POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ/ゲーム - /18 -


ハコニワノベル

 相変わらずフロア内は異質な雰囲気のままだったが、誰も逃げようとしたり自暴自棄にならなくなった。それもこれも、志津バアが勝ち抜いてフロアの外に出て行くのを誰もが見たからだ。それにしても三十三枚は集めすぎだと思う。
 あちこちに転がっていた首と胴体は本部社員によって機械的に片付けられ、フロア内には血のにじんだ跡と臭いだけが残っている。
 ここに来て参加者は大きく二つのグループに分割されている。残り僅かで勝ち抜けるため、すぐにでも勝負をしたい裕福層。それと、残り僅かでリタイアになるため、確実な勝負をしたい貧困層。僕は後者のグループに所属していると言えるだろう。まぁ、カードは少なくても心は錦。紳士中の紳士であることには変わりはない。
 裕福層の参加者同士で、お互いにリタイアのリスクを背負わないぬるい勝負がまばらに再開され始め、時間の経過と共に一人、また一人と勝ち抜けしていく参加者が出始めた。貧困層の参加者が裕福層の参加者に勝負を持ちかけると、相手をリタイア――殺したくない一心で勝負は断られてしまう。徐々にその流れは確立してしまい、カードの貧富差による溝が深まっていく。
 所持枚数の少ないグループは身動きが取れないまま、時間だけが過ぎて行く。

「美知恵の彼氏君じゃないか」
「えーと確か、秋山さん」
「おっ、正解。だけど私、君に名乗ったっけ?」
「いやいや、あの時ネームプレートを見て覚えてただけですよ」
「ふーん。なかなか抜け目のない奴だな君」
「秋山さん、調子はどうですか?」
「私? 私はやっと揃ったんだけどな。智子がまだなんだよ」

 言いながら秋山さんは親指で自分の後ろを指す。その方向に視線を移すと青白い顔をした智子さんが立っていた。二枚のカードを辛うじて持っている。きっとこの異常な状況に自分を保つのもままならないのだろう。「大丈夫ですか?」大丈夫じゃないのが見て取れるのに聞いてしまうと「真樹と朋美はもう勝ち抜けちゃった……」と、なんとか聞き取れる声でつぶやいていた。

「智子、落ち込むな。あと一枚で揃うから。な?」
「だけど……」
「そんなに深く考えるなって。とりあえず勝ち抜いてさ、さっさとここから出よう」
「だけ……ど……」
「そんなに暗い顔するなって、大丈夫。落ち着いて相手を見付ければ大丈夫だから」
「……ません……は、ですよね……」
「ん? なんだ、どうした智子?」

 突然、肩を支えている秋山さんの腕を智子さんが振り払って叫んだ。

「秋山先輩はいいですよね! そりゃ、もうカード揃ってますもんね! 私のことなんて他人事ですもんね! こんな状況で、こんな状況になってるのに、落ち着けるわけなんかないのにっ!」
「……い、いや、まぁそうだけどな。だからって叫んでたって始まらないだろう?」
「じゃぁ、先輩のカードを下さいよッ! なんでこんなことになるの? もう……こんなの嫌、嫌なんです」
「……」

 同じようなやり取りは既に周りでも一通り起きていたので、目の前のこのやり取りを気にする人は周りにはいなかった。
 秋山さんは一瞬バツの悪そうな顔をしていたものの、両手でパンパンと強く叩いて顔を正しすと、既に泣き崩れている智子さんの胸ぐらを掴んで無理やり立たせた。秋山さんが醸し出す雰囲気があまりにも男勝りだったので、一瞬本当に男の人なんじゃないかと疑ってしまうほどだ。それにしても胸ぐらを掴む姿が似合いすぎなのはどうなんだろうか。これは今突発的に掴んでいるわけじゃなく、普段から掴み慣れているということだろう。そう言えばサービス課は体育会系のノリだということを聞いたことがある。

「何……するんですか……」
「言いたいことはそれだけか、中居?」
「やめて下さい。こ、こんな状況でお説教なんて、されたくなんかないです」
「質問に答えろ、中居。言いたいことはそれだけか?」
「……そうですよ、それだけですよ」
「そうか分かった……」

 そこまで言ったかと思うと、強烈な右フック――のような秋山さんのビンタが智子さんの頬を打ち抜いた。かんしゃく玉が破裂したような音がフロア内に響く。流石に周りの参加者の視線が一気に集まり、一瞬騒然とした。秋山さんはそんなもの気にしようともしない。

「私はな、あんたに同情してるわけじゃない。あんたに情けをかけてるわけでもない。あんたに助けてと頼まれてもない。今のあんたに私が言いたいことは、たった一つだよ」
「……なんですか」
「甘ったれてんじゃねぇっ!」

 再度、今度は誇張ではなく左フックが智子さんの頬を打ち抜いていた。

「中居! このままここで泣いてていいのか?」
「よ……よくない、ですよ」
「そうだろう? だったら立て。あと一枚揃えてさっさと出るぞ」
「……はい。……すいませんでした」

 智子さんは涙を拭いてから、力強く立ち上がった。「本気で殴らなくてもいいじゃないですか」と笑いながら言うと「左だっただけでもありがたく思えよ」と返されていた。なるほど、サービス課というのは、生半可な体育会系ではないと言うことが分かった。これは間違いなく傷害罪に該当する。病院に行って診断書をもらえば、確実な証拠が手に入る。訴えればかなり有利に進むだろう。みたいなことを考えながら慰謝料と治療費の請求を妄想しようとすると、秋山さんが話しかけてきた。

「悪い。変なもん見せたな」
「あー、はい。でも、気にしないで下さい」
「爽太君、ごめんね」
「いや、でも大丈夫なんですか? 赤くなってますけど」
「いつものことだから心配ご無用だ。な、智子」
「はい。二週間もすれば治ってるから大丈夫」

 二人ともさっきまでの殺伐とした雰囲気は微塵にも感じさせず笑い合っている。殴られたのに笑えるということは異常なように感じる。これはすぐにでも病院に行くべきだろう。きっと脳が揺れすぎたんじゃないだろうか。

「それじゃ、私たちは対戦相手探しに行くわ。美知恵の彼氏君も諦めず、さっさとこんなとこ出た方がいいぞ」
「よし、気合入れなおして頑張ろうっと。爽太君も頑張ってね!」

 特に異常な素振りもなく、二人は普段のようにリラックスした様子で進んで行く。その後ろ姿を見てなんとなく、秋山さんの男気に押されっぱなしなのが悔しくなった。いいのだろうか、この紳士中の紳士である僕が男気で女性に負けているというこの状況は。いや、よくない。ここはこの僕の紳士らしいエールを送って、男としての寛大さをアピールしておかなければならないだろう。

「智子さん」
「ん? なあに?」
「智子さんは大丈夫ですよ。僕なんて、カード一枚しかないですから」

 笑いながら「うん、ありがと」と小さく言うと、秋山さんと智子さんは貧困層の集団へと消えていった。我ながら素晴らしいエールだった。寛大さがほとばしっている。流石は紳士中の紳士だ。
 その余韻に浸っていると、聞きたくない声が横から聞こえた。

「爽太君、勝負しようかぁ? ん? フハハ! フハハ!」

 確認するまでもなくその声の主は、メタボ中のメタボとでも言うべき山尾部長だった。



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COMMENT

●サイコさん

面白くなってきましたか!
それはとても良かったです。
ついでにルールもw

次どうするかは、基本的に次を書いてる時に考えます。
常にぶっつけ本番ですw

ルールも分かってきた(今頃…)

だんだん面白くなってきた。
次どうするつもりなんだろう…(笑)

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