POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ/ゲーム - /61 -


ハコニワノベル

 枝から枝へ飛び跳ねながら、真っ赤なイチョウの木からお稲荷様が降りてくる。薙刀のように見える巨大なあれは、元旦の式典でしか使われることのない国宝の弓、紅麒麟だっけ。あんなものを持っているということは、明確な意志をもってここに来ているという証拠だ。残念ながら遊び半分や、冗談半分ではないらしい。逃げるなら今しかないのだけれど、逃げようにもバケモノに掴まれているのでどうしようもない。
 ――トントン、トトン、トトトトトトトトン。細かく何かが揺れたような感覚がする。

「……あぁ、これは、あれだ……。最悪の、状況だ」
「あんた何者? 参加者じゃないねぇ? 私の作った壁の中にどうやって……、いや、この公園内にどうやって入った! ?」

 お稲荷様は叫ぶ紙咲さんを無視しつつ、その横を素通りしてこちらに真っ直ぐ近付いてくる。「無視してるんじゃないわよっ!」と紙咲さんが左手を上げた。――上げたけれど、何も起こらなかった。

「な? なに? どうなって? えぇい、バケモノ! この部外者を排除しなさい!」
「クケケ……、グギャーッ! !」
「何を騒いで……、なっ! ?」

 バケモノの四つある目のそれぞれに、漏れなく一本ずつの矢が深々と突き刺さっていた。どうやら目に対する攻撃は効果があるらしく、僕を掴んでいる腕の力がふっと緩んだ。瞬間、曲げられていたゴボウが跳ねるように元に戻り、巨大な手のひらを更に開いてズルリと落ちるように、僕はなんとか巨大な腕の中から解放された。
 そのまま地面で横たわっている僕の目の先に、近付いてきた草履と足袋がピタリと止まった。恐る恐る見上げてみる。

「何死にかけてんねん」
「まだ死んでないよ?」
「うちが一思いにやったろか?」
「いやー、遠慮しとくよ」
「ほな、はよ立ち」
「なんで?」
「ええから、はよ立ちや」
「だから、なんで?」
「ごちゃごちゃうるさいねん。男は黙ってちゃっちゃと動き」
「いや、あのね? だから……」
「うちが立てって言ったら立たんかい! 爽太!」
「あ、はい。すいません」

 身体中の痛みを忘れるように、勢いよく立ち上がった。直立不動の気を付けの姿勢だ。それを確認すると、お稲荷様がキツネのお面を頭の上へとずらす。そのお面の下から、それはそれはとても美しい大和撫子が現れた。無表情なのが残念だ。せめて最後に笑顔が見たかったな。

「久しぶり、静香」
「遅い」
「え?」
「遅過ぎや」
「えーと、何が?」
「うちがどれだけ待ってたと思っとんねん。昼過ぎからスタンバイしてたのに……。全然状況が進展せえへんし待ちくたびれたわ」
「スタンバイってもしかして、あの赤い照明のこと?」
「ん? せっかくうちが登場すんねんから、スポットライトはいるやろ」
「僕らがここに入ってきたのが夕方だから、それよりも随分早い段階で準備してたんだ……。ご苦労様です」
「ほんま無駄になるかと思ったわ」
「ちなみにさ、いつこうなるって分かったの?」
「そんなもん、あんたに矢文送ったときに決まってるやんか」
「矢文って……”うるさい、黙っとけ”のやつ?」
「そうや。あんときからあんたの未来が余計に見えなくなったから気になっててん」
「だったらもっと早くに現れてくれると助かったのに」
「今日の午前中にな、あんたの会社に入り込んでみてんけど、すぐに出たわ」
「なんで?」
「嫌な感じがしてん」
「ふーん」
「それよりも、あんたほんまに死にかけやんか」
「いや、だからさ、まだ死んでないよ」
「それを死にかけ言うんとちゃうんか? ほんま一思いにやってあげんで?」
「静香がそれを望むなら、僕はそれでもいいけどね」
「アホ。まだあんたにはやってもらうことがあんねんから、生かしといたるわ」
「それはそれは、有り難き幸せ」
「さてと」

 静香が苦しんでいるバケモノの方へ振り返る。「けったいな生き物やなぁ、これ」とバケモノをじろじろ見ている。

「お嬢ちゃん、あなた何者なのかしら? 上坂噴水公園には入れなくなっていたはずだけど?」
「なぁ、爽太。この生き物なんなん? は? 依り代? なんやねんそれ」
「お嬢ちゃん? 無視しないでくれるかしら?」
「目が四つ、鼻が二つに、口も二つ。あ、耳は二つなんや、へぇ」
「いい加減にしなさいよ小娘っ! !」
「いかつい腕やなぁ。でもなんで腕は三本なん? バランスわるない?」
「いい加減に……」
「あんたがぶっ飛ばした頭だけでっかい犬と、頭が三つある鳥も全部バランス悪かったなー」
「いい加減にしなさいよっ! !」
「は? なんやねん、おばさん。さっきからうるさいねんけど?」
「年上に対する口の聞き方がなっていないようねぇ……。バケモノ、それぐらいなんてことないでしょう? さっさとその小娘を殺してしまいなさい!」
「そら無理やろ」
「は?」
「そら無理やって」
「あなたのその弓矢で、このバケモノを倒せるとでも思ってるのかしら?」
「思ってへんよ」
「はぁ? だったら何を……」
「もう終わってんねんもん」
「終わってる? 何が?」
「倒せるなんて思ってへん。もう倒したんやからな」
「さっきの攻撃のことかしら? 残念だけど眼球への攻撃ぐらいじゃ、このバケモノは死なないわよ」
「眼球? ちゃうちゃう、もっと前に終わってんねん」
「もっと前? あなたさっきから何を言って……」

 ――ドサッ。
 突然、バケモノの巨大な腕だけが地面に落ちて、その数秒後に続くようにバケモノの身体も地面に倒れ込んだ。巨大な腕が生えていた左肩の部分に、数十本の矢が円を描くように突き刺さっているのが見える。静香がイチョウの木を降りて、こちらに近付いてきている最中に感じた細かい揺れはこれだったのだろう。つまり円形に突き刺さった矢は、イチョウの木を降りる前に既に放たれていたということだ。やれやれ、相変わらずなオカルト趣味だな。

「な? もう終わってるやろ?」
「な、何をした?」
「何をしたって、矢を射っただけやで?」
「それがなぜ突き刺さるっ! ? 依り代の体表は銃火器や刃物でさえ、傷一つ付かないほどの硬度があるのよ?」
「そうでもないやん、このいかつい腕が生えてた場所の境目なんかズルズルやんか」
「確かに境目は脆くなっているかもしれない。それでも、あの距離から狙ってそこだけに矢を当てることなんて不可能よっ!」
「そんなん余裕やで? これぐらいなら、目閉じてても当てられるわ」
「それに……、この依り代を倒すには……」
「コアやろ?」
「コアを破壊しないと……、なっ? なぜそれを」
「おばさんが今言うたやんか。アホなんか?」
「そうだとしても……」
「コアのある位置は依り代それぞれで違うくて?」
「コアのある位置は依り代それぞれで違って……」
「このV1のコアは? 首の付け根部分にある? らしいから、そこを打ち抜いただけやん。簡単やろ?」
「このV1のコアは、首の付け根部分にあるのに……! ! あ、あなた何者なのっ! ? まさか、あなた……割紙一族なんじゃ?」
「何言うてんねん。うちはどこからどう見ても、頭脳明晰、容姿端麗、料理上手で大和撫子な美少女やんか」
「料理上手だったっけ?」
「なんや? そんなに死にたいんか、爽太」
「めっちゃ美味しい手料理を、まいどおおきに、ごちそうさまやねん」
「なんやねん、その関西弁。しばくで?」
「いや、うん、ごめんなさい」

 倒れているバケモノの首の付け根を確認すると、矢羽がギリギリ見えるぐらい深々と一本の矢が刺さっているのが分かった。これがさっき言っていたコアを打ち抜いた矢だろう。この矢も、こちらに向かってくる前に放たれたものだな。やれやれ、全く以て容赦ないな。

「爽太」
「なに?」
「あんた、本気になりや」
「へ?」
「いいから本気出してや」
「なんでまた?」
「ええから早く!」
「あのね、ちなみにだけどさ、本気出さなかったらどうなるの?」
「死ぬ」
「誰が? 僕が?」
「ここにいる全員や。みんな殺される」
「物騒な話だね」
「もちろん、私もやで」
「……嘘だよね?」
「ほんとや」
「僕が本気出したら、静香は助かるの?」
「分からん。あんたの未来だけはよー見えへん。だからこそ、結末の見えへん未来に賭けるしかないやろ?」
「……嫌だって言ったら?」
「……うち、泣く」
「……」
「爽太が本気出してくれへんのやったら泣く、絶対泣く」
「……脅迫に近いよ、それ」
「そらそうやろ、だってこれは脅迫やもん」
「どのみち、選択肢は一つってことか」



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COMMENT

●scaさん

やっと、ここの展開まできました。
楽しんで頂ければ幸いです。


●じゅじゅさん

やっとですよ、本当に。
長かったな……ここまでwww

静香ちゃん、待ってました!

おーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
待っていましたわ、この展開っ!!!!!!!!
とてもウキウキ♪でーーーーーーーーーーーーすっ!
  • 2010.04.08[木]
  • sca

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