POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ/ゲーム - /06 -


ハコニワノベル

 携帯電話のアラームを自信満々に止めてから二度寝をしたおかげで、随分と目覚めがスッキリしている。相変わらずの寒さではあるけれど、健やかな気持ちになる。顔を洗い、朝食のトースト二枚をかじりつつ、コーヒーを入れる。そんな素敵な朝食風景を邪魔するように、アラームを止めたはずの携帯電話がなにやらうるさい。どうやら着信のようだ。

「はい、もしもし」
「爽太、今あんたどこにいるのかしら」
「え、あ、ミッチー先輩。おはよーっす」
「おはよーっす。じゃないわよ。今、何時か分かってる? 遅刻してるんじゃないわよ」
「えー、やだなー。今、東公園の清掃してるところですよ。ほら、僕当番ですし」
「ふぅん、そうなんだ。じゃぁ今、東公園に誰か人はいる?」
「え? あ、あー、いないですね」
「そっか。おかしわね、私が今いる場所が東公園なんだけど?」
「えー、そうなんですかー? ちょっとここからだと見えないですね」

 トーストをコーヒーで流し込み、いつもの作業服に着替えて東公園へ走る。そこには昨日よりも禍々しいオーラを身に纏ったミッチー先輩がいた。まさか本当に東公園にいるとは驚きである。ミッチー先輩の家はKGCの社ビルを中心に、正反対の位置にあると言うのに。やれやれ、そこまでして会いたいと思わせるとは、僕はなんとも罪な男だ。

「ミッチー先輩、おはよーっす」
「何が清掃してるところなのよ」
「まぁまぁ、細かいことに目くじら立てるとシワになりますよ」
「細かくないでしょ!」
「まぁまぁ。とにかくほら、清掃しちゃいましょー」
「ったく、あんたは調子良すぎるのよ」

 東公園にはベンチが三つ、滑り台に砂場、ブランコに鉄棒があるだけの小さな公園だ。両サイドをマンションに挟まれていて、道路に面した部分には低木が植えられている。レンガで作られた通路が道路側の入り口から反対側へと作られている。近隣住人の散歩コース、子どもたちの遊び場や若者たちの溜まり場と、時間の経過に合わせてメインの利用者が変わっていく。住宅街の中にあるために、街灯はあまり多くない。
 規模は小さくても一人で清掃をしようと思うとそれなりに時間がかかる。今日は二人で清掃なので、そんなに時間はかからなかった。その代わり清掃中に、どこかの子どもが忘れたと思われるカラーボールが一つ出てきた。公園中央にある街灯に取り付けられた網袋にボールを入れておく。この網袋は子どもの忘れ物を一時的に入れておくもので、子どもやその親御さんには好評を得ている。ちなみにミッチー先輩が発案者だ。

「ミッチー先輩は彼氏とかいないんですか?」
「ちょ、へ? あ、あー、えーとね。……って何で私がそんなことに答えないといけないのよ」
「いや、子どもたちのことを考えてあの網袋を設置したりしてるから、子どもが好きなのかなーと思って」
「そりゃ、子どもは好きだけどね。あの網袋はさ、私が子どもの頃にあったらいいなぁと思ってたものの一つだよ」
「公園でおもちゃとか失くしてたんですか?」
「子どもの頃って一つのことにしか集中出来ないからねー。それにおもちゃとか自分の所有物を紛失するショックって、大人より子どもの方が絶対に大きいから、もしかしたら網袋に入ってるかもしれない、っていうちょっとした希望みたいなのを持たせてあげたくてさ」
「ミッチー先輩なら、いいお母さんになれそうですね」
「さっきから何よ、煽てても何も出ないからね」
「いや別にそういう意味じゃないですよ」
「それじゃぁ、どんな意味が……え、もしかしてそう言うこと?」
「あの、何か物凄く大きな勘違いしてません?」
「いや、あんたをそういう目で見たことないからさ……もう少し、考えさせて」

 ロクに目も合わさないままにミッチー先輩は清掃が終わると足早にKGCへ向かってしまった。これはどうやら面倒なことになってしまった気がする。あの仕事に一直線で、ミスおひとりさまに選出されそうな勢いのミッチー先輩が、大きな勘違いをしていると思われる。やれやれ、人の話は最後まで聞くべきだろう。僕は煽ててランチをご馳走してもらおうと思っていただけなのに。
 各遊具の点検をしつつ、東公園をぐるりと一回りしてからなるべくゆっくり時間をかけてKGCへ向かう。いつもの緻密な計算でいくと、今からゆっくりと向かえば、到着と同時にランチタイムが始まるはずだ。

「爽太君、おはよう。あのね、昨日はジェシカちゃんを助けてくれてありがとう」

 KGCに到着するなり長谷川さんにお礼を言われた。きっと昨日の西川サイクリングロードの件だろう。勘違いはして欲しくないけれど、僕はジェシカちゃんを助けた訳ではない。ただトラブル対応をしただけだ。なので、ジェシカちゃんの件でお礼を言われるのは筋違いということだ。これはきちんと言っておかなければならないな。

「別にお礼を言われるようなことはしてないですよ」
「そんなことないよ。ジェシカちゃん、すっごく助かったって言ってたから」
「あ、そうですか。うん、まぁ、よろしく言っておいてくださいよ。その、ジェシカちゃんに」
「うん。今度他のお友達も紹介するね」
「あー、ほんと? 嬉しいな。うん、また今度ね。今度」

 どうも妖精さんと会話をするとペースが握れない。お礼の件はもうこのまま放っておくのが良さそうだ。あまり細かい話をしても、全てワンダーランドの会話になってしまうだろう。それとなく長谷川さんを受け流しつつ、自席の方へと移動する途中でミッチー先輩と軽く目が合ったのだが、妙に分かりやすく逸らされてしまった。やれやれ、事態はそれとなく深刻だ。これはあまり悠長にしていると困ったことに成りかねない。右往左往するミッチー先輩を眺めるのはとても楽しいけれど、この場合は楽しんでる場合じゃない。
 僕は意を決してミッチー先輩の元へ移動した。

「ミッチー先輩、一緒にお昼行きません?」
「ちょ、あんた! あの、だから、少し考えさせてと……」
「うーん、少しでも時間を空けるとあまりよろしく無いと思うんですよ」
「いやでも、うーん。あ、そうだ。他の子も呼んでもいいよね」

 そう言うと携帯電話で数人に電話をかけ始め、電話が終わったかと思えば「さ、さぁ、行きましょう」と、ミッチー先輩は勝手に出かけてしまった。



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