POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ/ゲーム - /15 -


ハコニワノベル

「ゲーム参加者は速やかに四階特設フロアへ移動すること。繰り返す、ゲーム参加者は速やかに四階特設フロアへ移動すること」

 機械的な社内放送が流れたのは午前九時四十五分。
 やれやれ、随分待たされたな。などと独り言を吐き捨てながら階段に向かう。大勢が同じ建物内で移動をする場合、エレベーターはかえって遅くなることが多い。それに若さがほとばしっている僕にとって、階段を使うことは当たり前のことだろう。

「お? まったく成長してくれない後輩君じゃないか」

 二階から三階へ上がろうとした僕を呼ぶ声を見下ろすと、システム部の黒瀬さんが登ってきているところだった。

「黒瀬さん、おはようございます」
「あぁ、いいよいいよ。リストラされたら先輩も後輩も、上司も部下も無いんだし」
「んー……」
「どうした、悩んでるフリなんてして」
「フリじゃないですよ」
「フリじゃないのか?」
「えぇ、これは悩む真似です」
「同じだな」
「いやいやいや、そこまで気付くなら聞きませんか? 何を悩んでいるんだ、黒瀬さんに話てみなさい。みたく」
「聞かれないと言わないような悩みなんて、大抵の場合ロクな悩みじゃないだろ」
「これは何やら実体験からのお言葉ですかね。有り難や有り難や」
「もういいって。で? 一応聞いてやるけど、どうしたんだ? 悩む真似なんてして」
「黒瀬さんって、他人を拒絶するイメージありますけど、どちらかと言えば他人に流される人ですね」
「もう聞かなくていいか?」
「まぁまぁ、ここは聞いといて下さい。あのですね、何人かの人が今日のゲームについて語る時に、リストラって言葉を何度も使うんですよね。ほら、さっきの黒瀬さんも」
「……」

 黒瀬さんは最初、まるで冗談を言われたかのように呆れた顔をしていたのに、僕の真摯な表情から読み取ったのか驚くほど呆れた顔に変わった。クールな人かと思えば、なかなかリアクションが大きくて分かりやすい人だなと思う。

「それ、本気で言ってるよな、お前」
「僕はいつだって本気ですよ」
「はぁ……。今日のゲーム参加する時に最後に注意書きみたいなの表示されただろ?」
「表示されたような気がします」
「あれに書いてあったんだよ。参加者には首を賭けてとか、リタイアはそのままリストラとするとかな」
「へぇ」
「へぇ……、じゃないだろ」
「あの、ついでに聞いておこうと思うんですけど、リストラって何を意味するんですかね?」

 さっきと同じように、いやさっきよりも驚きと呆れを現してから、黒瀬さんは「ようするにこの会社をクビになるってことだ」と言った。冗談だと思ったのにどうやらそれは本当の話らしい。

「そういうのって企業側が勝手にやれるものなんですかね」
「出来るな。しかも今回の場合はうちの会社の業績不振が根本の理由だから、一方的にリストラすることが出来る」
「あー、あれですか。労働基準法の第二十条にある、やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇云々の話ですかね」
「携帯で今調べるなよ。まぁ、間違っちゃいない」
「そう言えばミッチー先輩が、ゲームに参加してもリストラされない保証はないとか言ってましたね」
「だろうな。KGCに人事部が無いことぐらい知ってるだろ?」
「え? あっ、あぁーっと、はいはいはい、知ってますよ、もちろんです。
「……まぁいいか。実は帝園グループの傘下にある企業全社に人事部という部門が存在しない」
「それはまた変な話ですね。僕はKGCの入社前に面接をした記憶があるんですけど」
「その面接官、今まででKGC内で見かけたことがあるか?」
「言われてみると無いですね」
「帝園グループ傘下企業の全人事権は、帝園グループ本部が統括してるんだよ。だから今回のリストラを実施するのはうちの会社じゃなくて、帝園グループ本部ってこと。これから実施されるゲームを開催するのだって帝園グループ本部なんだから、リストラは間違いなく執行されると思う」
「へぇ、僕の知らないところでそんな話になっていたんですか」

 だからと言って、それが分かったところで何かが劇的に変化するわけでもない。僕は僕の願いを叶えるために、これから行われるゲームに参加するだけだ。いつの間にか黒瀬さんと階段の踊場で足を止めて会話していたらしく、再度聞こえた社内放送で再び階段を登ることになった。

「とりあえず、このゲーム胡散臭いから気をつけろよ」
「どういう意味ですか?」
「俺、システム部なんだよ。だからGSの内部とかも詳しいんだけどな、ゲームに参加する時の入力画面なんて知らなかった。というか元々そんな画面は存在すらしていなかったんだよ」
「見間違いとかじゃ」
「それは無いな。GS内部は全て把握してる。ただ、GSは本部のシステムと繋がってるっぽいんだよ。その本部側のシステムはなかなかセキュリティが高くて覗けてない」
「ハッキングですか」
「気になったら確認したい性分でね。でだ、あの入力画面は恐らく本部のシステムが無理やり表示させたものなんだよ。リストラをチラつかせてることといい、あえて分かりにくい表記であの画面を無理やり表示させたことといい、あまり気分のいいものじゃない」
「それでも僕は楽しもうと思いますけどね。何せ願いが叶えられるんですから」
「その願いを叶えるってのも怪しいと思うけどな」
「黒瀬さんネガティブ過ぎじゃないですか。そんなに悲観してるなら参加しなければ良かったんじゃ」
「あぁ、俺もそう思ってる。けどちょっとな……、まぁヤボ用だ」
「いろいろ複雑そうですね」

 四階にたどり着いてから特設フロアに入るまでが大変だった。目算で百五十名近くの社員が狭い入口前にひしめき合っていて、特設フロアに入れたのは午前九時五十八分だった。
 特設フロアというからどんなものかと思っていたら、壁の無いワンフロアぶち抜きの巨大な空間があるだけ。等間隔に卓球台を小さくしたような、机のようなものが綺麗に並べられていて体育館のようにも見えた。それなりの広さはあるのだけれど、入っている人数が多過ぎるのと、窓が無かったので狭苦しく感じる。
 その人の多さに辟易している隙に黒瀬さんを見失い、知っている顔を探そうとしてみたもののすぐに面倒になって止めた。やれやれ、こんなに沢山の参加者がいると願いを叶える本部も大変だろうな。そんなことを考えているとブザー音がフロアに鳴り響いた。参加者たちが静まり返る。

「参加者の皆さん、おはようございます」

 窓の無いフロア奥の壁にブラックスーツの女性が映し出された。良く見ると天井にプロジェクターが設置されている。

「十時になりましたので、本年グループ内売上実績ワースト一位の上坂ガーデンカンパニー社員による、スラッシュ/ゲームを開催致します。今回のゲーム進行役を努めさせて頂きます、帝園グループ本部の紙咲と申します」

 中々の美人だ。ロングの黒髪ストレートが美しさに拍車をかけているし、赤フレームのメガネがドSな雰囲気を醸し出していていい。あんな人を屈服させるのが楽しいというものだろう。

「それではまず参加者の皆さんにカードをお配りします。近くに本部の社員が行きますので、IDを見せてカードを受け取って下さい」

 しばらくするとブラックスーツに身をまとった本部の社員と思われる人たちがカードの束をもって現れた。それぞれ適当なタイミングでIDを見せると、五枚のカードを配り始めた。しばらく他の人たちの様子を眺めていると、カードを配っている一人が右手を差し出してきた。一緒に踊ろうというジェスチャーかと一瞬思ってその手を取ろうとしたら、作業服の胸ポケットに入れていたIDを抜き取られた。IDを小さな機械で読取るとIDと一緒にカード五枚を渡された。
 カードはトランプのような形状をしていた。裏側は赤と黒のチェック模様で、表側には星の絵と文字が描かれていた。ちなみに僕に配られた五枚には、運力、運力、運力、運力、運力と描かれている。



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