 二人が走って行ってしまったので、静かな登校風景に戻った。視線の先には目的地である上坂市立鳳華中学の校舎が見えてきている。今朝の門前担当者は担任である黒岬先生のようだ。黒岬悠介(くろみさき ゆうすけ)、社会科の教師で私のクラス担任だ。校門に近付くと、既に眠そうにしている黒岬先生を確認した。眠たい理由はいつも通りネットゲームだ。いつも週明けは眠そうにしているので、駄目な大人と言える。悪い人ではないが。

「ふぁあぁ、あ、おはよう。おはよう。おっと、こらこら、ふざけてないでさっさと教室に入りなさい。お、伴は今日も元気いいな、おはよう」
「黒ちゃんおはよう!」
「待て、黒ちゃんじゃなくて黒岬先生だ」
「えぇー、細かいことはいいじゃん」
「お前、先生は敬わないと駄目だぞ?」
「黒岬先生、おはようございます」
「小早川か。はい、おはよう。伴はもう少し小早川を見習うように」
「考えておきまーす」
「こら、バンチョ」
「捕まりませんよーだ」
「もぅ、また逃げられた」
「あの元気をもう少し別のところで発揮できればいいんだけどなぁ」
「……おはようございます」
「ん? あぁ、七ノ宮おはよう」
「しーちゃん、またバンチョに逃げられちゃったよ」
「大丈夫、どうせ購買でパン買ってから教室に移動するだろうから、昇降口で待ってれば捕まえられるよ」
(買うのはいつも通りピーナッツパンやな)
「そっか。そう言えばそうだね」
「はいはい、おしゃべりはそこまでにして教室に向かいなさい」
「はーい」

 上履きにはきかえていると小早川さんが「捕まえた!」と言いながらバンチョを捕まえていた。バンチョは口にピーナッツパンを咥えている。微笑ましい光景ではあるけれど、何の感慨も感じない。それどころかため息が出る。

「しーちゃんどうした? おなか空いてるの? ピーナッツパン、半分こしてあげようか?」
「伴さんと一緒にしないでくれる?」
「せっかく心配してあげたのにー」

 パンを咥えたバンチョを引きずる小早川さんと一緒に、教室へと向かった。



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