POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ/ゲーム - /65 -


ハコニワノベル

 男が視界から消える。
 ――いや、消えてはいない。さっきと同じくコマ送りのスローモーションだ。雨がただの水滴にしか見えない。コマが進むごとに、男も移動していく。静香に向かって一直線に移動していくのが分かる。意識的に動けと身体に命じてみても、やはり動かない。このまま、静香が殺されるのを黙って見ているしかないのか。何のために本気を出したんだ。何のために本気を出さなかったんだ。何もできないまま、男の右手が静香の心臓へと伸びていく。静香は目を閉じたままだ。瞬きすら許されず、殺されてしまうのか。

 辞めろ!
 動け!
 止めろ!
 早く!
 
 辞めろ! !
 動け! !
 止めろ! !
 早く! !
 
 辞めろ! ! !
 動け! ! !
 止めろ! ! !
 早く! ! !

 ――視界が歪む。
 ――思考が歪む。
 ――意識が歪む。



   ◆



「動け! 動けよ! 何、ぼーっと見てるんだよ!」

(動けるわけないだろう。時間が止まっているんだから)

「うるさい!」

(動けないって分かってるくせに)

「うるさい!」

(どうして無駄にあがこうとするのさ? 結果は変わらないよ)

「うるさい!」

(もう諦めなよ)

「……」

(このまま僕たちも殺されるんだよ。よく頑張った方じゃないかな)

「……」

(あの子を守れなかったのは残念だったけどね)

「……だ」

(それにしても未来を読むなんて、バケモノじみてるよね)

「……くだ」

(あの子、こうなること分かってたんじゃないかな)

「……そくだ」

(あの子が未来を見ても、君が本気を出しても、こういう結果だったってことだね)

「……くそくだ」

(これで、君と僕もお別れか)

「……約束だ」

(さっきから、何を言っているんだい?)

「……との約束だ」

(まだそんなこと言っていたのかい?)

「……」

(もういいんだよ、あの子が殺されたらその約束も消えて無くなる)

「……消えないし、無くならないさ」

(何を根拠にそう言い切れるのさ)

「これが、これこそが……、”千鶴との約束”だからね」

(だからもう、何をしても、何を考えても手遅れだよ)

「僕が本気を出さない理由、本気を出す理由」

(はぁ?)

「思い出したんだよ」

(何をだい?)

「僕が本気を出さない理由。それから本気を出す理由をだよ」

(それを思い出してどうなるって言うのさ)

「ここでなんとか出来ないなら、千鶴は僕と約束してないよ」

(それでも、時間を止められてたらどうにもならないさ)

「本気で本気を出してみるよ」

(なんだよそれ。そんな精神論はやるだけ無駄だと思うよ)

「やってみるさ」

(……まぁ、止めはしないけど)

「止められないさ。誰にもね」

(止まらないんでしょ。君は)

「大変だね、君も……」

(君も、大変だね……)

『まぁ、どっちもどっちだけどね』



   ◆



 右手のゴボウに手応えが走る。視界をゴボウの先に移すと白髪の男の右手があった。

「! ?」
「おぉっ! あ、すいません。自分で自分に驚いて大声を出してしまいました。いやはや、これはこれは、どうもどうも」

 男が三度距離を取る。雨は相変わらず水滴のままで、雨音すら聞こえない。

「時間は止まっているというのに……。これはどういうことですか? おかしな人」
「一応、本気って奴を出してみたんです」
「本気? それはあなたの思考を挟まずに動く、特殊な行動術のことですか?」
「無尺者って呼んでます」
「ムシャクシャ……無尺者ですか。頂けないネーミングですね。いや、そんなことはまったく関係のない事由です。あなたが今もこうして、止まった時間の中を動いている理屈になりません」
「つまりですね、今までは無意識に身体が動いていただけだったんですけど、それを意識的にやってみたら止まってる時間の中でも動けたと。まぁ、こういう理屈です」
「……意識的に?」
「ちょっと自分でも初めてなものでして、これをどう説明していいのか分からないんですけど。意識して無意識を、無意識に意識をするんです」
「それは矛盾になりませんか? まったくもって意味不明ですよ、おかしな人。この事象の原因は、私がどこかで無意識に時間の制約を緩めたことによって、たまたま発生したのかもしれませんね……。そんな偶然は二度と起きませんがね!」

 再度、右手のゴボウに手応え。「くっ!」という声と共に、白髪の男が無表情と薄ら笑い以外の、悔しさと困惑の入り交じったような顔を初めて見せた。

「完全に時間は止まっているというのに……。余計に理解出来ませんね」
「いやいや、そもそも時間を止めることの方が、僕には理解できませんけどね」
「SWSは完全にして完璧な空間管理システム。作られた世界の影響を受けないようにするには、その世界の外に出るか、作られた世界よりも大きな世界で覆い返すか、発動した本人による解除、もしくは発動した本人を殺すなり気絶なり、意識を保てなくする方法以外にない。それなのにあなたは、世界の中にいながら世界に縛られていない……。バグのような存在ですね」
「いやぁ、あんなブサイクな犬とは似てないですよ」
「?」
「あー、伝わりませんでした? えぇと、パグですよ。パグ。ほら犬ですよ、犬。犬種ですよ」
「相変わらずのようですね、おかしな人」
「とりあえず、同じ条件で動けるのだとすれば、僕の方に分がありますよ。まだ続けます? 全部叩き落としますけど」
「分かっていませんね。あなたが世界のルールに縛られないとしても、私にはルールが適用されます。例えば”私の時間だけ加速させる”といったようにね」

 男が移動した瞬間にゴボウを自分の右側に突き出す。すると、ドンという重たい衝撃が腕に伝わってくる。突き出したゴボウの先で、男が腹部を抑えながら血を吐いた。

「がっ! な、何?」
「あの、大丈夫ですか? 一応言っておきますけど、別に速くなってませんでしたよ? さっきの」
「ど、どう言うことですかね、それは」
「いや、どうと言われても事実ですしね。いやぁ、それにしても、この無防備な静香は可愛いなぁ。せめて僕と一緒にいるときはこんな感じだと嬉しいのに。ね、そう思いません?」
「その無防備状態の姿を、永遠にして差し上げますよ」
「だから、遅いって」

 面倒なので白髪の男の右手を掴んでみた。すると、雨が再び動き始めザァザァと雨音を奏でる。どうやら時間が動き出したみたいだ。掴んだままの白髪の男は「これは……いったい」とか「強制解除?」だとか、いろいろとつぶやいているので放置しておいた。

「静香、どう? どう? かっこよかった? 惚れた? 惚れ直した?」
「……爽太、もっかい」
「ん?」
「……もっかい来よるで、あいつ」
「あぁ、それなら大丈……、夫! !」

 背中に伸びた白髪の男の右手をゴボウで防ぐ。「やれやれ、ですよ」と言ってみると「……ククク」と男は楽しそうに笑った。そして、しばらく笑ってからふいに「辞めにしましょう」とも言った。言ったあとで、背中を向けて歩き出す。その後姿には既に殺気らしいものは感じられない。

「どういうことやねん」
「まさか、こんなことになるとは思ってもみませんでした。これ以上お粗末なスラッシュに便乗して楽しむのは無粋と判断しただけです」
「あの、ちなみにですけど、こんなことってどんなことですか?」
「まさか、ロクジンが二人も揃うとは思ってもみませんでしたよ」
「なんやねん、そのロクジンて」
「あなたはテンゲンですよ、レディ。そして、おかしな人。あなたはジンソクですね」
「ですね……と言われてもなぁ。とりあえず言っておきますが、僕たちはニンゲンです」
「ククク。どうやら私にはまだまだ楽しめることがありそうです。おかしな人、レディ。あなた方お二人とは、また別の日にお会いしましょう。今度は私がきちんと準備をしてお招きしますよ」
「そんなんお断りやわ」
「それは、どうでしょうね」
「どういう意味や?」
「断れるとでも思ってらっしゃいますか? レディ。……ククク」
「……! ?」
「おや? 何か素敵な未来でも見えましたか」
「お、お前……、最低やな」
「お褒めに預かり光栄ですよ、レディ。さて、お粗末なスラッシュではありましたが、成果としては申し分なしです。あぁ、名前を覚えていませんが、あの本部の構成員をスラッシュしたのは尚早でした。これだけの成果が上がるとは……。まぁ、依り代を三体駄目にしたので仕方無しとしましょう。それから、生存者の皆さん。あなたたちは運がいい。これにてスラッシュ/ゲームは終了としましょう。今、生存している皆さんは勝ち抜けで処理致しますよ。私は今、とても機嫌が良いのでね。ククク!」

 白髪の男が「それでは、ごきげんよう」と言い、まるで闇に溶けるように消えてようとする。ザァザァと降りしきる雨の中、まるでその姿が道化師のようにも見えた。

「あ、ちょっと待ってください」
「……なんですか? おかしな人。気分良く帰ろうとしているんですが、内容によっては気持ちが変わりますよ?」
「やめとけ爽太! 何もしなくても帰ってくれるのを、わざわざ引き止める必要なんかないだろ」
「ククク。流石は近重純、冷静な判断です。さて、どうしますか? おかしな人。それでもまだ私に何か?」
「え? そりゃありますよ」
「爽太! ……この馬鹿野郎」
「ククク! そこまでのリスクを冒してまで、いったい何があるのです?」
「あのですね、三つ質問があります」



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COMMENT

●じゅじゅさん

それが分かるのは二部、三部って奴です。
しかしまぁ、よく読んで頂いててありがたや、ありがたや。

あらやだ、気付かなかったわw(゚o゚)w「千鶴」って誰?静香ちゃんとの約束じゃなかったのね、爽太が闘ってるのは・・・。

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