POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ/ゲーム - /46 -


ハコニワノベル

「黒瀬さん、いきなり襲いかかってくるなんて、どうしたんですか? もしかして、さっきまでのは油断させるための演技だったんですか?」

 黒瀬さんはロッカーに突き刺さった刃物を抜き取るのに必死になっていて、こちらの声がまったく聞こえていないようだ。やれやれ、なにかロッカーに恨みでもをあるのだろうか。さっきから叩いたり蹴ったりして、刃物をぐりぐりと動かしている。刃物の峰がノコギリ状になっていて、その部分が完全に引っかかっているのだから、そんな無理矢理に抜き取ろうとしても抜けるものじゃないだろう。
 それにしても、さっきまでのクールでこちらに敵意のなかった黒瀬さんはなんだったのだろうか。いきなり襲いかかってきたのはなぜだろう。元々、ここに入ったときから攻撃しようと思っていたのか、それとも突発的に行動したのか――。どちらにせよ、今の黒瀬さんはこちらを敵視しているのは間違いない。

「黒瀬さん。とりあえず落ち着きましょうよ」
「……っ」
「大丈夫ですって、僕らは別に黒瀬さんを攻撃しようとか思ってないですよ。それに、どうしても駄目だと言われるなら、大人しくここから出て行きますから」
「……っ」
「あの、どんな事情があるか知りませんけどね! せめて会話ぐらいしましょうよ。言葉のキャッチボール、分かります? ほら、さっきみたいに、円滑なコミュニケーションしましょうよ」
「……っ」

 埒があかないので、黒瀬さんの肩を掴んでこちらを向かせると、その表情はさっきまでの黒瀬さんと同一人物とは思えないほど無表情になっていた。「え、誰?」と自然と口から出たぐらいだから、黒瀬さんを知らない人だったら別人に見えたかもしれない。

「何があったんですか、ほんの数分前はいつも通りの黒瀬さんだったじゃないですか……、落ち着いてて、幅広い視点で思考するクールガイ黒瀬だったじゃないですか。聞こえてます? せっかく褒めたんですからリアクションぐらいしてくださいよ。おーい、黒瀬さーん!」
「……ぉっ」
「え? なにか言いました?」
「っげ……ろぉっ!」
「ゲロ? それは……嘔吐物の方ですか? それとも温泉の方?」
「……に、逃げろっ!」

 叫んだ黒瀬さんに突き飛ばされる。その直後、黒瀬さんは頭を掻きむしって「ぐぉぉっ」と唸りながら苦しんで、そのまま膝から崩れて倒れた。逃げろ――、つまりここにいたら危険だということを伝えたかったのだろうけれど、自分で襲いかかっておいて逃げろとはデタラメな人だ。まるで森のくまさんじゃないか。あのお嬢さんだってクマが追いかけて来なければ、逃げたりしなかったというのに。
 これはもしかすると、黒瀬さんは何かしらの意図があって、僕に攻撃を仕掛けてきたのかもしれない。ドアノブを回した相手から逃げるために一芝居をうったとか。いや、演技にしてはさっきの攻撃は手加減を感じられなかった。あれは確実に相手の命を奪い去る意志が入っていたはずだ。あれだけ激しく暴れていたのに、今はまるで人形のようにぺたりと床に倒れている。さっきの今で黒瀬さんの中で何が起こったのだろうか。
 何かが起こる? もしかして黒瀬さんは何かされたのかもしれない。例えば催眠術で操られたとか、絶対的な弱みを握られて命令されたとか。そういうことなら、こちらに攻撃してきたこともある程度はうなずける。でも時間にしたら数秒、ここから入り口の方へ移動して、更に戻ってくるまでの数秒間でそんなことができるだろうか。
 ふいに、生暖かい空気の流れが制御室内に入り込んできて、入り口の扉が開かれたことが分かった。誰かが入ってくる。

「同士討ちさせようと思ったのに、失敗か」

 入り口の方から今度は女性の声が聞こえた。そういえば、さっきはドアノブが回されただけで扉は開かれていない。黒瀬さんが入口側に移動したときも扉は開いていないはずだ。ということは、今聞こえた声の主はこちらが何人いて、誰なのかは気付いていないのかもしれない。
 これ以上中に入られて智子さんを危険に晒しては、ナイトとして示しが付かない。ここは覚悟を決めて先手必勝、こちらから仕掛けるしかないだろう。右手のゴボウを握り直して、勢い良く入り口側へ飛び出した。

「き、きゃーっ!」

 突然の悲鳴。そしてカランと何かが転がる音。目の前にいた女性は両手で顔を隠して、ぺたりと座り込んでしまっている。そのそばに先端に丸い球体が取り付けられた杖のようなものが落ちている。「あ、あのー」と声をかけると「ち、近寄らないで変態!」と叫ばれた。紳士中の紳士で、かつナイトという高貴な人間を捕まえて変態とは失敬な。

「変態とは失礼ですね」
「へ、変態以外の、な、なにものでもないじゃない……そ、そんな格好で、飛び出してくるなんて」
「この高貴な格好のどこが変態だと……あぁ、これはこれは失礼を」

 そういえば僕は今下着とインナー姿だった。しかもインナーは濡れていてスケスケだし、下着も水を吸ってピッチピチに肌にフィットしている。この格好で右手に棒を持って飛び出してきたら僕だって「変態」と叫ぶかもしれない。いや、でもこれはこれで未来を先取りしたファッションのような――、気はしないな。うん。

「と、とにかく、近寄らないで!」
「近寄ってきてるのはあなたじゃないですか」
「……?」
「どうしたんですか、そんなマジマジと僕を見て。はっはーん、さては変態と罵ってしまったものの、僕の肉体美にその目を奪われてしまったんですね。しかしそれは仕方のないことですよ。うん、仕方ない」
「……なーんだ」
「な、なんだとはなんですか! まるで貧相な身体とでも蔑むような発言ですね。もっと、ほら! しっかり見て下さいよ。ほらほら、素敵でしょ」
「爽太君か」
「……え?」

 座り込んでいた女性がゆっくり立ち上がって近づいてくる。「とにかく、服を着なさい」と、そっぽを向かれながら言われたところでやっと気が付いた。

「のんさんじゃないですか」
「今気が付いたの? っていいから、とにかく服を着て……」
「別に僕は恥ずかしくないですよ?」
「……私が恥ずかしいのっ!」
「恥ずかしがらなくても、いいんだよ?」
「怒ろうか?」
「いや、それがですね、今服が濡れてて着れないんですよ」
「なら、濡れてる服持ってきて、乾かしてあげるから」
「えぇ?」
「いいから早く!」
「……はい、これです」
「今着てるのも濡れてるんでしょ、全部脱いで」
「ちょ、ちょっとのんさん、積極的ですね」
「茶化さないで! ほ、ほら私は壁側を向いとくから」

 やれやれ、こんな状況で全裸になるとは思わなかったな。別に困ることなんてまったくないけど。僕は着ていたインナーと下着も、のんさんが指示した場所に脱いで置いた。一応、紳士的な意味で大切な場所はタオルで隠しておいた。あと、のんさんがこちらに何か仕掛けてくる可能性もあるから、ゴボウだけは手に持ったままだ。

「どうやって乾かすんですか? ここ、乾燥機とかないですよ?」
「これで乾かすの」

 そう背中越しにのんさんが答えてから、先端に丸い球体が取り付けられた杖のようなもの、というより杖を振り上げて小さく叫んだ。「カラカラに乾燥した世界」するとのんさんの目の前に小さな四角い物体が現れた。その物体の中に僕の服を全部入れると、その物体の中でみるみるうちに服が乾かされていく。なんだ、のんさんはイリュージョニストだったのか。これからはプリンセス・のんコーとでも呼ばないといけないな。

「はい、乾いたからさっさと着なさい」
「おぉ、ふかふかじゃないですか! ありがとうございます、プリンセス・のんコー様」
「なによそれ」

 のんさんが少しだけ笑ってから、倒れている黒瀬さんを見つめて「渉、やっと見つけた」とつぶやいた。すぐにその表情が強張っていくのが見えた。
 そういえばこの人だったな――。おいおい、ということは黒瀬さんが危ないじゃないか。



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COMMENT

●じゅじゅさん

さて、これは魔法なのかなんなのか。
うふふふふふー。


●のんさん

おぉ、ありがたいです。
地味に長く長く書き続けております。
コメント励みになります! ありがとー。

コメントしてませんがちゃんと読んでますw
ついに会っちゃいましたね…。

悪い魔法使い(Φ∀Φ)♪

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