POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ/ゲーム - /26 -


ハコニワノベル

 階段を降りきって自席につき、暇つぶしにニュースサイトのフィードをチェックしようとPCの電源を入れた。無機質な機械音、ファンの回転音が高速になるのとほぼ同時に、社内放送が聞こえた。

「勝ち抜けた参加者の皆さん、次のゲームは七階の応接室で行います。十六時までに七階へ来るようにしてください。遅れますと命の保証はございません。繰り返します……」

 周りに見える人達がそんなに驚いていないところを見ると、誰もがこうなることを半ば予想していたということだろう。階段の方で騒いでいた人たちの声も聞こえなくなった。しばらくすると、みんなぞろぞろと移動して行く。もはや自分の意志のない操り人形のようにも見える。見えない糸で吊るされているんじゃないかと疑いたくなった。やれやれ、みんなもっと自分の意志を貫くべきだと強く思う。この僕のように。

「ほら爽太、ぼーっとしてないで行くよ」
「ミッチー先輩、あのですね、僕は今六階から降りてきたところなんですよ。それをまた今度は七階まで登るんですか?」
「いや、七階に行かなきゃ命がないじゃない。……って、あんたなんで六階まで行ってたの?」
「え? それはあれですよ、ほら。トイレが混んでたり清掃中だったりで、気がついたら六階に」
「そうなんだ。まぁ、それはいいから、ほら行くよ」
「そんなに焦って行くほどのことじゃないですよ。十六時でしょ? ……で、今何時ですか?」
「あんたの立ち上げたPCの画面に時計ぐらい表示されてるでしょ……。十五時四十五分よ」
「あと十五分もあるなら、フィードの数十件ぐらいは確認出きますね」
「そんなもんの確認を今しなくてもいいでしょうが」
「ちょ、ミッチー先輩、耳をそんなに強く引っ張るのは良くないと思います」
「あんたがモタモタしてるからでしょ! ほら、行くったら行くの」
「わ、分かりました。とてもとても分かったので、そろそろ耳を……」
「行くわよ!」

 二階のフロアを出てエレベーター前の混雑と対面したときも、僕の耳は引っ張られたままだった。このままだと耳が千切られる可能性も出てきている。これは立派な傷害罪――、以前こんなやり取りがあったような気がする。やれやれ、ミッチー先輩は僕に対する傷害の常習犯だな。人に危害を加えた罪をきちんと償ってもらう必要があるだろう。あと、いつぞやのランチ代に色を付けて慰謝料を請求するしかない。
 と、そこで僕の耳は開放された。

「どうする?」
「どうするって何をですか?」
「いや、エレベーターすごい混んでるからさ」
「階段にしましょうよ、じっと待ってるよりは気が楽じゃないですか」
「そう? あんたさっき六階から降りてきたとかどうとか言ってたから、てっきりしんどいのかと思ってた」
「若さがほとばしってますからね、僕は」
「なんで”僕は”を強く言うのよ? もしかして私には若さがないとか、そう言いたいわけ?」
「別に強調して言ったわけじゃないですよ。そういう風に捉えてしまうミッチー先輩が悪いんじゃないですかね」
「へぇ……」

 えー、人類の未来よ。僕は謝らなければならないらしい。もう間もなく、人類の未来を左右する僕の脳細胞は、耳の穴から流れ出て消滅することになるだろう。それもこれも、笑顔のままで僕の両耳を引っ張り捻っている、この目の前にいる傷害常習犯の無差別傷害事件が原因なのだ。もう僕の両耳は痛みを通り越して、まるで大きさが二倍ぐらいになっているような感覚にさえ陥っている。

「先輩は敬いなさいね」
「……敬うような先輩なら、自然と敬ってますよ」
「なにか言った?」
「それはもう、まったく何も」
「そ。じゃ、早く七階に行きましょうか」
「……そ、そーっすね」

 階段もそれなりの人が移動していて、バタバタと足音で騒がしくなっている。ただ、誰も会話らしい会話をしていない。周りにいる人たちで言えば僕とミッチー先輩ぐらいしかしゃべっていない。まぁ、ミッチー先輩の場合は会話ではなく、暴力とそれにまつわる言葉の暴力なので、正確に言うならば会話ではないのだけれど。
 ぞろぞろと誰もが重たい足を進めて階段を登っていく。数十名は未だにエレベーターを待っているようだ。
 二階から三階。さっきここで痴話喧嘩をしていた女性がどこに消えたのか少し気になったけれど、立ち止まって考えてしまえば僕の両耳が三倍の大きさになるのは間違いないので足を進める。
 三階から四階。あのゲームで被害にあった人たちの遺体はどこにいったのだろうか。外に出られなくなっている以上は、まだ社内に安置されているのかも知れない。あれだけの数を外部の人の目に晒すことはないだろうから、もしかするとまだフロア内にあるのかもしれない。
 四階から五階。さっきPCを立ち上げてネットに繋がったのだから、今日もサーバーは稼働しているのだろう。もしかしたら誰かがサーバー管理の業務を行っているかもしれない。
 五階から六階。周りの口数は更に減ってきている気がする。やれやれ、みんな若さが足りないな。ミッチー先輩なんて「ふぅー」とか言ってる状態だ。運動不足は老化を促進しますよ。と言いかけて辞めておいた。あぁ、そう言えばあのまま妖怪と一緒にいたら七階に移動するのも楽だったな。まぁ、その場合は生気を吸付くされて命がなかったかも知れないけれど。
 六階から七階。階段の踊場まで登ったところで、金属と金属をぶつけたような音が聞こえ出した。次第にその音は感覚を狭めて鳴り響いていく。





 キン――キン――キン。




 キン――キン――キン。



 キンキン、キン。


 キンキンキンキンキン。

 キンキンキンキンキンキンキンキンキン。



 その直後にブツリと鳴ったかと思うと、すぐにごうごうと何かが高速で動いていくような音に変わった。

「な、なになに、この音なに?」
「あまりいい予感はしませんけどね。ミッチー先輩、何かが起こる前に七階に入るべきですよこれは」
「え? うん。だけど、この音何な……」



 はじめに、衝突音がドン。
 次に、ガラスのような破裂音。
 その次に、鈍い振動。
 最後に、七階のエレベーター扉の奥底から聞こえる悲鳴。



 エレベーターが落ちた。
 階段の踊場で尻餅を付いたミッチー先輩を残したまま階段を登りきって、無理矢理にエレベーター扉を開いて恐る恐る下を覗き込む。粉塵が充満していて下まで見えなかったので視線を戻すと、目の前に引き千切られたエレベーターのワイヤーが揺れている。その千切れた断面は自然に千切れたと言うよりも、作為的に千切られたように見える。

「爽太、置いてかないでよ……。さっきのってもしかして……」
「エレベーターが落ちたみたいです。良かったですね、さっきエレベーターを選択しなくて」
「いや、そうだけど……。乗ってた人いるんじゃない? 大丈夫かな」
「そこはあまり深刻に考えない方がいいと思いますよ。……あれ?」

 開けっ放しのエレベーター扉の方へ振り返る。「ど、どうしたの?」とミッチー先輩に聞かれたけれど無視をした。しばらくエレベーターの方を見ていると「なんなのよ? ほら、もう行こう。時間もないし」と軽く腕を引かれたので、扉を閉めてミッチー先輩の方へ向き直る。

「本当に何? 何かあったの?」
「えっとですね、早く応接室に入りましょう。今すぐにでも」
「え、ちょ! な、何? え? えぇ?」
「ほら、行きますよ」

 そこまで言ってミッチー先輩の腕を引っ張って七階の一番大きな応接室へと向かう。他の参加者もエレベーター側を気にしながら応接室へと吸い込まれて行く。「何? 何かあったの? って答えてよ、気になるじゃない」とかなんとかミッチー先輩は叫ぶように言った。それに対して僕は「なんでもないですって」としか言わなかった。



 キン――キン――キン。



 後ろで金属と金属をぶつけたような音が少しずつ鳴り出している。きっと、もう一台のエレベーターも同じ運命になるのだろう。



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COMMENT

●scaさん

お祝いコメありがとーです。
忙しかったので、昼休み中に書いてしまいました。
書けた日は更新するスタンスなので
特に問題ないですよー。

爽太は一応主人公なので
何かしら、あれですよ、きっと。うん。

ちぃさんのお誕生日、おめでとうございます♪
忙しいのにUPは明日でもよかったのではないかと・・・ちょっと気になりましたよ、と。汗

や、後半、爽太クン、別人のような雰囲気醸し出しましたねー♪
次の展開が・・・楽しみであります(*^^*)
  • 2010.01.26[火]
  • sca

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