POSITISM

適度に適当に。

09« 2017.10 »11
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

スポンサーサイト


スポンサー広告

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スラッシュ/ゲーム - /64 -


ハコニワノベル

 視線の先で、白髪に赤黒い血の雨を浴びながら薄ら笑う男の姿が見える。その白髪の男が視線だけをこちらに向けると、言い知れない寒気がして、背骨まで震わせたような気がした。突然「爽太、左後ろ!」と静香が叫ぶ。視線の先にいたはずの男が姿を消している。静香の叫びの内容を理解するより前に僕の身体は動き終わり、構えたゴボウに白髪の男の右手がぶつかっている。視線をそちらに移すと白髪の男が再び口の端だけで薄く笑う。瞬きをしたあとには、既にその場所から男は消えていた。

「うちの右や! 次は上! 右斜め前! 爽太の真後ろ! もっかい左後ろ! ……どんくさい方のおばさんの真後ろ! うちの左! するどい方のおばさんの右前! うちの真ん前や!」

 言われたままに。言われると同時に。言われるよりも早く。僕の身体は動き終わっていて、ゴボウを振り下ろしたり突き出したりしながら、白髪の男の右手を防いだ。――ギンッと、まるで金属のような音を鳴らしながらゴボウを弾き、男が距離を取る。

「なかなか楽しませてくれますね」
「お前、何者やねん!」
「さぁ、何者でしょう」
「爽太! 本気出しっぱなしにしときや! こいつ、あんたみたいや。靄がかかったみたいに未来が読めへん!」
「未来を読む? ……なるほど、そういうことでしたか。しかし、未来を読めたとしても、私からは逃れられません」
「それはどうやろうな!」

 静香が真上に向かって矢を放つ。「レディ、それは威嚇か何かのつもりですか?」と表情を変えないまま白髪の男が聞いた。

「威嚇? なんや自分、脅したら尻尾巻いて逃げてくれるんか?」
「さぁ、どうでしょう」
「さっきのは威嚇とちゃう。威嚇っちゅうのは……、こういうやつや!」

 予備動作なく、静香がいきなり男に向けて矢を放った。矢は、音もなくまっすぐに男へと向かっていく。しかし、その矢を人差し指と親指だけで摘むように止めると「これぐらいでは怯えられませんね」と、無表情のまま男は言った。更に「威嚇するなら、そうですね……、これぐらいでないと」と退屈そうに言うと、目の前から白髪の男が消えた。
 ――なぜか、静香が焦っている。

「どこや! ? 見えへん……なんで? なんで見えへんねん! !」
「ここですよ」

 突如、静香の背中にぴったりと背中を合わせた状態で白髪の男が姿を表した。「どないなってんねん……」と、静香が震えながらポツリとつぶやく。白髪の男はまた口の端だけで薄ら笑いながら「SWSです」と冷たく言葉を発した。
 ザァザァと雨音だけの静寂に包まれる。

「SWS、小さな世界の物語(Small World Story)と呼んでましてね、十枚が開発した空間管理システムですよ。古くはハコニワ・システムとも呼ばれていた代物です」

 まるで踊るように軽やかに歩きながら、白髪の男が続ける。

「決められた範囲内であれば、ありとあらゆるもの全てを構築し創造することが可能なシステム。まさに小さな世界を構築してしまえるものです。そうですね、例えば時間を行き来する世界、小さなマシンが存在する世界、物語の中に入る世界、ある季節の世界、抜けられないアーケードの世界、雨と傘とカエルの世界、レールのように決して重ならない世界、約束の世界、宇宙空間を行き来する世界、様々な色の霧に包まれた世界。その数や種類は無限大。それらの世界はSWSを発動した者が、自由に構築することの出来る世界。更に、その世界の中ではありとあらゆるものを管理、制御することが可能です。例えば、こうやって”私以外の時間を止める”こともね」

 言い終わるのと同時に男の姿が見えなくなる。「止まった時の中では、あなたに未来を見る術はありませんよ。レディ」という言葉と共に、今度は静香の目の前に男は現れた。
 思うより先に、考えるよりも先に身体がそこへ向かう。知覚するよりも早くゴボウは振り下ろされていた。確かに振り下ろされたのだけれど、ゴボウは虚しく空を切っている。中央広場の中心から再び声が聞こえる。

「レディ、あなたはテンゲンですね? まさかこんな場所でロクジンの一人に出会えるとは思いませんでしたよ。あなたが未来を読み、そこにいる私の気配を察知できるおかしな人に指示を出して、私の攻撃を防ぐ。中々考えられた、素晴らしいコンビネーションです。しかし、未来を読むのと同じく、どれだけ早く動けたとしても、止まった時の中では無意味です」
「あの、それならあなたが時間を止める前に、なんとかできるんじゃないですか?」

 言いながら身体が動き出す。それに身を任せて突き出されたゴボウには、かするほどの手応えも感じられなかった。

「無駄です。既にこの上坂噴水公園の敷地内は、私のSWSの中ですよ」
「そんな馬鹿な! SWSはごく限られた範囲内でのみ発動可能なシステムのはず……。こんな広さで発動することなんて……」
「あなたは確か……、近重純……でしたか。あなたのような元本部の人間であれば、それがどれだけ絶望的なのか理解頂けると思いますよ。もちろん、嘘やハッタリではありません」
「あ、あり得ないだろ……」
「信じられないのも理解できなくはないですが、これは事実です」
「あ、あんた何者なんだよ……」
「答える必要はありません。なぜなら、十枚の承認なく開催されたスラッシュは闇に葬り去るべき案件ですので、ここにいる皆さんはもとより、今回のスラッシュ/ゲームに参加した全員、歴史という記録、記憶から排除させて頂きます。もちろん、私の障害に成り得そうなロクジンである、レディも同様です。……ククク。それでは皆さん。ごきげんよう。そして、さようなら」

 視界から男が消える。意識的に身体を静香のいる場所へ動かそうとした。視界の先、静香の後ろに男の右手が見えている。静香はまだ気付いていない。急げ、もっと早く、もっと、もっと早く。動け、動け、動け。
 思いと裏腹に身体は動いてくれない。コマ送りのスローモーションを見せられているみたいだ。男の右手が徐々に、静香の背中に近付いていく。
 見えていても、分かっていても、気付いていても何も出来ないのか? こんなことならもっと早くから本気を出しておけば良かったじゃないか。無駄に考えて、無駄に思考して、それで何を得た? それで何を守った? それで何を成した? 辞めてくれ、辞めてくれ、辞めてくれ!
 ――静香を殺すなら、僕から殺してくれ!

「ぐっ! ?」

 男が突然、手を引いて距離を取った。その右手に矢が突き刺さっている。

「なっ、馬鹿な……」
「馬鹿とちゃうわ、アホンダラ」
「レディ……、一体何を?」
「そんなもん決まってるやろ、未来を読んだだけや」
「しかし、止まった時間の中は……」
「その矢、あんたが威嚇やと思ってたやつや。あんた、見るからに悪趣味な奴やから、攻撃の瞬間に時間を元に戻したんやろ? 止まった時間の中で殺すよりも、実際の時間の流れの中で相手を殺す方が充実するとかそんな理由ちゃうか? 真意は分からんし、知りたいとも思ってへんけど、私の背中に伸びてくる下衆な手の未来が見えたからな、その瞬間に落ちてくるようにえらい無理やり放っといたで」
「……ククク。素晴らしい! ロクジンとはここまで素晴らしいのか! しかし、それと同時に恐ろしい存在ですね。余計に、余計にこの手で殺しておきたくなりましたよ、レディ。次は止まった時間の中で仕留めて差し上げましょう」
「そら無理や」
「ほう。それはまた確信的な発言ですね。一応聞きましょうか……。どんな未来を見て、どう確信したのかを」

 男は無造作に右腕に突き刺さった矢を引き抜きながら、静香に質問をした。それに対して、静香は僕を指さした。

「意味を測りかねますね……」
「あそこに、いかにも無責任でズボラで、人の迷惑も考えず、面倒事には頭から突っ込むような男がおるやろ」
「ええ、確かに。しかし、それが何か?」
「あんたの次の攻撃は、あのアホ丸出しの男に止められる」
「レディ。それは信じ難い未来ですよ」
「信じる信じひんは関係ないわ。うちにはそう見えたってだけやからな」
「それが本当に訪れる未来かどうか、すぐに試して差し上げましょう」



≪/63へ
/65へ≫

COMMENT

●scaさん

その期待をできる限り損なわないように
頑張ろうと思います! ふぁいおー!

期待しております♪
  • 2010.04.14[水]
  • sca

FC2Ad

  [D]esigned by 218*
Copyright c POSITISM All Rights Reserved.

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。