POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ/ゲーム - /07 -


ハコニワノベル

 先に出たミッチー先輩を追いかけると、丁度閉まりかけのエレベーターが見えた。その扉に滑り込むと案の定、閉まるボタンを連打しているミッチー先輩がいた。

「何してるんですか?」
「いや、貴重なお昼休みは一分一秒も無駄には出来ないでしょ。あ、ちょっと、あんまり近づかないでよ」
「別に近づいてませんよ。普通にエレベーターに乗ってるだけじゃないですか」
「いや、うん。そうだけど」
「で、行き先階のボタンは押さなくていいんですか? さっきからずっと二階で止まったままなんですけど」
「ち、ちょうど今から押そうと思ってたとこ!」

 無駄に力の入った指先で一階のボタンが押され、やっとエレベーターは下へ。それにしても勘違いだけでここまで錯乱状態になるとは、ミッチー先輩は色恋沙汰が随分とご無沙汰なのだろう。しかしそうであるならば余計に、今の状態がただの勘違いであると言うことを理解してもらわないと、ますます面倒なことになってしまう。今からのランチでなんとか誤解が解けるといいのだが。
 あっという間にエレベーターは一階に到着し、慌てて飛び出していくミッチー先輩を追いかける。これじゃぁまるで鬼ごっこだ。そうまでして急がないと、貴重な昼休みとやらは満喫できないのだろうか。そうであったとしても、僕としてはゆったりと過ごしたい。出来たら午後の始業時間に十五分ほど遅れて自席に戻るぐらいで丁度いい。
 前を小走りしているミッチー先輩は、 KGCに隣接した建物に入っていった。看板には上坂植物園と書かれている。ここはKGCが管轄している二つの有料公園の二つ目になる。入場料は五百円で、オフィス街のど真ん中にあるため、利用客は近隣の会社員がそのほとんどを占める。都会ではなかなかお目にかかれない植物を多数見ることが出来るので、昼休みや定時後などはそれなりに客足はある。しかし、ここには飲食施設はない。ミッチー先輩は草食動物だったのだろうか。

「あれ、美知恵じゃない。どうしたの?」
「あ、菜子お疲れ。チコちゃんいる? ランチの約束してるんだけど」
「智子と? なーんで智子は誘って私は誘わないのよ」
「いや、ちょっと慌ててさ。何なら菜子も一緒にどう?」
「いいよ気を使わなくても。それに残念ながら今日は昼の店番だから行けないし」
「そっか。じゃぁ、また今度一緒にランチしよう」
「でもさー、後ろの彼と一緒にランチじゃないの? 智子ならもうすぐ出てくると思うけどさ」
「えっ、か、彼なんかじゃないから! まだ、彼じゃないから!」
「美知恵、何慌ててんの? あっやしいなぁ」
「違う違う、ほんとに違うから! まだそんなんじゃないし」

 ネームプレートを見るに秋山菜子という人らしい。話しぶりを伺うに、ミッチー先輩と同期なのだろう。有料公園で接客をしているということは、運営部サービス課に所属している人だ。サービス課のみ支給されている制服を着ている点からも間違いないだろう。ミッチー先輩に比べると、柔軟な考えを持っている人なのだろう。その後二人のやり取りは「お待たせしました」という声で収まった。

「智子、なんか美知恵な、そこにいる後輩のことが気になってるらしいぞ」
「ちょ、そんなんじゃないから……。チコちゃんお疲れ。さ、行こっか」
「あ、はい」

 今度はまた可愛らしい子が出てきた。サービス課の制服の上にコートを羽織っているので、この子もサービス課に所属しているのだろう。ネームプレートを見ることが出来ないのでフルネームは分からないが、クラスの中にいる活発な感じの女の子だ。

「この人が、さっき美知恵先輩が言ってた人ですか?」
「いやー、うん、そうなんだけどね」
「はじめまして。私、中居智子と言います」
「あぁ、これはどうもご丁寧に。僕はミッチー先輩の直属の部下で、百年に一度の逸材と言われている男です」
「はぁ……」
「あぁ、チコちゃん。ごめんね、こいつ基本的に意味不明だから。爽太って言うんだ、適当に流しておいて」
「分かりました」

 基本的に意味不明という失礼極まりない紹介をされたものの、僕という人間がいかに素晴らしいのかを説明しようと思えば昼休みで収まらないので辞めておく。智子なのにチコと呼ばれているのは、ミッチー先輩が初対面時に読み間違えたことがきっかけらしい。本人にしてみれば迷惑だろうと思うのだが、智子さんは嫌な顔一つしていない。出来た女性は素晴らしいものだ。

「真樹と朋美は上坂駅で待ち合わせしてるんで、ちょっと歩きますけどいいですか?」
「僕はどこでも構わないですよ。ミッチー先輩がいいなら」
「じゃ、上坂駅に向かおっか」

  KGCから南へ信号を二つ渡り、ドラッグストアのある角を曲がると飲食店が数多く並ぶ通りに出る。そこを直進して交差点を三つ超えると上坂駅前公園が見える。大きな遊歩道とその脇に流れる水路があり、遊具はないが大きくて雰囲気の良い公園である。管理部二課が管轄している公園でもある。
 その公園脇をしばらく進むと上坂駅だ。昼時ということもあり、駅へ出入りする人は多くはないものの、待ち合わせをしているらしい人の姿があちらこちらに伺える。その中の女の子二人組がこちらに向かって手を振っているのが見えた。

「小谷先輩、お疲れさまです」
「お疲れさまでーす」
「二人とも急に呼び出してごめんね。えーと、樹ちゃんは清掃終わり?」
「はい。駅前公園は広いので、三人がかりで昼までかかるんですよね」
「いや、三人で昼までに終われば十分だよ。こっちはKGCで一番狭い公園に二人がかりで昼までかかったし」
「あの、そこの彼がさっき言われてた相談したいことですかー?」
「う、うん。そうなんだけどね。そ、そう言えば朋ちゃんはなんで上坂駅に?」
「午前中に銀行に用があって、電話もらった時ちょうど銀行から出てきたところだったんですよ。そしたら何やら浮いた話の相談って言うじゃないですか。仕事一筋な先輩からのそんな相談、乗らない訳に行きませんからねー。でもてっきり先輩だけ来ると思ってたんですけど……、その相談したい相手本人を連れて来るなんて。もしかして、寿退社的な相談ですかー?」
「朋ちゃん、違うから。ほんとに違うから。こいつ……爽太が勝手に着いてきただけだから」
「もう名前で呼んでるんですかー。これは益々楽しいランチになりそうですね」
「ともちゃん、あまり茶化しちゃダメだよ。はじめまして、私は原口真樹。この子は福田朋美」
「私と智子と真樹は同期なんだよー。新人の時に先輩に面倒みてもらってたんだ」
「それはそれは、残念でしたね。みなさんの残念な気持ち、僕は現在進行形で感じてます」
「なんで残念になるのよ! あんたの教育しなきゃいけない私の方が残念でしょ!」
「いやいや、これはこれは仲のよろしいことで」
「秋山先輩も美知恵先輩が気になってる人だって言ってたよ」
「ちょっとチコちゃん、サラっと変な情報を出さないで」
「私もすごく興味あるし、さっさとお店に入りましょうか」
「樹ちゃん? もしかしてこの状況を物凄く楽しんでる?」
「もちろんです」
「私も楽しんでますよー」
「もちろん私もです」

 なぜか小声で「相談する相手を間違えた」とか呟いてるミッチー先輩を引きずるように、女性四名、男性一名という僕に相応しいグループで駅前にあるイタリアンレストランへと移動した。パスタの種類が豊富で小さめのピザもなかなか美味しい女性に人気の店だ。ある程度の予感はしていたけれど、尋問と言う名のランチタイムが始まる。



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