POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ/ゲーム - /14 -


ハコニワノベル

 先程、後ろを取られた不覚を繰り返さないためにも、崇高な一人会話は辞めて自席にてコーヒーを飲む。「違いの分かる男」つぶやいてみたものの特に意味などない。しいていつもとの違いを言えば、今朝はインスタントのエスプレッソに砂糖とコーヒーフレッシュを入れてしまったので、エスプレッソ的には大間違いだと言うことぐらいだ。別にこだわりはないので問題はないのだけれど。
 ダウト・エスプレッソを飲みつつ、暇なのでインターネットに興じる。ニュースサイトのフィードには失業率だの株価がどうだこうだや、政権交代がどうとかいった内容で溢れていた。どれもこれも年末だと言うのに暗い話題が多い。しかし心配御無用だ。なぜならこの僕が世界不況を瞬く間に解決する妙案を近々思いつくはずだからだ。そう考えれば未来は眩しいほどに明るい。
 そのままフィードを読み漁っているうちに時刻は九時を回っていた。

「爽太!」
「あ、ミッチー先輩。おはよーっす」
「お、おはよう。早いね」
「ミッチー先輩も早いじゃないですか」
「……うん。参加しちゃったものは仕方ないけど、ちょっと怖くてさー」
「何を怖がってるんですか、ミッチー先輩らしくないですよ」
「いや、だって参加しなきゃリストラだし、参加したとしてもリストラされない保証はないし……。それに今って不況だから余計にね」
「リストラって何の話をしてるんですか? それに始まってもいないのに心配するだけ無駄ですよ」
「そ、それはそうだけど。でも、爽太が参加してて少し安心した。あんたいつもみたいにGSのログイン忘れてるんじゃないかと冷や冷やしたんだからね」
「僕はいつでもきちんとGSにログインしてますよ?」
「はいはい。まったく、あんたはいつも通り能天気でいいわね」
「人を勝手に能天気と決めつけるのは良くないと思いますよ。僕はこれでも繊細なんですから」
「それは失礼しました。今まであんたが繊細だなんて考えたこともないけどね」
「ほらそうやってすぐ人の心をえぐる。僕はいつも表に出さなくても傷ついて、毎日枕を濡らして寝てるんですよ」
「え、そうなの?」
「そうですよ。まぁ、ヨダレですけどね」

 言い終わると同時に頭部へ衝撃が走った。ミッチー先輩の強めのツッコミで叩かれたからだ。「傷害罪という言葉を知っていますか?」と聞きそうになったけれど辞めておく。きっともう一発喰らわされることになるだろうから。これ以上、人類の未来を左右する脳細胞を損失してはいけない。僕が最後の希望なのだから。

「で、爽太はどんな願いを叶えてもらうつもりなのよ」
「それは秘密ですよ。そういうことはうっかり喋らない方がいいんです」
「ちぇ、ちょっとだけ興味あったのになぁ」
「そういうミッチー先輩は何を叶えてもらおうとしてるんですか?」
「私は引越しを……って私だって喋らないわよ!」
「ほとんど喋っちゃってますけどね」
「うるさいわね! どうでもいいでしょ」

 なぜか恥ずかしそうに顔を背けて、ミッチー先輩は近くにあった椅子に腰を下ろした。口車に乗ったことがそんなに恥ずかしいことだったのだろうか。そんなことを恥ずかしがるよりも、一週間ほど前に五人分のランチ代を後輩に払わせていることを恥じるべきだと思う。そう言えばあの時のことはお礼も言われていないし、既に忘れ去られている気がする。ここは一つ男らしくビシっと言って返金をしてもらうべきだろう。

「ミッチー先輩、先週の話なんですけどね」
「えっ、え? あ、あーっと……。き、今日はいい天気だね」
「雨が降りそうな曇り空ですよ」
「あ、あれー? 私傘なんて持ってきてないや」
「家を出た時に気が付きませんでした? これは雨が降りそうだなって」
「普通は天気予報とか見て決めるんじゃないの?」
「朝はギリギリまで寝てるので、テレビもネットも見ないんですよ。そもそも天気予報はかなり大雑把なエリアで予報してるだけで、実際自分たちが移動する極小さいエリアでは当たらないことも多いんですよ」
「そうなんだ」
「まぁ、天気の話は置いといてですね、先週の話なんですけど」
「あ、あー! ゲームって何するんだろうね? スラッシュ/ゲームとか言うんだったっけ? 武器とかステータスみたいなの入力したから、ロールプレイングゲームみたいなノリかな」
「うーん。例えば仮想現実空間に飛ばされて、実際のゲームに入ってしまってその世界を冒険したりとかですかね」
「それはちょっと楽しそうだなぁ」
「そう言う場合はあれですよ、敵の攻撃を受けたら本当に傷ついて、ゲーム内で命を落としたら本当に命を失うとかですよ」
「それは小説とか漫画の読み過ぎじゃない? もしくは映画とか。そこまではないと思うけどな」
「あ、そうだ。あのですね、そういう話じゃなくて先週の……」
「も、もしさ! もしもだよ? ゲームの中に入ってロールプレイングゲームみたいに冒険することになったらさ、私と一緒に冒険しない? だ、だめ?」
「……別に構いませんけど」
「本当? よ、よっしゃ! 約束だからね、忘れるんじゃないわよ!」
「上司命令ですからね、忘れませんよ。それよりも先週のランチ……」
「わわっ、私ちょっとお手洗いに……」

 そんなにランチ代を払いたくないのか。やれやれ、先輩だと言うのに情けない。しかもトイレを理由にするとは、言い訳にしては幼稚すぎる。それに僕が先週のランチ代の話をしようとする度に、無理やり話を変えたのも払いたくない一心だというのが丸分かりだ。これ以上追求しても逃げられそうだし、今回は寛大な僕がレディ四人にランチを御馳走したということにしておいてあげよう。
 時刻は間もなく九時半を迎え、チラホラと他の社員がフロア内に入ってくるようになった。ついさっきまで静まり返っていた社内も徐々にいつもの通りの騒がしさになっていく。

「なんだ、お前も参加するのか」

 騒がしくなっていく社内を見ながら物思いにふけっていたのを、無駄に偉そうな声が邪魔した。はっきり言ってこの声は聞きたくないし、声の主を見たくもない。出来る事なら一生関わらずにこれからの人生を満喫したい。関わりたくないものと対峙する覚悟を決めてから、ゆっくりと振り返るといつも以上にメタボな身体を高圧的に揺さぶって歩いてくる、山尾正の姿を確認した。

「おはようございます、山尾部長」
「はっ、お前に挨拶なんてされたくないね」
「それはどうも」
「お前、もう帰れよ。お前みたいなのがうちの会社にしがみつく意味ないだろ? 仕事は出来ない。上司の言うことは聞かない。遅刻は常習犯。今までリストラされなかったのが奇跡みたいなもんじゃねーか。そうだろ? だからさ、お前もう帰っておとなしくリストラされとけよ」
「やだなぁ、山尾部長。自己紹介しなくても知ってますって」
「なんだとっ! ? 貴様、今何を言ったか分かってるのか? あぁ?」
「あ、さっきのじゃ足りないですね。上司の言うことを聞かないばかりか、部下の言うことも聞かない。うん、これを足しとかないと」
「ふざけるなっ! ! フハハ、まぁいい。そこまで調子に乗ったことをゲームが始まったら後悔させてやる。後でお前は、俺に哀願することになると思うぞ。覚悟しとくんだな! フハハ! フハハ!」

 下品な笑い声を発しながら、山尾部長は普段座っているところを見たことがない自席に消えて行った。
 やれやれ、言っていることも意味不明だったな。ミッチー先輩もリストラがどうとか言っていたけれど、一体全体何の話をしているのだろうか。少しだけ考えてみたけれど、人の悩み事についてあれこれ考えても仕方がない。こういう場合はいつだってそうだ、気にしないに限る。



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