POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ/ゲーム - /34 -


ハコニワノベル

 低木をほふく前進状態で抜け出ると、火薬の臭いがまだはっきりと残っている。学生の時に旅行先のアメリカで射撃体験したときに嗅いだ硝煙のそれと同じ臭いだ。それから妙に血生臭い。
 日本庭園は他の庭園と違って噴水ではなく滝が設置されている。日本庭園と言われるだけあって、雰囲気は和風だ。全体が小高い丘になっていて、奥には立派な紅葉の木とその間を縫うように小川が流れ、更にその奥には滝が設置されていて、なかなかに風流だ。
 いつもなら滝の音と、木々が風にそよぐ音が心地よい場所なのだけど、今はその心地よい音の合間に男性のうめき声が聞こえている。さっきよりも随分声が小さくなっている気がする。

「や、やめてくだ、さい……」
「……」
「っつ! ぐあぁ、ぎ……ぃ」
「……ほれ」
「ぐぁっ、やめ、やめてっ……、た、たすけ」
「さて。そろそろかな?」

 日本庭園はあまり隠れる場所がないので、低木伝いに声の聞こえる丘の裏側へ移動する。丘の裏側に近付けば近付くほど、硝煙と血生臭い臭いが強くなっていく。それと同時に声もはっきりしたものになってきた。

「たすけて、たすけてぇ……」
「もうそろそろね、君の意識は飛ぶよ。そうなったら、二度と意識が戻ることはないね」
「おね、お願いしま……す、たすけ……て」
「汚い手で触ろうとしないでくれる? それにさっきから聞いてたら自分から襲いかかって来たくせに、助けてだなんて虫が良すぎるでしょう? 自業自得なんだから、仕方ないよね」
「いやだ、死にたく、死にたくない」
「やっぱり男は女に比べたらしぶといね。もう大丈夫だよ。大体分かったから……。今、楽にしてあげるね」

 ――五度目の銃声が、すぐ目の前で鳴り響いた。
 その音が何度か木霊して消えたあと、男性のうめき声は一切聞こえなくなった。

「ちょっと返り血が付いちゃった。至近距離過ぎたかな」

 ほふく前進状態で低木の隙間から相手を伺おうとしてみるけれど、どうしても腰の辺りまでしか見えない。かと言ってこの距離で相手に発見されたら命はないだろう。どうやら男らしい。そして手にしているのはAK-47だ。 中学生の頃にサバイバルゲームが一時期流行って、エアガンをみんなで買ったりしていたのだけれど、AK-47はその当時みんなの憧れの銃だった。 Avtomat Kalashnikov-47、カラシニコフの1947年型自動小銃で略してAK-47。と、携帯電話で検索してみたところ載っている。そうだったのか、ひとつ間違えばアイドルグループの名前に思えなくもないのにな。と無駄なことを考えた頭を切り替える。
 目の前十数メートル先にいる男が持つAK-47は、ただのAK-47ではない。銃口のすぐ下に不釣合いな装飾の剣が取り付けられている。どうやって固定しているのかまでは見えないけれど、どうやら銃剣のようだ。しかもよく見れば、赤黒い液体――血が滴っている。その男の向こうに仰向けに倒れている男性が見えた。微動だにしないところを見ると、今さっきの銃声の餌食になったのだろう。
 AK-47を持った男が、仰向けに倒れている男性を引きずりながら移動し始めた。幸い、僕が隠れている低木とは反対方向である庭園の奥へと移動していく。離れていくにつれて、低木の隙間からも相手の全体像が背中越しに見えた。どちらかと言えば小柄で線も細い。どことなく哀愁を漂わせた背中だった。けれどすぐに庭園奥に植えてある紅葉の木に重なって姿が見えなくなった。辺りを確認してから紅葉の木まで移動して、庭園の奥を伺う。

「やっぱり、男は重たいな。女なら始末が楽でいいのにね」

 そんなことを言いながらその男は、男性の死体を引きずって行く。引きずられている男性の頭部が原型を留めていないところをみると、さっきの銃声で飛び出した弾丸は彼の顔面に向けて発砲されたのだろう。しかも、かなりの至近距離で。
 男の足が止まり、突然こちらに振り返った。

「誰かいるんですかね?」

 そう言いながら男は引きずっていた男性の遺体をその場に残し、AK-47をこちらに向けて構えた。僕は相手を伺うのを辞め、紅葉の木に身を隠した。

「隠れているなら出てきた方が身のためですよ」

 男がこちらに一歩歩み寄った。既に直線距離にして十メートルもない。

「それとも、あぶり出して欲しいのですか?」

 更に一歩こちらに歩み寄ってくる。踏みつけられた砂利の音まで聞こえている。

「出て来いっ! 出て来ないなら、ハチの巣にしてやるっ!」

 AK-47のセフティ解除音が間近で鳴り響いた。

「……」

 更に二歩、僕が潜んでいる紅葉の木に男が近寄ってくるのが気配だけで分かる。
 AK-47を構え直す音がした直後、さっきよりも間近で銃声が鳴り響く。すぐ横の地面に何かがぶつかって派手な音を出した。音の振動で、周辺の空気がビリビリと震えている。これはなかなかのピンチじゃないか。大抵こういう場合に、ヒーローとかヒロインが助けてくれるだとか、猫の鳴きまねでやりすごしたりするのが黄金パターンだ。けれど、ヒーローやヒロインもどうやら来てくれなさそうだし、ましてやこのタイミングで猫の鳴きまねなんてすれば、例え僕の鳴きまねが本物の猫とまったく同じであったとしても、この木の向こう側にいる男は安全な位置から僕を狙ってくるだろう。まぁ、そんな愚策を実行するような僕ではない。

「……気のせい、ですかね」

 男はそれ以上近付かず、きびすを返して男性の遺体と共に庭園の奥へと消えて行った。

「もう二秒ほど遅れてたら犬の鳴きまねするところだったな」

 無意味なつぶやきをしてから、一度低木まで戻って身を隠した。
 しばらくすると、さっきの男が庭園の奥から現れ、僕の目の前を横切って門の方へと行ってしまった。それを見届けて、一応辺りを確認してから庭園の奥へ入る。さっきの男性の遺体から流れていたであろう血のあとが、滝へと続く通路上に残されている。その血を目で追いかけて行くと、血の線は滝の裏側に続いている。
 ざっと滝の周辺を探してみたけれど、秋山さんと智子さんが何個か見かけたという未開封の宝箱は見つからなかった。ここも未開封の宝箱は隠されているのだろう。もしかすると、別の場所に宝箱を移動させられているかもしれない。
 遺体が捨てられていることは容易に想像出来るけれど、この日本庭園であと探していないのは滝の裏側のみになったので、仕方無く滝の裏側へと移動した。そこには予想通り、二人の男性の遺体が乱暴に投げ捨てられていた。どちらも同じように頭部の損傷が激しい。遠くから見ていた時には気が付かなかったけれど、切り傷や刺し傷が二人とも至る所に付けられている。きっとあの銃剣で死なないように傷つけられながら、最後に至近距離で発砲されている。見るだけでも惨たらしい殺し方だ。やるならひと思いにやってあげればいいだろうに。
 簡単に両手を合わせて立ち上がろうとすると、視線の先に未開封の宝箱が見えた。近付いて確認してみたものの、僕のIDカードでは開かない宝箱だった。

「やっぱり、隠れてたんだね」

 後ろの方から、さっきの男の声が聞こえる。振り返ってみたけれど、まだこちらの視界には入らない距離にいるらしい。逆に言えば相手の視界にも、僕はまだ映っていないのだろう。となれば、今なら逃げ出すことも可能かもしれない。軽く身体を低くして、近くにあった岩の後ろへ移動する。

「おっと、あまり動かないことだよ。慌てて動けば、君もそこに転がる死体のようになるだけだ」

 残念ながら、相手には僕が見えているらしい。「出て来い!」などと言われたけれど、出て行く義理も義務もない。そうこうしているうちに、銃声。これで何度目だろう? もう数えるのも面倒だ。その瞬間に僕の隠れている岩が弾丸で少し削り飛ばされた。隠れている場所もバレている。これがサバイバルゲームなら、両手をあげて相手の前に出れば、撃たれることなくゲーム終了になるけれど、いかんせんこの相手は、現時点で少なくとも二人を殺しているし、あのAK-47は本物だから、そう簡単に見逃してもくれないだろう。そもそもこれはサバイバルゲームでもないのだし。

「さぁ、大人しく出て来い」

 やれやれ、これは覚悟を決めなくちゃいけないらしい。



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