POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ/ゲーム - /44 -


ハコニワノベル

 噴水の制御室は、大噴水から扇状に広がるカスケードに合わせて広がる階段の途中にある。普段は入り口に施錠されていているので入れなくなっているけれど、今は異常事態かつ緊急事態なので、仮に施錠されていたとしても鍵や扉を破壊するなりして入ることになるだろう。
 智子さんの左足は太ももの途中から下が綺麗に無くなってしまっていて、本来ならすぐに救急車を呼んで、病院に搬送すべきなのだけれど、ゲーム開始前に紙咲さんから聞かされた「ゲーム終了前に会場から出ることはできません。正確に言うならば出ることは可能ですが、命はないものとお考え下さい」という強制的なルールがあるので、病院への搬送どころか噴水公園から出ることすら出来そうにない。
 会場から外に出られないというルールの真偽を確かめてみるリスクをおかして良い場面でもないし、噴水公園に入ってからずっと姿を見せていない本部の社員を探し出して、なんとか病院への搬送を頼んでいる時間もない。仮に本部の社員を発見して頼んだとして、それが承認される保証すらないのだから、今は病院への搬送は断念するしかない。
 ギリシャ庭園を出て、中央広場の大噴水を横切る。この僕が残業までして設営していたライトアップの機材が見える。誰が見ても完璧なセッティングとしか言いようがない。――あれ? 赤いライトが少し足りていない気がする。いや、クリスマスイベントは中止になってしまった今となってはそれも関係ないか。そう考えると設営された機材が妙に虚しく見える。
 大噴水の水音と一緒に、生暖かい風が流れてくる。空はもうかなり暗くなっていて、いつ雨が降り始めてもおかしくない。中央公園にある時計を振り返って確認すると、時刻は何時の間にやら十八時半。雨雲のせいでかなり暗くなっていると思っていたけれど、雨雲がなくても十分暗くなっている時間になっていたようだ。

「あのー」
「なんだ?」
「どうして僕だけが智子さんをおぶっているんですかね?」
「男だからだろ」
「男女平等! 差別反対!」
「あと少しだろ、ごちゃごちゃ言うな」
「爽太、ファイト!」
「まぁ、紳士中の紳士である僕はやりますけどね」
「紳士なら、お姫様抱っこで運んでくれると思うけどな」
「あぁ、私もそんなイメージあります」
「こいつにそんなイメージはまったく沸かないけどな、はっはっは」
「……やれやれ、この中でレディなのは智子さんだけみたいですね」
『全員だろ(でしょ)』

 また二人からキツめに叩かれた。この二人、もしかしなくても根本的な部分で似ているのかもしれない。「暴力反対! 智子さんに響いたらどうするんですか」と言ってみたら「中居、悪かったな。大丈夫か?」「チコちゃんごめんね、大丈夫?」とか言っている。「やれやれ、お二人のどこに淑女らしさがあるのやら」とは思うだけにしておいた。でないと次は智子さんを落としかねない。

「あとですね……今、気が付いたんですけど僕、ずぶ濡れでものすごく寒いです」
「寒そうだな」
「それだけ? それだけなんですか?」
「いや、お前が勝手に吹っ飛んで水の中に突っ込んだだけだろ。私だって、お前を水の中から助けてやるときに水の中に入って、パンツの膝下ビシャビシャなんだぞ?」
「でも暖かそうなコート着てるじゃないですか。ミッチー先輩は智子さんに着せてあげているというのに……」
「ん? ……そうか、そうだな。悪かった」
「最初からそうやって素直に非を認めてですね、僕にそのコートを羽織ってくれればいいんですよ」
「悪かったな、小谷。寒かっただろ? ほら、これ着とけ」
「いや、悪いですよ! 私は大丈夫ですから!」
「いやいや、お前が着てくれないとさー、後ろのジェントルマンが許してくれそうにないんだよ。な? あいつの顔を立ててやってくれよ」
「じゃ、じゃぁお言葉に甘えて……。わぁ、暖かい! これってアセドの新作ですか?」
「アセドだけど、それは国内未発売の一点物」
「すごーい! 私もいつかこんなコートをカッコよく着こなせるようになりたいなぁ」

 言いながらミッチー先輩がくるりと回ってみせた。確かにかっこいいコートだと思う。
 Amore Separazione Dolore、イタリアのファッションブランドで、「身に付けていないと苦しい」というキャッチコピーで有名な超一流ブランドだ。有名ではあるものの国内には数店舗しか存在していないため、知名度は高いが持っている人が少ないという、通好みのブランドで、略してアセドとかASDなどと呼ばれている。1908年にイタリアはミラノで開業した革靴店が、徐々に革製品を取り扱うようになり、世界各国の珍しい素材を集めて様々な商品展開を行っていった結果、当時の王室御用達のブランドとなり一流ブランドになった――と、携帯電話の画面には表示されている。

「なに携帯なんて見てるんだよ。中居を落としたりしたら、ただじゃおかねぇぞ?」
「落としませんよ。お二人が僕に衝撃を与えなければですけど」
「爽太、ここから階段だから、気を付け……わっ」

 注意を促した本人がバランスを崩した。やれやれ、自分で言っておいて自分で転んでしまうとは、まさに本末転倒じゃないか。あぁ、このあとミッチー先輩はコケて、そのコケた恥ずかしさを隠すためにやたらと空回りな言動をする、いつものパターンになると思ったのに、バランスを崩したミッチー先輩を颯爽とじゅじゅさんが抱き留めた。「大丈夫か?」とか男前なセリフ付きだ。「あ、ありがとうございます……」とかミッチー先輩も恥ずかしそうに言っちゃってる。まったく、これは何歌劇団だ。
 二人を軽くスルーしつつ階段を慎重に降りる。「ツッコめよ」とか後ろから聞こえたけど、今はスルーしておこう。もう目の前に噴水の制御室が見えているし、智子さんを安静にしてあげる方がツッコミを入れることよりも大切だ。妖怪がいたら怒られそうだけど。

「で、どうやって入るんですか?」
「最悪、鍵か扉を壊して入るしかないな」
「開いてたりするといいんですけどね」
「いや、それはないんじゃないか? 一般の利用者が勝手に入られるとマズいし、通常時は誰かがここで待機しているか施錠されてる。鍵は運営部の経理部内にある金庫で管理されてるはずだからな」
「とにかく開けてみません? もしかしたら誰か先に入っているかもしれないですけどね」
「ちょ、ちょっと! 怖がらせるようなこと言わないでよ、爽太」
「確かに、その可能性はあるな」
「近重さんまで、やめて下さいよぉ」

 じゅじゅさんが「ま、オバケが出るわけじゃないさ」と冗談を言いながら入り口に近付いてドアノブを回す。すると、ドアノブが音もなく回り切った。つまり、鍵がかけられていない。すなわちそれは既に誰かがここを開けたということになる。「誰か先に入っているかもしれない」さっき自分で言った言葉を思い出した。
 振り返りもせずにじゅじゅさんが片手で待ての合図をこちらに示し、肩紐に取り付けられたカートリッジの一つをショットガンにセットして扉の横に張り付いた。驚くほどスムーズな身動きだ。まるでどこかの軍隊で訓練されているかのように見えた。
 じゅじゅさんが一度短く呼吸して、勢い良く扉を開け放った。――が、そこには誰も居なかった。慎重にじゅじゅさんが中を確認してくれたけれど、両手を外人のように広げながら出てきたので、どうやら本当に誰もいないらしい。
 一応「どうします?」と聞くと「他にあてもないしな」とじゅじゅさんが制御室の中へ入っていくので続いた。制御室奥に仮眠用のベッドを発見したので、そこに智子さんを寝かせた。

「よし、私と小谷は一度森本部長たちのところに戻ってくる。現状を把握しとかないと動きようがないし、中居をなんとか病院へ連れて行く方法も相談しないとな」
「わ、私もですか?」
「ん? どうした小谷。そんなに爽太と一緒にいたいのか?」
「えっ! ? いや、ちががっ……違うんっ」
「冗談だよ、冗談」
「それでこのナイトは智子さんの護衛ですね」
「ナイトは余計だけど、そういうこと。あと、お前は一度その服を脱いで絞れ。少しはマシになるだろ」
「じゅじゅさんが人のことを気遣うなんて……、今夜は雪でも降りますすね」

 そのあと「どういう意味だよ」と軽く小突いてから、じゅじゅさんとミッチー先輩は制御室を出て行った。
 言われたことを言われたようにするのは好きじゃないけれど、これ以上ずぶ濡れでいるのにメリットはないので作業服を脱いで、外で絞ろうと扉の方へ移動した。

「動くな」

 僕と智子さん以外に誰もいないはずの制御室内に、男の声が響いた。



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COMMENT

●scaさん

誰かいましたねー。


●じゅじゅさん

さてさて、誰だったんでしょうか。
うふふふふ。

「誰も来ないだろう」と言う考えの下に制御室にこそこそ隠れてるタイプの男と言えば・・・あいつしか考え付きませんができれば爽太にきちっと殺られちゃってほしいです。

おぉ、誰かいたぁーっ!
  • 2010.03.11[木]
  • sca

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