POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ/ゲーム - /19 -


ハコニワノベル

「勝っちゃいるんだが、セットが揃わなくてなぁ」

 そう言うと山尾部長は十枚以上あるカードをチラつかせ、相変わらずのメタボな身体を揺らしつつ近づいてくる。やれやれ、せっかく自分に酔いしれていたというのに台無しだ。

「山尾部長、まだ勝ち抜けて無かったんですか?」
「さっき言っただろ、勝負には勝ってるがカードが揃わなくてな。それよりもだ、あまり時間もないしさっさと勝負しようじゃないか。お前も勝負しないことにはどうにもならんだろ? まぁ、お前はこのまま時間切れになったって誰も困らないから気楽なもんだろうけどな! ワハハ!」
「いや、だから自己紹介しなくてもいいですって」
「なんだとっ! ? 貴様、今何を言ったか分かってるのか? あぁ?」
「毎回同じセリフで凄まなくてもいいですよ。と言うかですね、それ飽きたんで別のパターンにして下さい」
「何をわけの解らんことをベラベラとっ! ……まぁそれはいい。で、何だ、お前今カード何枚持ってるんだ? もしかして一枚ってことは無いよな? ん? どうなんだ?」

 知ってて聞いてるのだから手に負えない。山尾部長は実に嬉しそうにこちらを見下しながら「どうなんだ? ほら、言ってみろ。何枚なんだ?」と何度も聞いてくる。やれやれ、どうしても言わせて優越感に浸りたいらしい。

「一枚ですよ」
「えぇー! ? なんだってっ! それはお前! 大変じゃないか」
「わざとらし過ぎですよそれ」
「あー、困ったな。……うん、そうだこうしよう。俺は今カードが多いから、お前のカードを読んでお前に負けるカードをうまく出してやる。そうしたらほら、お前助かるだろ?」

 そこまでわざとらしく言ってから、今までで一番醜い笑顔を見せて山尾部長は更に口を開いた。

「だからな、勝負して下さいって土下座しろよ」

 実に嫌らしい性格をしていらっしゃる。この口ぶりは僕を助けようなどとは微塵にも思っていないのが丸分かりだ。それに、もし土下座をして頼んだとしたら、間違いなく断ってくるのが目に見えている。やれやれ、こう言う大人にはなりたくないもんだ。

「土下座してまで勝負したくないですよ」
「なんだ、お前もうビビって諦めてるのかぁ? フハハ! まぁ、このタイミングでカードが一枚しか無いんじゃそれもしょうが無いか。フハハ!」
「別に諦めたわけじゃないですけどね」
「でも怖いんだろぉ? 負けたらポーンと、首が跳ねるんだからなぁ」
「怖くはないですよ。負けなければいいだけですし。それよりも、どうやって首を飛ばしてるんですかね?」
「はぁ? そんなの俺が知ってるわけねーだろうが。お前、頭おかしくなったんじゃないか? あ、元からか。フハハ! フハハ!」
「いや、実際問題として疑問になりません? 別に本部の社員さんが手を下しているようには見えないし、このフロアがそれなりに広いとは言っても、沢山いる参加者の中から狙った相手の首だけ跳ねてるんですよ?」
「そ、そんなのはだな、鋭利な刃物で目にも止まらぬ速さで……」
「だから、刃物を振り回したら大勢に被害が出るじゃないですか。話聞いてました? あ、いつも聞いてないのか」
「馬鹿にするな! 相変わらずお前は腹の立つ野郎だ……。いい加減にしとけよ? さもないと……」

 あからさまな舌打ちをしてから山尾部長が「んー? おぉ、そうだそうだ」と何か妙案を思い付いたらしい。間違いなく愚策だ。しかもこの場合は、僕に取って良い話になるわけがない。ここは早々に立ち去ってしまうべきだろう。

「それじゃぁ、山尾部長。僕は考えることがあるので失礼します」
「まぁ、待て待て。そんなくだらないこと考えるよりだな。お前、やっぱり俺と勝負しておけ」
「くだらないですかね?」
「しかもだ、勝負は二回しよう」
「二回?」
「お前、一枚しか持ってないだろ? 心優しい俺が、お前に勝ち抜けるチャンスをやると言うわけだ。この状況だ、一枚しか持っていない奴と喜んで勝負してくれる奴なんていないだろぉ? だから俺がお前と二回勝負する。連続で勝てばだな、もしかするとお前すぐに勝ち抜けるかもしれないだろ?」
「理屈は分かりますけど、出来れば女性と勝負したいんですよ。仮にですよ? ここで自分が死ぬことになったとして、最後に見るのが山尾部長っていうのは冥土の土産にするにしても、最低なチョイスじゃないですか」
「俺だってお前が死んでいくところなんて見たくねぇよ。とにかくだ、二回ほど勝負してやるって言ってるんだぞ。それともこのまま時間切れで死にたいのか? そうじゃないなら早くしろよ。残り時間だってそんなに無いんだぞ」
「どうしてもですか?」
「どうしてもだ」
「うーん。そこまで言われたら断わりづらいなぁ」
「そうだろう。お互いにメリットがあるじゃないか、な?」
「じゃぁ……」
「おぉ、やる気になったか。それじゃぁ、テーブルは……」
「あ、ちょっと待ってください」
「なんだ?」
「勝負して下さいって土下座して下さいよ」

 フロアが静まり返ったのは、山尾部長の「ぶざけるなっ!」と言う怒鳴り声があまりにも大きかったからだ。最初に自分で要求したことを要求されて怒鳴るとは、なんとわがままな人なんだろう。顔が真っ赤を通り越して赤黒くなっている。まるで首を絞められているみたいに見えた。

「さっさとテーブルにつけ! もう拒否さえ認めんぞぉ。いいか二回だからな、二回」
「分かりましたよ。やればいいんでしょ、やれば」

 これ以上山尾部長の相手をするのも面倒なので、さっさと勝負を引き受けることにした。テーブルの向かい側には怒り過ぎて鼻息が荒い豚――じゃない、山尾部長がいる。あまり長時間見たくはないが、勝負中は仕方がない。

「待て、爽太!」

 山尾部長の怒鳴り声で集まったギャラリーを掻き分けて、僕の目の前に一人の参加者が飛び出して来た。

「じゅじゅさんじゃないですか。随分疲れてません? いつもみたいに颯爽と登場すればいいのに」
「あのな、じゅじゅさんにもいろいろあるんだよ。それよりも爽太、お前この勝負降りろ」
「あぁん? 近重、お前邪魔するなよ。この勝負はもう決まったことだ。そうだろ、爽太?」
「まぁ、渋々ですけどね」
「駄目だ。この勝負は降りろ。今すぐに」
「男と男の勝負に口出しするんじゃねーよ!」
「だ、そうですよ。さっさとやってしまうんで、大丈夫ですよ」
「大丈夫なわけないだろ。お前、山尾が何で二回勝負にこだわってるのか分かってるか?」
「僕に勝ち抜けるチャンスをくれるかららしいですよ」
「お前はメンドくせぇうえに、馬鹿で困る」
「こんな大勢の人が見てる中で褒めないで下さいよ」
「褒めてないし、冗談で勝負するななんて言ってるんじゃない……」

 いつも以上に真面目に、今までに見せたことの無いほど緊張した表情をして、じゅじゅさんは口を開いた。

「この勝負に乗ったら、お前は確実に負ける」

 瞬間、目の前の赤黒い生き物が大きく舌打ちした。

「どういうことですか?」
「普通に考えてみろよ。一回勝負ならお前が生き残る可能性は2/3、勝つか引き分けるかだ。でもな、二回勝負になると生き残る可能性は1/3になる」
「じゅじゅさん、言ってる意味がよく分かりません」
「一回勝負なら勝つか引き分けでいい。でもな、二回勝負になると一回目で引き分けたら、二回目で確実に負けるだろうが」
「あぁ、なるほど。一枚しかないカードが何かバレた時点で負けが確定すると」
「そうだ。一回目で勝たない限り、お前に勝ち目は無い。だから山尾は二回勝負にこだわってるんだよ。こいつ、私が知ってるだけでも同じような手口で三人をリタイアさせやがったんだ」

 もう一度大きく舌打ちをしてから、山尾部長は「知ってたのか」とつぶやいた。

「このゲームは最高だ。追い詰めた相手の希望にすがる顔が、奈落に落ちていく様を目の前で拝めるんだぞ? 最高だと思わないか? こんな最高なゲーム、カードが揃ったとしても時間ギリギリまで楽しむべきだろう。フハハ! フハハ!」

 よく見れば、山尾部長のズボンには赤黒い斑点がいくつも付いている。今の話が本当なら、その斑点はリタイアした参加者の――血。

「性格だけでなく、人としても腐ってやがる」
「フハハ、まぁいい。お前をこの手で殺せないのは残念だが……、他にも追い詰められている奴らは沢山いるからなぁ」
「いい加減にしろよ! 自分が何してるのか分かってるのか?」
「あぁ、よく分かってる。それはな……ゲームだよ! フハハ! フハハ!」

 悪びれる素振りもなく、大げさに両手を開いて山尾部長はそう言い放った。少しだけ目の前に立つじゅじゅさんは何も言わないものの、見て取れるほどに怒りを現わにしている。確かに、山尾部長のしていることは下劣なことだ。けれど、このゲーム自体が最初から下劣なのだから仕方がない。
 それにしても普段はいつでも余裕たっぷりで、何でも自分の思い通りにしているようなじゅじゅさんが、目の前の山尾部長に何も出来ずに悔しがっているというのは珍しい状況だ。握りしめた拳が震えているのが分かる。どうにかしてやりたいのに、どうにもならないジレンマだろう。やれやれ、仮にもレディが悔しがっているところに遭遇して、何もしないままでいるのは紳士的な行動に反するじゃないか。紳士中の紳士である僕が、ここでやるべきことは一つだ。

「あの、山尾部長。早く勝負しましょうよ」



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COMMENT

●じゅじゅさん

爽太がどうなるか、書いてる最中は決まってないので
いろんな意味で心配して下さいw(主に書いてる人を)

(爽太はだいじょうぶだろうと思うけどやっぱり言って見る)

そ・爽太ぁぁぁぁぁぁ!!!!!

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