POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ/ゲーム - /53 -


ハコニワノベル

 起き上がってみると、茨の棘が刺さった以外に大きな外傷はない。軽く飛び跳ねてみたけれどどこかが痛いということもなかった。植え込みに吹き飛ばされたのが良かった。これがもし、岩やコンクリートに叩きつけられたとしたら、もっと大きなダメージを受けていただろう。
 あの突風は吐き出す前にクチバシをモゴモゴする予備動作があるし、一度吐き出してしまえば、次に吐き出すまでにある程度の間隔が開く。これは連続して吐き出せないということだろう。それに突風は、相手にダメージを与えるために吐き出すのではなく、相手を自分から遠ざけるために吐き出しているように感じた。きっと、近付かれたら困る何かしらの理由があるのだろう。

「そういえば……」

 鈴木部長がペリカンに近付いてから今まで、あの耳鳴り音が鳴っていないことに気が付いた。それに、既に気絶してしまっているじゅじゅさんやミッチー先輩に対して攻撃する素振りを見せずに、ずっと放ったらかしにしている。ペリカンの方を確認してみると、吹き飛ばされた鈴木部長や僕にも興味を示している様子はない。
 キーンッ。
 鳴り止んでいた耳鳴り音が再開された。それに合わせるように森本部長が叫ぶのを再開してその音を中和する。ペリカンは耳鳴り音を出しているだけでその場から動こうとしていない。遠距離にいる間は安心しきっているようにも見える。もしかしてこれは――。よし、考えてるだけじゃ仕方がない。もう一度確かめてみるとしよう。
 軽く屈伸をしてから、茨の植え込みに刺さってしまったゴボウを引き抜いて握り直す。さっきは方向転換する動きを読まれて吹き飛ばされてしまった。ということはあのペリカン、それなりに知能は高いと見える。しかし、こちらの動きに反応するということは、常に後手で動作してくるということ。だったら、こちらの動きに相手が反応した瞬間に相手の裏をかけば、つまりフェイントが上手くいけば確実に近付けるはずだ。
 ペリカンに向かって一直線に走っていく。森本部長とルー姉さんの横を走り抜けながら「もう一度行きます」と声をかけた。「辞めとけ、爽太!」とルー姉さんの声、「いい加減にしないと、怒るぞ?」とかも聞こえた気がする。でも今は気にしてられない。
 ペリカンとの距離が近付くと、耳鳴り音が止んだ。ほどなく視線の先にいるペリカンがクチバシをモゴモゴさせ始める。つまり耳鳴り音と突風は一緒に出すことが出来ないわけだ。モゴモゴが収まったのを見計らって、前と同じように左へ方向転換する。ただし、今回は上半身を左に揺らすだけだ。すると、ペリカンが大きく向きを変えたのが見えた。

「ここまでは予定通り」

 ペリカンの動きを確認してから大きく右に方向転換して走る。慌てて追従しようとしたからなのか、ペリカンの突風はかなり離れた場所を通り抜けていった。その隙にペリカンのいる方へ距離を詰める。ペリカンに向かいながら、両手にゆっくりと力を込めていく。
 目の前で体勢を立て直したペリカンが、クチバシをモゴモゴさせているのが見える。さっきと同じように上半身を左に揺らす。ペリカンは今度は釣られること無くこちらを向いたままだ。次は身体ごと右へ方向転換した。ペリカンはその動きにきちんと追従して方向を変える。そして、クチバシをパカっとあけた。僕はそれを見てから左手の力を抜いて、曲げたゴボウを下に構えた。

 パンッ!

 跳ねるようにしてゴボウが元に戻りながら地面を叩く。その反動で右側を向いたまま低くペリカン側に飛び込んだ。ペリカンは僕よりもかなり右側に突風を吐き出そうとしている。その足元に滑り込むような格好になった。その勢いに乗ったまま引っ張るようにゴボウを振り上げる。ぐにゃっとした感触を残して、左側と真ん中の頭が跳ね上がる。振り上げたゴボウを続けて右側の頭のクチバシに向かって振り下ろすと、ガツンという衝撃と同時にクチバシが下側に折れ曲がった。
 その直後、目の前でペリカンがきりもみ状態になって吹き飛んだ。頭二つを上向きに、残り一つを下向きにした状態で突風を吐き出したからだろう。ペリカンが倒れ込んだ場所まで移動して、強めにゴボウで殴りつけてみる。ぐにゃっという感触は変わらない。別に殴りつけたことはないけれど、普通のペリカンを殴りつけたら、きっとこんな感触がするような気がする。そのままペリカンを見ていると、折れ曲がったクチバシ、それから今殴りつけた部分が徐々に治っていくのが分かった。

「尋常じゃない速度で回復してるわけか……、再生っていう方が近いかな」

 このペリカンは不死身ではない。攻撃を受けるとすぐに再生を始める。その代わり、攻撃に対する抵抗力はほとんどないに等しい。攻撃さえ届けば十分にダメージを与えることが可能だ。だから近付かれるのを極端に嫌っているのだろう。しかし、それが分かったところで、この再生速度を越えるほどの攻撃手段が思いつかない。なにせ鈴木部長のM60でさえ、追いつかないほどの速度だ。
 そうこうしているうちに、折れ曲がったくちばしは真っ直ぐに治り、殴りつけた部分の傷は見る影もなくなった。三つの頭を器用に使って起き上がると、鈴木部長を吹き飛ばしたときのように、その頭をぶんぶんと振って頭突きをしようとしてきている。とりあえずその振られている頭をゴボウで叩きつけようと振りかぶったところで、突然ペリカンが動きを止めた。その直後、視界が歪んだ。目の前にペリカンの足が見える。耳の奥に耳鳴り音が鳴り響いている。
 頭痛、それから口が痺れていく。あぁ、気分が悪い。

「そこまでだよっ!」

 威圧的な声と共に、空気を割く音。それから一瞬遅れてパシーンという炸裂音が耳元で鳴る。途端に、耳鳴り音が消えて無くなった。倒れたままで声の方を振り返ると、そこには真っ赤な、まるで赤ワインのように赤い色をしたムチに舌を這わせているルー姉さん――いや、ルー様がいた。

「なかなか反抗的な鳥野郎だねぇ」

 ヒュンフォン――、ヒュンフォン、パーンッ!
 ペリカンの左側の頭が大きく後ろにうな垂れる。

「今からたっぷりと調教してあげようじゃないか」

 ヒュンヒュン、スッパーン!
 今度は右側の頭が大きく外側に弾き飛ばされた。残った真ん中の頭がクチバシをモゴモゴし始めている。僕は起き上がって、体勢を整えようとした。すると、後ろから怒鳴り声。

「生意気だねぇ、アタイがいつ動いていいと言ったんだい!」

 パーン! パシーン!
 自分のことじゃないのにピタリと動きを止めてしまった。まるで生きた蛇のように唸りを上げたムチが、ペリカンの真ん中の頭を左右から大きく打った。ツカツカと、ハイヒールは履いていないのに、まるでハイヒールで歩いているかのようなステップで、ルー様が歩み寄ってくる。

「ルー姉……、ルー様? あまり近付くと危ないですよ?」
「おだまり」
「はい、すいませんでしたっ!」

 勢い良く飛び退いてルー様に道を譲る。そう言えば、じゅじゅさんが言っていたことを思い出した。「ルティが本気出したら怖いからな、気をつけろよ」あぁ、こういう意味かと、予想通りではあったものの、何度も心の中で頷いた。そのあともルー様の攻めが続いていく。罵り、ムチを振り回し、時折とても嬉しそうに笑っている。とても楽しそうだ。

「忌々しい鳥野郎だねぇ。せっかくアタイが打ってあげてるってのに、その有り難い傷をすぐ治しちまうなんて、生意気にも程があるよ! このっ! この馬鹿鳥がっ! ホラ、跪いて靴をお舐めっ!」

 ルー様がムチを振りながら、ペリカンへと更に近付いて行く。しかしペリカンはすぐにその傷を治して起き上がってくる。それを何度か繰り返していると、ルー様が突如「ウフフフフフ」と声を出して、愉快そうに、そして妖艶な表情でニタリと笑った。

「こうしたら、どうなるんだい?」

 そう囁きながら、真っ赤なムチを縄のようにして、ペリカンの首を締め上げた。途端にペリカンがバタバタと暴れ始める。

「そんなに嬉しいかい? そうかい、それならもっとキツク縛ってあげるよっ!」

 ギリギリという音が聞こえるほどに、ペリカンの首が三つともに締め上げられていく。さっきよりも更に激しくペリカンが暴れだす。その度にギリギリとムチが首を締め上げて行く。三度目の締め上げで、まるで糸が切れたかのように、ぐたりとペリカンが動かなくなってしまった。

「なんだい、もうイッちゃったのかい?」

 動かなくなったペリカンに腰をかけて、少し残念そうにルー様がつぶやいた。



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