POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ/ゲーム - /22 -


ハコニワノベル

「これはこれは、山尾部長じゃないですか」
「あん? なんだ近重か。それに爽太か……。ふん、イカサマコンビめ」
「お困りみたいじゃないですか、お助けしましょうか?」
「お前らの口車に二度と乗るか」

 僕たちを無視して山尾部長が通り過ぎていく。どうやら本当に焦っているようで、手当たり次第に参加者に勝負を持ちかけながら動き回っている。

「くそっ」

 小さく吐き捨てるようにじゅじゅさんが言ったのが聞こえた。
 このままだと田中課長がリタイアになってしまう。きっとじゅじゅさんが考案したであろうこの計画を、田中課長も知っていたに違いない。自分発案の計画に協力してくれた田中課長が犠牲になるかもしれないのだから、憤りを感じているのだろう。確かにもう時間はない。

「爽太、お前は勝ち抜けしとけ」
「この状況で、はい分かりました……とは言えないですよ」
「いいから早く行けって」
「……じゅじゅさん、責任取って自分が犠牲になろうとか思ってるでしょ。そういうのすぐ分かっちゃうんですよね」
「仕方ないだろ、私の口車に乗ったせいでルティを犠牲になんてしてたまるか」
「だからってじゅじゅさんが犠牲になるのも違うと思いますよ」
「じゃぁ、どうしろって言うんだよ!」
「まだ残ってる参加者に勝負を挑んでカードを手に入れるとか」
「時間を考えろよ」
「それじゃぁ、例えば僕が犠牲になるという手はどうですか」
「却下」
「案外良い手だと思うんですけどね」
「あのな、その手は私が犠牲になるのと意味は同じだろ?」
「確かに」
「くっそ、山尾の野郎……いらないところで慎重になりやがって」
「僕に負けたのが相当悔しかったみたいですね、あれは」
「ちくしょう、時間が無さ過ぎる!」

 携帯電話で確認すると十四時五十八分と表示されている。――残り二分。
 まだ勝ち抜けられない参加者のほとんどは、既に諦めたかのように呆然としている。まるで立ち尽くしている人が木のようだ。その木の間をドスドスと駆け回っている山尾部長が見えた。ほとんどの人が諦めている状況で、未だ尚諦めずに生に執着する姿はたくましい。

「山尾部長じゃないですか」

 突然、田中課長の声が聞こえた。この声の出し方は外部の人と電話するときの声だ。妙に女性らしいその声は、目を閉じて聞けば理想の美人が喋っているようにしか聞き取れないほど綺麗だ。この電話の声だけで、配送会社のお兄さんが何人も恋に落ちた伝説があるらしく、中には社内へ来た時に「田中さんはどなたですか?」などと、見なくてもいい現実を確認しに来てしまう猛者までいたと言う。もちろん、確認後は何事も無かったかのように猛スピードで帰って行ってしまうのだけれど。

「ん? 田中じゃねーか、お前も勝ち抜け出来てないみたいだな」
「そうなんですよー、あと一枚無くなれば勝ち抜けなんですけど……。もう諦めた方がいいんですかねぇ」
「一枚多いのか? ふーん、確かに四枚しか持っていないみたいだな」
「誰かがこの余ってる一枚を取ってくれたら勝ち抜け出来たんですけどね」
「……例えばだな、お前が一枚多く持ってるカードは健康に関するカードだったりしないか?」
「え? それはそのままの意味で受けとれば、そうですよ」
「そうか。実は俺もあと一枚で勝ち抜けなんだが、勝負する相手がいなくて困ってたんだよ。健康に関するカードが足りなくてなぁ……。どうだ、ここは俺と勝負しないか? これはもしかすると、お互いに取ってメリットになると思うんだが」
「このまま時間切れを待つよりいいかも知れないですね。いいですよ、最後の勝負といきましょう」

 物凄くにこやかに話を続ける田中課長と、自身の生き残りに貪欲な山尾部長の勝負が始まってしまった。仮にお互いが言っていることが正しければ、二人とも勝ち抜け出来ることになる。――残り時間は一分と数十秒。

「……」
「どうしたんですか、じゅじゅさん」
「爽太、今持ってるカードを全部本部社員に渡せ」
「いや、でもルー姉さんが……」
「いいから早くしろ。私も全部出す」
「どういうことですか?」
「すぐに分かる。あと、時間切れになった時に例え勝ち抜けてたとしても、このフロアにいたら死ぬぞ」
「もう一分無いじゃないですか」
「だから今のうちにカードを渡して走る準備しろ」
「今走ったら駄目なんですか? 今からでもギリギリなんじゃないかと」
「駄目だ。今慌てて走ったらルティが勝ち抜け出来なくなる」
「え、ルー姉さん勝ち抜け出来るんですか? 確かルー姉さんカード五枚持ってるんですよ? だから山尾部長に一枚取られたって勝ち抜けは……」
「声がでかい。とにかく、勝ち抜け条件を達成させて走る準備だ」

 じゅじゅさんに口を抑えられたままで、二人とも本部社員にカードを全て渡した。これで一応は勝ち抜けたことになる。しかし、本部社員に確認すると、時間切れまでにフロアの外に出ていないとリタイア扱いになるのは本当らしい。ここから出入口の扉まで走って二十秒かからないぐらいだろうか。やれやれ、またまた若さをほとばしらせなくてはいけないらしい。
 そんなことよりも奇妙なのは、この状況で田中課長が勝ち抜けるということを、じゅじゅさんが確信していることだ。田中課長はカードを五枚持っているのだから、最短ならカードを一枚増やさないといけない。それなのに山尾部長に一枚差し出す――ん? 山尾部長はさっき何って言っていた? 田中課長と勝負する前に、確か田中課長が電話応対用の声で話しかけてそれに対して山尾部長が”確かに四枚しか持っていないみたいだな”とか言ってなかったか? つまり田中課長は一枚を隠し持って勝負を挑んだということか。

「なるほど読めましたよ、じゅじゅさん」
「よしよし、だから今は静かにしとけよ」

 そう言われてから、僕もじゅじゅさんが見つめる方向へ視線を移動させる。

「田中、急げよ。本当にもう時間がない」
「はい。出しました」
「俺も出したぞ、よしさっさと交換しよう」

 山尾部長が出したカードは知力、対して田中課長の出したカードは――運力。

「なっ……」
「山尾部長ごめんなさいね。よし、カード二組揃ったな」

 大きく開いた胸元に隠していた一枚を取り出しつつ電話応対用の声を元に戻すと、田中課長はテーブル横に立っている本部社員にカードを渡した。

「ルティ、走れ!」

 じゅじゅさんの掛け声で一斉に走り出す。残り時間は確認していないけれど数十秒だろう。
 走る、走る、走る。こんな広さがあったのかと思うほどに出入口までが遠く感じる。
 急げ、急げ、急げ。もう少しで辿り着ける距離になると、出入口付近にいた本部社員がタイミングよく扉を開けてくれた。扉前で一旦立ち止まろうとしたら、後ろからじゅじゅさんに蹴り出されてしまった。世界が反転して見えるのは僕がひっくり返っているかららしい。
 その逆さまの視線の先、僕たちの最後方を走っている田中課長の更に後ろから、怒り狂った山尾部長が追いかけて来ているのが見える。

「ふざけるなぁっ! 絶対に許さんぞ、お前らぁっ! !」
「許して貰う必要はないですので、ごきげんよう」
「飛び込め、ルティ!」

 出入口で待ち構えていたじゅじゅさんが田中課長の伸ばした腕を引っ張りつつ、その反動で自分も外に転がりでた。それとほぼ同時に本部社員が扉を閉めていく。山尾部長は扉に辿り着けないまま、扉は重々しい音を立てて閉じた。
 ただ、扉が完全に閉じるその間際――、追いかけてきていた山尾部長の上顎から上が音も無く切り取られたのが見えた。
 扉のすぐ向こう側で、べしゃりと音が鳴った。



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COMMENT

●☆まりモさん

【想定では】半分なので
どうなるかは分かりませんw

映像化できるほどのものになってたら嬉しいです。
適度に適当に頑張って書いていきます。


●scaさん

映像化出来ますか!
爽太の顔ってどんななんだろう。
人によって想像している顔が違うと思うんですけど
それはそれで興味ありますね。


●じゅじゅさん

実際にこんな現場見てたら
確実に心を壊しそうですけどね。

これほど耳に心地よい「べしゃり」は聞いたことがありませんわ、っふ(`∇´ )

既に映像化して読んでました(笑)どーしても主人公の顔が浮かんでしまって( ̄▽ ̄;)
これで半分なんて・・・( ̄□ ̄;)
いや、楽しみ、楽しみ♪
  • 2010.01.19[火]
  • sca

うわ~!
これで、まだ半分なんですか?

ハラハラドキドキで、これからますます期待して読んでていいですか♪
てか、なんか、アタシの頭の中では、すでに映像化になってます!w

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