POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ/ゲーム - /27 -


ハコニワノベル

 応接室に入ってほんの少しあとで、ドンというさっき聞いた衝突音と同じ音が聞こえた。ミッチー先輩は「え?」としか言わなかったけれど、その事実を確認しに行くわけでもなく、僕に対して事実を確認するようなことを聞くこともしなかった。多分、何が起きたのかは分かったのだろう。
 あれは事故じゃない。最初に落ちたエレベーターを動かしていたワイヤーは作為的に千切られたように見えた。誰かがワイヤーに細工したに違いないだろう。冷静に考えてみれば、今この応接室にいる誰かがその細工をした可能性が高い。もちろん、僕とミッチー先輩はその細工をしていない。あのワイヤーを千切ろうと思えばそれなりの時間が必要だろうし、もちろん素手じゃ出来ない芸当だ。

「一番怪しいのは、本部の社員」
「何が?」
「あ、こっちの話ですよ。こっちの」
「あんたはたまに隠し事するよね。平気で嘘付いたりさ」
「紳士中の紳士である僕がそんなことするはずないじゃないですか。それは気のせいですよ」
「当番サボったり、電話で連絡したら清掃してるとかって嘘付いてなかったっけ?」
「そんなことありましたっけ? そんな記憶ないで……あぁ、ありましたよね! あった! ありました!」

 ナチュラルに耳を掴まれたので正直に白状しておいた。引っ張られたり、捻られたりするのだけは免れたので良い判断だったのだろう。呆れてるミッチー先輩を余所にして、それとなく応接室内にいる人を観察してみる。小さな机と椅子が等間隔に並べられている。その椅子に座り込んでいる人、壁にもたれかかってる人、少人数でこそこそと会話している人。そして所々に立っている本部社員の姿が見える。

「よう」

 少し離れた所から聞こえた声に振り向くと茶髪でチャラチャラした姿が目に入った。

「あぁ、三好さんじゃないですか。お疲れ様です」
「お前もさー張り切っちゃう系なわけ?」
「毎回で悪いんですけど、もう少し分かりやすい日本語でしゃべってもらえます?」
「要するにお前もさぁ、こんなチャンスなかなかお目にかかれないから張り切ってんじゃねーの?」
「チャンス?」
「そりゃそうだろう、なにせ願いが叶えてもらえるんだぜ? そんなチャンス人生に何度も来ないだろ? それともお前はあれか、最初の入力画面で適当な願いしか書かなかったのか」
「いやー、別にそんなことはないですよ。とても叶えたい願いを記入しましたから。で、三好さんはどんな願いを?」
「決まってるだろ、金だよ金」
「お寺とかにある」
「ちげーし、現金だよ現金。一生金に困ることのない額の現金だよ」
「現実的というか何と言うか、夢がない願いですね」
「はっ、綺麗事言っても仕方ないだろ。世の中金さえあれば大抵のことは解決するんだからな」
「それはまぁ、そうですけどね」
「それでお前の願いは何よ?」
「教える気はないですよ」
「はぁ? ま、お前がどんな願いを叶えようとしても、俺がいる限りその可能性はないしな」
「そうですね。まぁ、三好さんの願いが叶ったら何か奢ってくださいよ」
「お前みたいな奴に使う金はねーのよ、残念ながら」
「期待はしてませんけどね」
「はっ、期待しなくていいよ」
「あ、そうだ。三好さんって身体鍛えてるじゃないですか」
「だからなんだよ?」
「例えば素手でワイヤーとか千切れます?」
「なんだそれ? ワイヤーだろ……、試したことないけど無理なんじゃねーの? なんでそんな変なこと聞くんだよ」
「いやぁ、三好さんのマッスルパワーがどれほどのものなのか知りたかっただけです」
「相変わらず、お前相手にしてると疲れるわ。小谷先輩もよくこんなのと一緒にいれますよね」
「わ、私は別に……」
「お前、小谷先輩の足引っ張ってるんだろ? そろそろ独り立ちしてくだちゃいねぇ」
「それは、いやでちゅー」
「キモッ、お前キモ過ぎるわ」
「いやいや、それほどでもないですよ」
「褒めてねーし。ま、精々死なないように逃げ回れよ。ハハハ」

 三好がどこかへ行ってからしばらくすると、ぞろぞろと人が集まって来た。ミッチー先輩に時間を確認すると丁度十六時になる所だった。突然、応接室の照明が落とされて辺りが真っ暗になって、入り口の方からロックがかかる音が聞こえた。ブラインドは閉められていないので、どうやら外も暗いらしい。そう言えば今朝は雨が降りそうな曇り空だった。もしかすると既に降り出しているかもしれない。
 暗い応接室の壁にまたプロジェクターが映し出され、その中で紙咲と名乗ったあの本部社員が話し始めた。

「知力のゲームを勝ち抜けた皆さん、お疲れ様です。知力のゲームに参加した総参加者数は百五十五名、うち勝ち抜け者数七十二名。生存率は46.45%。この数字には驚かされました。四割以下になると想定していたのですが……、なにやらお節介な方が参加者の中に紛れていたのが原因のようですが」

 ドSな雰囲気の赤フレームメガネをかけ直しつつ、話は続く。

「しかし、これから始まるゲームにはそのお節介も介入出来ないでしょう。今から皆さんに行って頂くのは運力のゲームです。先程の知力のゲームでは、皆さんの知力を存分に奮って頂きましたが、今回のゲームでは単純明快に運だけを使って頂きます」

 少しずつ応接室内がざわつき始めていく。誰かが「ということは、体力のゲームもあるってことか?」と声に出すと「その通りです」と紙咲さんは答えて続けた。

「今から皆さんの前に三枚のカードが伏せられた状態で設置されます。皆さんにはその中から一枚を選択して表向きにして頂きます。たったそれだけのゲームです。そして選択したカードが見事運力のカードであれば勝ち抜けです。残念ながら知力のカードを選択された方は……、言わなくても分かっているとは思いますが、その首を頂きます。重要なのは体力のカードを選択してしまった場合です。その場合は再度カードをシャッフルして、別の誰かにカードを選択してもらいます。別の誰かが運力のカードを選択した場合、勝ち抜けるか【自主リタイア】するかどちらかを選択することができます。この【自主リタイア】はスラッシュ/ゲームからのリタイアになるので、願いを叶えられる権利は剥奪されます。ただし、首を差し出して頂く必要はありません。ここから先のゲームを勝ち抜く自信がなければ、そこで自主リタイアするのも一つの手でしょう。ちなみに、このタイミング以外で【自主リタイア】を選択することはできませんのであしからず。また、別の誰かが選択したカードが知力であった場合は、自分で選択した場合と同じく、その首を頂くことになります。カードを選択した人の首は関係ありません。あくまでカードが設置されている人の首が賭けられます。別の誰かが体力のカードを選択してしまった場合は、更に別の誰かにカードを選択してもらいます」

 聞き取れた内容でルールをまとめるとこうなるようだ。

 一、三枚の中から一枚を選択する
 二、選択したカードが運力なら勝ち抜け
   選択したカードが体力なら再度シャッフルして別の人に一枚選択してもらう
   選択したカードが知力なら首を切られる
 三、別の人に選択してもらったカードが運力の場合
    次のゲームに進むか、自主リタイアかを選択できる
    この自主リタイア選択時に首を切られることはない
   別の人に選択してもらったカードが体力の場合
    再度シャッフルして更に別の人に一枚選択してもらう
   別の人に選択してもらったカードが知力の場合
    カードを選択してもらった人のみ、首を切られる

 概ねのルールは以上らしい。簡単な説明が終わるとすぐに設置されたテーブルの上にカードが三枚設置されていった。「お好きな場所に座ってください」という案内のあと、それぞれが思い思いの席につくと紙咲さんがゲームの開始を宣言した。

「それでは、皆さんの首を賭けたスラッシュ/ゲームを、開始して下さい」

 その声が聞こえたあと、照明が再び付けられたものの誰もすぐには動かなかった。お互いを牽制するように観察している人や、頭を抱え込んで悩んでいる人もいる。隣に座っているミッチー先輩も動けずに固まっているようだった。
 ピシャリ、という音が鳴ったかと思うと「ありゃ? これは残念やな」と声がした。到底人間の声ではないけれど、聞き慣れた声でもある。この妖怪声が聞こえた先に志津バアがいた。

「体力かー、残念なカード引いてもうたなぁ。誰か、ちゃっちゃと次の一枚選んでくれへん?」

 そう言っているものの、誰もその役を引き受けようとしない。自分の選択で自分の命を賭けるのはまだ納得がいくだろうけれど、自分以外の命が賭かってくる選択は容易にはできない。もしも、その選択で相手の命が失われたりしたら――、そんなことが少なからず頭の中に過ぎってしまうからだ。仮にそうなってしまったあとで自分が無事だったとしても、心持ちは最悪だろう。
 ふいに、志津バアにちらりと見られた。僕にやれと言っているようにも見える。

「えい!」

 隣から勢いに任せた声が聞こえたのが気になって視線を隣に移すと、一枚を選択したミッチー先輩が見えた。
 その選択されたカードは――、運力。

「わ! よ、よよ、良かった……」
「おめでとうございます」
「え? あ、うん。でも状況的にはあまり喜べないんだけどね」
「無事ならそれが一番ですよ」
「そうだね……。爽太は選択しないの?」
「え? もちろん選択はしますよ」
「もし、もしも爽太が選んだカードが体力だったら、私が次のを選択してあげるね。多分今の私は運がいいから」
「もしそうなったら、その運にあやからせてもらいますよ」

 自分の前に置かれたカードに視線を落とす。どれだけ眺めてみても裏側の模様にズレや、曲がっているなどの特徴は無かった。と言うことは単純に運を使うゲームなのは間違いないだろう。少なくともミッチー先輩が勝ち抜けたのだから、カードに運力が入っていないということでもなさそうだ。悩んで見分けられるわけでもないので、適当にカードを選択した。
 その時、ごとり。という音が鳴った。
 その音がした目の前の席に座っていた男性の首が切られている。座っているからなのだろうか、ゆっくりと机の上に首が落ちた音だったらしい。首から上を失った身体が何の抵抗もなく倒れ込んでいく。軽く辺りを確認してみたけれど、近くに本部の社員はいない。どうやら最初のゲームと同じ手段で首を切られたらしい。あまりに至近距離だったのでミッチー先輩は顔を机に伏せて動かなくなった。更に視線の先で一人、二人と首が切り取られていく。最初のゲームのように首が跳ねるようなことはなく、首だけが机の上に残り、身体だけが床に倒れ込んでいく。
 その光景を眺めていると、ふと何かが光った。
 確かに何かが光ったのを見たけれど、それが何なのかは確認することができなかった。
 やれやれ、命を奪うゲームを開催することに何の意味があるのだろうか。人類の未来を左右する妙案を今こそ思いつかなければ行け無い気がするけれど、かなりの脳細胞を失ってしまったからなのか妙案も何も思い浮かばなかった。
 気を取り直しつつ、僕は自分が選んだ真ん中のカードを表向きにした。



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