POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ/ゲーム - /62 -


ハコニワノベル

 身体はボロボロになっているけれど、どうやら骨は折れていない。手に持っているゴボウに視線を落としてから顔を上げる。背中を向けたままの静香から「はよしいや」とだけ言われた。

「依り代を準備するのがどれだけ大変だったと思ってるの……。三体も使って何の成果も出せなかったらどうなると思ってるの……。ゴミのくせに、何の役にも立たないゴミクズのくせに……。許さない。お前ら全員その首を切り落としてやる! 遠慮なく! 躊躇なく! 容赦なく! 際限なく! 見境なく! お前らの首、全て貰ってあげるわよぉぉぉっ! !」

 紙咲さんが怒号をあげて左腕を振り上げる。街灯で輝くワイヤーが数十本伸びていき、それらを右腕でグイと引っ張ると、突然一番近くにあった街灯の明かりが消えた。いや、正確に言うならば街灯が途中から切り取られてしまっている。街灯だけじゃない、ベンチ、低木、階段の手摺、地面。ありとあらゆる物が削り取られていく。まるで、全部が豆腐で出来ているかと思うほど簡単に削られる。これじゃぁ、首どころか全身をバラバラにされてしまいそうだ。やれやれ、本当に見境がないな。

「ほんま、急がな間に合わへんくなるで」
「静香が泣くっていうなら……仕方ない」

 静香のいる位置よりも一歩前へ出る。
 一心不乱に、客観的に見れば、小さな羽虫と格闘しているようにしか見えない紙咲さんを中心に、その範囲を徐々に大きくしながら、様々な物が削り取られていく。目の前に倒れているバケモノと、その巨大な腕も切り刻まれて輪切りのような状態になっている。ワイヤーが起こしていると思われる風が、少しずつ強くなってきているので、ワイヤーが差し迫ってきているのだろう。
 このワイヤーの長さは簡単に中央広場を囲むぐらいはあるのだから、このままだと間違いなくここにいる全員が切り刻まれてしまうことになる。これだけ多重にワイヤーを振り回されたら、静香の弓でも届かない――のかもしれない。右手のゴボウを握り直す。

「爽太! 辞めなさい! 勝ち目なんてないわよ!」

 いろんなものが削り取られ崩れ去っていく音の隙間に、耳慣れた声が聞こえたので確認すると、ミッチー先輩が吹き飛ばされた人たちをワイヤーの範囲から避難させているのが見えた。

「……ミッチー先輩。ちわーっす」
「挨拶なんていいから逃げなさい! そこの女の子も一緒に! ほら、急いで!」
「そうだぞ爽太! 小谷と一緒に逃げろ! SWSを発動されたら、何をどうしたって無理だ! 私のことはほっといて逃げろ!」
「あの、お二人とも、聞いてください。多分ですけどね……大丈夫ですよ」
「どこがどう大丈夫なのよ? ほら、さっき三好君と高畑君が壁を焼き切ったんでしょ? そこから逃げられるはずだから」
「ワイヤーで捕まっている奴らは、残念だが諦めろ! 自由に動ける奴を連れてさっさと逃げるんだ!」
「いやいや、ご心配なく」
「心配するわよ! ちょっと、聞いてるの?」
「おい、爽太! いい加減にしろ。お前が本気を出そうが出すまいが関係ないんだ! お前はもう十分頑張った。お前は凄いよ。だけどな、SWSはそういう問題じゃない! 聞いてんのか? おい! 爽太!」

 短く息を吐き出してから、視線を紙咲さんの方へ戻して目を閉じる。

 風はどんどん強く感じてきている。

 あぁ、そろそろ一雨降りそうだ。

 六百三十円の焼肉定食はそこそこ美味しかったな。

 残業をしたことのない僕が残業をしたんだっけ。

 ランチ代五人分を返して貰わないと。いや、それは無理か。五人のうち二人はもういないのだから。

 なんでこんなことになったんだろう。

 あぁ、そうだ、思い出した。”あんたは何でも頭から突っ込むような奴や”だったっけ。



「残念だけど、思考を閉じますか」



 今度は深く息を吐き出していく。息と一緒に思考も吐き出すように。



   ◆



(あれだけ嫌がってたじゃないか)

「なにが?」

(本気は出さないんじゃなかったの?)

「事情が変わったからね」

(無責任だね)

「君は本気を出せ、本気を出せって言っていたんだから、丁度いいと思うけど?」

(だけど納得いかないな)

「納得?」

(自分が死ぬことになったとしても、本気を出さないと言っていたじゃないか。それと”      ”なんでしょう?)

「だからこそだよ。それに静香が泣いてしまうからね」

(あの子が泣くことの方が、君の命よりも大切なことなの?)

「そうだよ」

(君って奴は意味が分からないね)

「静香が泣くぐらいなら、本気を出すよ」

(そんなにあの子のことが大切なの?)

「自分の命よりも大切だね。掛け値なしで」

(ふーん)

「だからさ、本気出すよ」

(好きにすればいいよ。元々、僕は呼びかけることしか出来ないからね。決定権は君が持ってる)

「へぇ、そうだったんだ」

(何か言っておきたいこと、聞きたいこと、知りたいことは今のうちにしておくんだね)

「本気になる前にしておくよ」

(それじゃ、また後で)

「また後で」



   ◆



 目を開けると、ほんの一、二メートル先の地面が円形にえぐれながら、徐々に近付いてくるのが見える。

「静香」
「なんや?」
「本気、出すよ」
「出してもらわな困るわ」
「だからさ」
「だからなんやねん」
「いや、本気出すからさ」
「なんやねん。はっきり言われへんことなら、別に言わんでええで?」
「あのさ、愛してるって言ってくれない?」
「はっ?」
「そう言って貰えたら、めちゃくちゃ本気出せると思うんだけど」
「な、なんでそんなもん、うちが言わなあかんねん。アホか」
「言って欲しいのになー」
「……」
「そしたら頑張れるのになー」
「……」
「たまには言葉で聞きたいなー」
「……あ、あ」
「きちんと言って欲しいなー」
「あい、ああ、あいし……」
「言って貰いたいなー」
「ア、アホくさ……」
「もしかして、僕のこと愛してないの?」
「……」
「ちょっと残念だなー」
「……あ、愛して、愛してないわけじゃないで」
「ははは。ありがとう。愛してるよ、静香」
「ア、アホ……。さっさと本気出して片付けてしまい。……アホ、ほんま、爽太のアホ」
「了解」

 右手のゴボウを突き出して紙咲さんに向けて叫ぶ。

「紙咲さん!」
「今更、命乞いしても遅いわよぉぉぉっ!」
「命乞いなんてしませんよ。ただですね、一応言っておきたいことがあるんです」
「私は何も聞きたくないねっ! お前らみたいなゴミの話、まったく聞きたくないっ!」

 突き出したゴボウが大きく弾かれる。弾かれただけで、ゴボウは切り刻まれてはいない。

「僕、あなたみたいな美人でドSな人、好きなんですよ」
「私に取り入ろうとしたって無駄よっ!」
「取り入ろうとなんてしてませんよ。純粋にドSな女性が好きなんです」
「だから何だって言うのよっ! そんなこと死ぬ間際に言う意味が分からないわねっ!」
「いやぁ、それがですね、僕はそんなドSな女性を、屈服させていくのが大好きなんです。だけど、紙咲さんを屈服させていくのは見られなくなりました。それがとっても残念です」
「アハハハハ! やっと諦めたのね! お利口さんよ。さぁて、近重純! 見てなさい! あの子の首が、ううん身体中がバラバラに飛び散っていく様をねっ!」
「……音々辞めろ! 爽太も逃げろ! 逃げてくれ! 頼む! もう、もう! たくさんだ……」
「紙咲さん、本当に残念です。見たかったなぁ、紙咲さんが屈服していく様……。ま、仕方ない! 諦めます!」
「痛みはないから安心しなさいっ! 綺麗に切り取ってあげるわ。アハハハハ! アハハハハハ! アハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 おびただしい数のワイヤーが、ありとあらゆる角度から襲いかかってくる。呼吸を小さく三回してから、もう一度目を閉じた。












 ――稲光。












 閉じた目を開くと同時に、雷鳴が空気を震撼させて轟く。そしてすぐに雨が降り出した。
 降り出した雨粒に合わせて視線を落とすと、僕の足元には――、うつ伏せに倒れた紙咲さんがいた。

「あなたみたいなドSな女性が、屈服させられていく過程が見たかったのになぁ」



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