POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ/ゲーム - /50 -


ハコニワノベル

 とりあえず、扇上の階段を登って中央広場に戻る。森本部長たちがいるはずのフランス庭園へ向かうためだ。一応注意深く辺りを見回してみても、参加者の姿は確認できない。物音も特に目立った音は感じない。それにしても作業服が乾いたとはいえ、年末の夕暮れ時は手が悴むほど寒い。ゴボウを落とさないように握り直した。
 そういえばこいつ、黒瀬さんに襲われたときに曲がったんだっけ? 山田社長の銃剣、あのバケモノの顎、黒瀬さんの青龍刀を難なく防いだのだから、硬度はかなりあるはずだ。それなのに、あの時は簡単にぐにゃりと曲がってしまった。確かこう、片方を押さえつけられたままで、反対側を引っ張ったら――。ぐにゃり。ゴボウはまた簡単に曲がってしまった。

「なんだお前、実は軟弱なやつだったのか」

 中央広場で一人つぶやきつつ、ゴボウを引っ張る力を緩めると、また跳ねるようにして棒状に戻った。中央広場のベンチに腰掛けて、ゴボウを何度か曲げたりしているうちに分かったのは、ゆっくりと力を加えると曲がる特性があるらしい。加えられた力がなくなると、反動をつけて元に戻るようだ。逆に瞬間的に力を加えた場合はビクともしないのに、材質は何で出来ているのか益々分からない不思議なやつだ。
 ゴボウの検証をそこまでにして思考を切り替える。残りのハンターは二体。あの身体の三分の二ほどが頭だったバケモノのようなものが、あと二体もいるのかと思うと、これはかなり面倒なことになってきている。いつもなら他人に丸投げしてさっさと帰ってしまうレベルだろう。だけど、ここで面倒くさがっていたら智子さんが危険だ。のんさんに時間がゆっくり流れる世界を作ってもらったとはいえ、あまりのんびりしている暇はない。なによりもレディを見捨てるなんて、紳士中の紳士である僕の辞書には存在しない選択肢だ。
 ベンチを後にしてフランス庭園へ近付いていく。一応、ハンターやこちらを狙う参加者がいないことを確認しつつ移動していく。まぁ、僕は訓練された兵士ではないので、誰もいないことを確認したあとは、ゴボウをステッキのように回しながら歩いているのだけれど。
 特に不穏な様子もなく、フランス庭園へ続く門前に到着した。ここでも一応身を隠しつつ、耳を澄ませてみたものの特に音がしない。というより、まったく何も聞こえない。付近に生き物がまったくいないように感じるほど、何の音も聞こえてこない。とりあえず何もいないなら安全だろう。今度はそっと門から庭園内を覗いてみると、誰かが倒れているのが見えた。よく確認してみると、倒れているのは二人いる。疎らな街灯で庭園の奥の方は暗くてよく見えなかったものの、特に争っているような雰囲気はなかったので中に入り、倒れている二人に近付いた。

 ――そこに倒れていたのは、じゅじゅさんとミッチー先輩だった。

「ちょ、何してるんですか! こんなとこで寝てたら風邪引きますよ……」

 軽口を叩いた瞬間に、視界が歪む。気がつくとじゅじゅさんの顔が間近に見える。「あら?」とつぶやいてから、いつの間にか自分も倒れていることに気が付いた。起き上がりつつ目の前のじゅじゅさんを見てみると、どうやら意識を失っているだけのようだ。呼吸はしているので命の別状はないだろう。その隣で倒れているミッチー先輩も同じだ。ただ二人とも耳を抑えている。とにかく、近くのベンチに二人を座らせるなりしないといけな――。

 キーンッ。

 耳鳴りのような音が聞こえた瞬間に、再度視界が歪む。思わず耳を両手で抑えたけれど、効果があまりない。徐々に頭痛、口が痺れる感覚が強くなっていく。気分が悪い。このままだと吐いてしまいそうなほどだ。なんとか目を開いてみても視界が歪み過ぎて、今自分がどこを向いているのかさえ分からない。

 キーンッ、キーンッ。

 耳鳴りのような音が何度も何度も聞こえてくる。なるほど、じゅじゅさんとミッチー先輩もこの音でここに倒れていたのか。膝が地面に付いた感覚がして、そのすぐあとに左頬が地面にぶつかった。視界が滲んでボヤけていく。



(……ん)



 既に両腕には力が入らない。耳を抑えるほどの力も残っていない。



(……さん)



 耳鳴りのような音は相変わらず続いている。



(……たさん)



 耳鳴りのような音の合間に何か聞こえる気がする。ザッザ、ザッザとノイズのような音。



(爽太さん)



 いや、誰かが僕を呼んでいる。もしかしてさっきので僕は三途の川を渡ってしまったのかもしれない。これは天女さまの声に違いない。あぁ、ついに極楽浄土へ辿りつけたということか。――ちょっと待て。誰かが呼んでいる? 誰が? どこから? 何のために? 徐々に意識が戻ってくる。頭痛は相変わらずだし、吐き気も収まっていない。けれど、耳鳴りのような音が聞こえなくなった代わりに、どこからか僕を呼ぶ声がはっきり聞こえてきている。

(爽太さん、爽太さん)
「聞こえてますよ……、どこの天女さまですか?」
(ご無事でしたか、それはなによりです)
「僕はいつでも無事ですよ」
(完全に意識を失ってしまうと、近重さんと小谷さんのように動けなくなってしまいますので、イギリス庭園から裏に回ってこちらに入って下さい)
「えらく的確な天女さまですね……、そういえばどこかで聞いたことのある声ですし」
(私ですよ爽太さん。覚えてらっしゃらないですか?)
「……?」
(さっきまでの攻撃で記憶が飛んでいるのかもしれませんね……)
「覚えてらっしゃらない……、あ!」
(思い出して頂けましたか?)
「思い出したというわけではないですよ。これは気が付いただけです、森本部長」
(ご名答です。さ、そこにいては十分にお守りすることができません。イギリス庭園からこちらへ回って来て下さい)
「じゅじゅさんとミッチー先輩はどうしておけば?」
(今はそこにいて頂く方が安全です。身動き出来ない状態で門の外に出しても危険ですので……、申し訳ないのですが爽太さん、これ以上遠い位置にいるあなたをお守りし続けることができません。また耳鳴りがしてしまいますので、すぐに門から出て裏に回ってくだ……)

 天女さま、じゃなくて森本部長の声がそこで途切れると、再び耳鳴り音が聞こえ出した。ゴボウを手にとって門から外へ飛び出す。すると耳鳴り音がピタリと聞こえなくなった。どうやらフランス庭園内でしか聞こえてこないらしい。そういえば、さっき森本部長はどうやって僕に話しかけてきたのだろうか。話によればフランス庭園の奥にいるらしいけれど、僕は門に近い位置にいたはずだ。トランシーバーみたいなものは持っていないし、携帯電話で会話していたわけでもない。まだぼやけている頭で考え続けるのも限界なので、とりあえず森本部長に言われたように、イギリス庭園側からフランス庭園内を目指すことにする。
 イギリス庭園の門に辿り着くと、正門側の通路の方からズルズルという、何かを引きずっているような音が聞こえてきたので身をかがめて隠れてみたものの、その音は少しずつ遠ざかっていったので深追いせずイギリス庭園内に入った。プールのような噴水があったはずなのに、噴水の姿はほとんど残っていない。まるでむしり取られたようにあちこちを破壊されていて、そこら中が水浸しになっている。
 慎重に奥へと進んでいくと、前にここに来たときにいた三人組がいた。いや、正確に言うならばあの待ち伏せをしていた三人組だろうと思われる三人組だ。そうだと判断したのも折られてしまってはいるが刀のような刃物を持ったのが二人、それからスタンガンのようなものを持っているのが一人だったからで、正確な判断はできていない。なぜなら、全身の骨という骨を砕かれた状態で殺されてしまっているからだ。身体の所々から、折られた骨が飛び出してしまっているが痛々しい。
 これをやったハンターか別の参加者がここにいるかも知れないと、身を隠しつつ伺ってみたけれど他には誰もいなかった。三人組のいる場所へ戻って、軽く手を合わせて黙祷だけしておいて、イギリス庭園の奥に生える木々の間を進んで行く。



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