POSITISM

適度に適当に。

07« 2017.08 »09
S M T W T F S
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -

スポンサーサイト


スポンサー広告

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スラッシュ/ゲーム - /63 -


ハコニワノベル

「ちょ、え? 何? 何が起きたの?」

 雨の音と一緒にドサッという落下音。確認すると、じゅじゅさんが地面に倒れている。何かを振り解こうともがいているように見えるのだけれど、何で地面に倒れたんだろう? なんだかよく分からない。
 徐々に雨が強くなっていく。

「え? なんで? 何がどうなって? 爽太がやったの? え? でも、あれ?」
「……」
「おい爽太! 痛てて……。お前、今何したんだ?」
「やっぱりこれって爽太がやったの? え? 何かしたの? ?」
「……」
「おい、答えろって。お前何したんだ?」
「……ムシャクシャ」
「お前がどういう気持になったかなんて聞いてねーよ。お前、明らかに何かしただろ! なんで音々がそこに倒れてるんだよ……」
「いや、だから……ムシャクシャして」
「爽太、あんまりふざけてると耳、捻るよ? 今、何が起きたの? 雷が鳴ったかと思ったら、なんでその人が倒れてるの?」
「何しやがったんだよお前。あの状況じゃ細切れにされて終りだっただろ? ちゃんと説明しろ、納得がいかねー」
「さっきから説明してますよ。ムシャクシャをしたんです」
『はぁ?』

 あぁ、そうだそうだ。僕は今さっき本気を出したんだ。だから紙咲さんが倒れているんだ。紙咲さんが倒れているから、じゅじゅさんは地面に倒れた。いや、落ちたというべきか。結果から、過程を憶測してみるけれど、細かい部分はどうにも埋まりそうにない。五年ぶりだというのに、この感覚は気分が悪いな。

「ムシャクシャをした。じゃ、分からねーだろ」
「そうそう! 全然、分からないんだけど」
「……あのですね、細かく説明すると長くなっちゃうので簡単に言うと、無味無臭の無に、距離を表す尺、それに者を付けて”無尺者”ですよ」
「益々意味が分からねーだろ」
「無尺者? 何それ? ?」

 説明しろと言われても、説明のしようがない。なぜならソレがどんなものなのか、自分でも分かっていないからだ。

「結果、結末しかないねん」
「?」
「何かをしよう。そう思ったり、考えたときには既に完了してんねん。普通は頭で考えてそれを身体に伝えて、そこからやっと動き出すんやけど、爽太は考えたり伝えたりするプロセスがまったくないねん。反応とか反射といったレベルとちゃうで? いきなり結果や結末になりよるんよ。だから”無尺者”って呼んでんねん。ネーミングセンス最悪やけどな」
「なんだそれ……。あのねお嬢ちゃん、もしそれが本当だとしてだ、そんな人間離れしてることが出来るとしたら、あいつは何者なんだよ? いや、お嬢ちゃんも何者なんだ?」
「だから”無尺者”ですよ、じゅじゅさん」
「だからそれは何者なんだよ。あのさぁ……お前ら二人……依り代なのか?」

 雨が更に強く降り注ぐ。ザァザァと、ザァザァと。

「違いますよ」
「じゃぁ、一体何者なんだよ? V2か、V3の依り代一体と、SWSの発動が出来る音々を一人で片付けたお前と、V1の依り代を一人で倒しちまうお嬢さんが、普通の人間だとは思えないね」
「ちょ、ちょっと近重さん……」
「小谷、悪いけどな、この二人が本部と無関係とはどうしても思えないんだよ。本部の内情に詳しいお嬢さんは、元々参加者でないのにここにいる。爽太は爽太で、思い返してみると不可解な点が多いんだよ」
「例えばどこが不可解でした?」
「死に対する恐怖感の欠如。他の奴の死に対する感情の起伏。普段は抜けているのに、確定的な部分で抜け目がない部分。それから、運力のゲームで見せた驚異的な運、あれはまるでどれが選択すべきカードなのか分かってたみたいだったぜ? それからさっきの音々に対する……、なんだ無尺者とかいうやつだっけ?」
「うーん。じゅじゅさん、それを全部を説明してたら夜が明けちゃいますよ。ねぇ、静香?」
「……あかん」
「え?」
「まだあかん」
「何が?」
「爽太! あんたまだ本気出しときや!」
「何で?」
「アホ! あんなおばさんぶちのめすぐらいなら、うちで間に合うわ! 久しぶりに本気出すんやろ? だから試運転させてやっただけ。ほら、さっさと本気出しときや!」

 ――ゴン。
 右手に振動が伝わってきて、初めて自分が動き終わったことを認識した。静香の後ろに向かって、僕はゴボウを突き出したらしい。突き出したゴボウに視線が追いつくと、そのゴボウの先に何かがある。それを目視してやっと、誰かの右手だと気が付いた。

「やはり、あなたはおかしな人です」
「……えぇと、誰でしたっけ?」
「今日はこれで三度目になりますね」

 暗闇の中から浮かび上がってくるように現れたのは、ブラックのパンツスーツを着た白髪の男。確か、オフィス荒らしだ。いや、違ったかもしれない。三度目になるとは何のことだろうか。あぁ、駄目だ。今はすぐに思考が閉じてしまう。

「私の気配を察知出来る人間がいるとは思いませんでしたよ」
「……」
「察知だけならともかく、三度とも妨害されているということに関しては、非常に興味深いですよ」
「あぁ、それはどうもどうも」
「予想通り、最後まで残ってますね。武器は棒ですか……。ふむ、材質はダマスカスみたいですね。それにしても棒を選択するとは、やはりおかしな人だ」
「お前、何者や?」
「それはこちらの台詞ですよ、レディ。あなたは今回のゲームの参加者ではない。朝は逃がしましたが、今度は逃がしません」
「寝言は寝てから言いや? 何で逃げなあかんねん、逃げるつもりならわざわざここにおらんわ」
「覚悟があるということですね。いいでしょう、お付き合いしますよ。……おや?」
「……はぁっ、はぁ。ぜ、全員……、首を切り取って、やるぅっ!」

 倒れていた紙咲さんが起き上がり、絶え絶えになりながら叫ぶ。「先に片付けなければならない案件があるようです」と白髪の男が言い終わると、静香の後ろにいたはずの男の姿が見えなくなった。視界が大きく動き出して、自分の身体が勝手に向き直ろうとしているのを認識した。そして視界の先には、白髪の男に首を掴まれて宙吊り状態になっている紙咲さんの姿が見えた。

「だっ、誰だ? ……参加者、じゃ、ない……奴が、また……増えてる。 どこから侵入し、て……、ぐっ、るんだっ! ? ……ぐぎぃっ!」
「十枚の承認もなく、スラッシュ……、ゲームでしたか? が開催されると知って来てみれば、本当にお粗末な内容でがっかりですよ。しかもあなたは、十枚にすら所属していない本部の構成員」

 宙吊り状態から投げ捨てるように腕を離すと、紙咲さんが地面に倒れる。

「がはっ……! はぁっ! はっ、はぁ……はぁ。……あんたこそ、何者なのよっ! ?」
「依り代を勝手に使用するなんて、大それたことを仕出かしましたね。仮に、この会場から依り代が抜け出て、一般人に被害が発生し、帝園グループが原因だということが知れ渡ったら、どう責任を取るつもりだったんですか?」
「責任? そんなこと、知らないわよっ! ? そんなこと、どこの誰かも分からない奴に言われたくないわ!」
「V3アガタ、V2ヤタノラス、V1アースラですね。どれだけ開発に時間がかかった代物か分かってますか? アガタとヤタノラスはまぁいいでしょう。しかしアースラはV1の中でも限りなくV0に近い依り代だったのですよ? それを破壊されてしまうとは、甚大な被害です」
「依り代なんていくらでも作られてるじゃない! 私は私の目的のために、利用できるものは全て利用しただけよ! ? とやかく言われる筋合いなんてない! 邪魔するなら、あなたの首も切り取ってあげるわっ! !」
「責任を負うつもりもなく、著しい損害のみを発生させたあなたには失望ですよ」
「うるさい! 私は私の目的を達成して、十枚に入るの! 十年遠回りした目的を達成するのよっ!」
「あなたが十枚に? 無理です」
「どこの誰だか知らないけど、あんたにそれを判断する権限なんかないっ! 私の邪魔をする奴は全員首を切り取って、切り刻んであげるんだからっ! ! アハハハハ! 死ね! 死ね! 死ね! 全員、私にスラッシュされなさいっ!」

 紙咲さんが立ち上がって左腕を上げようとした。しかし、再び白髪の男によって首を掴まれ宙吊り状態にされる。

「がはっ! はなっ、はっ……、離せっ!」
「あなたのスラッシュは、首と胴体でしたね」
「そ、そうよっ! 今すぐ、あなたも首と……胴体にスラッシュして、あげぇっ……」
「ちなみに、私のスラッシュは心と身体です」

 音もなく、紙咲さんの胸に白髪の男の右手が深々と突き刺さった。
 ゆっくりとその右手が抜き取られると、バケツをひっくり返したような鮮血が飛び散る。再び投げ捨てられた紙咲さんは、三度ほど痙攣してからまったく動かなくなった。白髪の男が高々と上げている右手に、握りこぶし大の何かが見える。それが紙咲さんの心臓だと気付いたときには、そのままの位置で握り潰されていた。
 ――中央広場の中心にだけ、真っ赤な雨が降る。

「掌握完了」



≪/62へ
/64へ≫

COMMENT


FC2Ad

  [D]esigned by 218*
Copyright c POSITISM All Rights Reserved.

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。