POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ/ゲーム - /23 -


ハコニワノベル

「危なかったな」
「ほんとだよ、まったく。もう少し早くじゅじゅと出会うべきだったな」

 二人は座り込んだままで会話を続けている。ギリギリだった。ほんの数秒でも遅れていたら、あの最後に見えた山尾部長のように首を切り取られていただろう。いや、あれは正確には首ではなく上顎から上を切り取られていた。一度間近で調べた時に、その切口がカッターナイフで切られたようにまっすぐだと言うことは知っている。でも山尾部長は何も無い場所で、僕たちがほんの数秒前に走った場所で、音も無く切り取られてしまった。近くにいた本部社員は扉を開閉していただけだったし、その他の本部社員は近くにはいなかったと思う。あれは一体どうやって切られているのだろうか。
 そんなことを考えていると気分が悪くなった。腹の中に重たい鉛でも詰め込まれたような感覚、胃が何かを吐き出してしまいそうだ。理由は単純明快だ――。

「あの、そろそろ二人とも降りてくれませんか?」
「ん? なんだ、座り心地の悪い椅子だと思ったら爽太だったのか。どうりで」
「確かにこいつは座り心地が悪いな」
「だったらすぐにでも降りてもらえます? 案外、お二人とも重た……」

 二人から同時にボディブローを喰らった。レディに対してしてはいけない発言をしてしまうとは、さっきのゲームで少々頭を使いすぎたようだ。紳士中の紳士たる僕としては、なんたる不覚だろうか。やれやれ、これは気を引き締める必要があるな。

「とりあえず、勝ち抜けられて良かったですね」
「それでも相当数が犠牲になったな……」
「半分ぐらい? 勝ち抜けできたのは」
「半分より少ないぐらいだと思う。……くそっ、もっと早くルールに気付いて対策すれば良かったな」
「じゅじゅがいなかったらもっと犠牲になってるわよ」
「そうですよ、じゅじゅさん。あの状況下であれだけ勝ち抜けさせたんだから良かったじゃないですか」
「……」
「出来る限りのことはしたじゃないですか、ね? ひとまず勝ち抜けできたことを喜びましょうよ」
「……んじゃない」
「え?」
「まだ、安心じゃない」
「どういう意味ですか?」
「多分……、ゲームはまだ終わってない」
「またまたぁ、そんなこと言って脅そうったってそうはいきませんよ」
「こんなもんで済むわけがないんだよ。わざわざ名前に”スラッシュ”を入れてるんだからな……」
「それってどういう意味なんですか?」
「……ルティ、化粧直ししとこうぜ。今日はまだまだ長くなりそうだ」
「おっけー」
「ちょ、僕は無視ですか」
「ん? 今爽太の声が聞こえたかルティ?」
「えぇ? 爽太の声? 聞こえてないわよ。そこにあるのは座り心地の悪い椅子だけだし」

 これはイジメだ。部下を人とも思わない卑劣な行為だ。
 これは労働相談センターに訴えかけてなんとかしてもらう必要があるな。最終的には労働基準監督署からキツく叱って頂くことになるだろう。こんなにも素敵な紳士中の紳士を、椅子だと罵られたんだからそれぐらいは仕方がない。そこまで考えてから「訴えますよ」と言ってみたものの、すでにそこには誰もいなくなっていた。――少しだけ虚しい。
 誰もいない場所で佇んでいるわけにはいかない。転がって汚れた部分をはたいてから大きく伸びをしてトイレを済ませた。そう言えば朝食以降何も食べていなかったことに気がついて、リフレッシュスペースにある自動販売機の前まで移動した。そこでパンでも買おうと思ったものの、あんなものを沢山見たことを思い出して食べる気がしなくなったのでやめた。買おうとしたのがジャムパンだったので、心底買わなくて良かったと階段を降りながら思った。
 とりあえず二階の自席に戻ろうと思って階段を降りていたけれど、下に降りるほどに騒がしくなっていく。二階に辿り着くと騒ぎの理由が分かった。一階ヘ降りる階段が防火用シャッターによって封鎖されている。横に付いている通行口も外側からロックされていて開けることが出来ないらしい。騒いでいる人たちの話によるとエレベーターも一階ヘ降りれなくなっているらしい。この分だと非常階段も封鎖されているだろう。
 防火シャッター前で「出せ!」だの「殺す気か」と騒いでいる人たちを避けながら、フロア内に入り自席へと向かった。目的はウォーターサーバーで無料のコーヒーに在り付くことだ。食欲はないものの水分ぐらいは口にしておくべきだろう。
 自席に向かう途中でふわふわとしている人に話しかけられた。

「爽太君! 無事だったんだね。よ、良かった。きっとジェシカちゃんが助けてくれたお礼に護ってくれたんだね」
「妖精さ……、長谷川さんも無事でなによりです」
「三連敗したあと、一回勝っただけでカードが揃ったんだ。お花たちが導いてくれたんだよ」
「そ、そうですね。きっとね、うん。そうに違いない」
「だけど、お外に出られないからお花たちのお世話に行けなくて困ってたところなんだ」
「なぜか封鎖されてますよね。僕、今降りてきたところなんで良く分かってないんですけど、長谷川さんが降りてきたときからずっと封鎖されてたんですか?」
「私が降りてきたときにはもう閉じ込められてたよ」

 長谷川さんの言う「閉じ込められた」という言葉を聞いて、なるほどそうだなと感じた。長谷川さんはそれからも「お花たちが私を待っているんだ」と、かなり本気で何度か語ってからどこかへ行ってしまった。相変わらずの妖精さんぶりである。
 辺りを伺ってみると、ゲーム開始前から随分と人が減っている。防火シャッター前に集まっている人を含めてもそんなに人数はいない。じゅじゅさんが勝ち抜けできたのは半分より少ないと言っていたので、実際にその通りなんだろうと思う。流石に目の前で何人もの人が死んで――いや、殺されてしまったので、誰もが平常心を失っているようだ。まぁ、それもそうだろう。一般的に目の前で誰かが殺される瞬間に立ち会うことは稀だ。その稀なことが五時間の間に何度も訪れたのだから、一般人であれば平常心を失うのも仕方がない。
 ウォーターサーバーでコーヒーを入れ、久しぶりに自席に座る。「久しぶり?」なぜか声に出た。たかだか五時間ほど座ってないだけなのに、感覚として何十時間も経っているように思える。それだけ緊迫した時間を過ごしたからだろうか。

「良かったぁ」

 後ろから気の抜けた声が聞こえたので振り返る。そこには安心しきった顔で柱にもたれかかったミッチー先輩がいた。

「あ、ミッチー先輩。ちぃーっす」
「……ちぃーっす」
「お疲れですね」
「そりゃぁ、まぁ、ね」
「無事でなによりです」
「あんたこそ。私、あんたは勝ち抜け出来ないと思って、ずっと探してたのに見つからなくて。……もしかしたら、なんて考えちゃったじゃない」
「心配しなくても大丈夫ですよ。ほら、ご覧の通り」
「はぁ。とにかくあんたが無事で安心した」
「ご心配おかけしました……って、何泣いてるんですか! ? 僕、何か悪いことしましたっけ?」
「私さ、そこで長谷川さんと出会ってさ、あんたがいるって聞いたから慌てて来たの。そしたらあんたいつもみたいにコーヒーなんか飲んでるし、私の心配はなんだったんだろうって考えたら安心しちゃって、もう、なんて言えばいいんだろ……もう、爽太のバカ」
「なんでバカ呼ばわりするんですか。やれやれ、名誉毀損で訴えますよ?」
「私にもコーヒー入れて」
「思いっきり無視ですか」

 ミッチー先輩と二人でコーヒーを飲みながら「落ち着きますな」と言ったら「こんな状況で落ち着けるわけないでしょ」と言われた。心にゆとりがない人はピリピリしていてよろしくない。こういう状況だからこそ落ち着いて冷静になるべきだ。
 コーヒーの入っている紙コップを見つめながら思考する。
 最初、参加者は百五十名ぐらいだった。そのおよそ半分の人たちはさっきのゲームで殺されたのだろう。一体何の意味があってこのゲームは開催されたのだろうか。そう言えばじゅじゅさんが「ゲームはまだ終わってない」と言っていたことと、KGCの社ビルから外に出られなくなっている状況を考えると、もっと多くの犠牲が出るのかもしれない。

「……多分やで、多分あんたの近くで誰か死ぬ」
「一人や二人じゃないと思うねん。はっきりとは見えへんかったけど、間違いないと思う」
「とにかく、気を付けや。変なもんに不用意に足突っ込んだらあかんで?」

 不意に静香が言っていたことを思い出して「あぁ、コレのことか」とつぶやいた。見つめていた紙コップに残ったコーヒーを一気に飲み干す。やれやれ、これは無事に帰ってもかなりキツく怒られることになりそうだ。



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COMMENT

●じゅじゅさん

いつまで安心できるか、ってところが
書き手としても、読み手としても
難しいなぁーと思ってたりしてます。


●ミッチー先輩

ちぃーっすwww
生きてましたね!
登場人物が多いのでなかなか毎回登場させられないので
全員の状況を各話で出せるほどの技量がないので
ときおりハラハラしてくださいませませ。

生きてた!
ホッ・・

ミ、ミッチー!!!(ノ△・。) 良かった、良かった・・・

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