POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ/ゲーム - /05 -


ハコニワノベル

 勤怠入力を三分で完了し、定時を知らせるメロディと同時に席を立った。鮮やかな帰宅である。それにしても今日もまた過酷な激務だった。気を抜けば命をも奪われかねない危険と、常に隣合わせのような緊張感があった。ということにしておく。
 KGCを出てオフィス街を東へ向かう。最寄り駅でもある地下鉄の上坂中公園前駅を横目に、駅前の商店街へ入る。目に映るほとんどの店が、赤や緑、それから白に彩られている。赤い服を着た白ヒゲのお年寄りが描かれたポスターを目にして、これらがクリスマスを迎えるにあたって彩られたものだということに気がついた。名探偵も驚くほどの推理力だろう。「犯人はフィンランド人だ!」心の中で決め台詞を叫んでおいた。特に意味はない。
 都合のいい時だけキリスト教なふりをする店や客をすり抜けて、商店街の奥へと進んで行く。中華料理屋がクリスマスチキンという名前で唐揚げを予約販売しようとしていて、ここもクリスマスに染められているかと思えば、正月用に焼豚の予約は如何かと張り紙をしていた。この中華料理屋、なかなかに抜け目がない。おもちゃ屋の入っている家電屋のビルには、クリスマスプレゼントを買い求める魑魅魍魎のような大人たちが際限なく飲み込まれて行く。
 それらの荒波に飲まれないように進んでいくと、やっと商店街の反対側にある大通りへ抜けた。道路を挟んだ向かい側に、普段良く行くスーパーが見える。この時間帯に行けば惣菜や刺身なのどのタイムセールが始まる頃合だ。しかし、このタイミングで行くのは素人だけである。ここから更に二時間半後、閉店三十分前の最終タイムセールを待てば最大で七割引という底値が付く。まぁ、今日は惣菜を買う予定はないので立ち寄ることはないのだけれど。
 スーパーを横目に大通りを進み、交差点を越えた所で左に曲がるとコンビニが見える。更にそのコンビニを越えると月六万八千円という家賃を払い、賃貸契約を結んだ借家が見えてくる。要するに普通の賃貸マンションだ。その五階の一室が僕の暮らす部屋だ。ちなみにマンションの裏側には、集合住宅に囲まれた小さな公園があり、その公園の名前は上坂東公園という。そう、僕の担当する公園だ。明日は当番の仕事をしてから会社へ向かうように努力はしてみようと思う。
 マンションのエントランスで郵便受けを確認すると何も入っていなかった。普段はアダルトチックな広告や、前の住人宛の郵便物などが少なからず入っているというのに。郵便屋さん、たまには僕への密かな想いが赤裸々に綴られたラブレターなんかも入れては如何か。入れようにもこの郵便受けに入りきらないだろうから、大変だろうけれど。
 エレベーターで五階へ移動し、自室の玄関扉に鍵を差し込んで回した。妙だ。解錠の時の引っ掛かりがない。これはつまり既に鍵が開いている状態だということで、ここから考えられる可能性は三つ。一つ目はそもそも鍵をかけずに出掛けてしまった。二つ目は激務の疲れで解錠の引っ掛かりが分からなかった。そうでもなければ三つ目、既に何者かが中にいるということだろう。無駄にシリアスを装って中を伺うように扉を開いた。

「お帰りなさいませ、……この下僕野郎」
「あー、違うぞ。それは違うぞ静香」
「何が? あんたが言えって言うてたやんか」
「いや、そうなんだけどね。僕が言って欲しいのは、『お帰りなさいませ、ご主人様』なんだけどなぁ」
「なんでうちがあんたより身分が低いねん。おかしいやろそれ」
「いや、まぁいいけどさ」
「それよりも、ただいまやろ? それと手洗い、うがい」
「はい、ただいま」
「さっさと手洗ってうがいしなよ」
「はいはい」

 玄関先で仁王立ちしているこの子は、七ノ宮静香。背は低いけれど芯の通ったその姿は、まるで女神のように美しいと言っておこう。静香は僕の彼女――ではなく、ただの婚約者だ。ここらで一番大きな神社である七福神宮に仕える宮司の娘で、来年の春に高校を卒業する。つまり現在十八歳。頭脳明晰、容姿端麗、料理上手で大和撫子。と初対面の人には紹介するように強要されている。実際は、いや、これ以上語ると命に関わるかも知れないので辞めておく。
 彼女は物心付いた頃から弓道をたしなみ、小学生から高校三年までの間に、大会という大会で優勝を総なめしているほど、弓の名手である。七福神宮で正月に行われる式典では、巫女の格好をした静香が、その年の福を願って的を射るのが見られる。ちなみにその式典で的を外したことは一度もない。第三者といる時は、大和撫子という言葉にぴったりの凛とした女の子に見えたりもする。そうでない時はさっきのような感じで、とても裏表のはっきりした可愛い子である。婚約者になった経緯は――長くなるので割愛しよう。

「今日来るって言ってたっけ?」
「言うてへん。ちょっと気になることがあったんよ」
「へぇ、珍しいね。そんな時でもいつもは携帯に連絡よこせ的なメールくれるだけなのに」
「ちょっと事が大きそうやから、この目で確かめとこうと思ってな」
「もしかして、僕が浮気とかしてるんじゃないかと思ってヤキモチ妬いちゃったとか?」
「アホか」
「心配しなくても、僕は静香だけを愛してるよ」
「ま、真顔で冗談言うなや」
「僕はいつでも本気だけどね。まぁいいや、それで気になることって何?」
「……多分やで、多分あんたの近くで誰か死ぬ」
「それはまた物騒だね」
「一人や二人じゃないと思うねん。はっきりとは見えへんかったけど、間違いないと思う」
「そっか。で、その対象に僕は含まれてたりするのかな?」
「それを確かめに来たんやけどな。うーん。なんとも言えへんなぁ」
「じゃ、気にするのおしまい。お腹すいたんだけど、晩御飯何?」
「あんた、うちに料理させるつもりなんか? うちはもう帰るで。あんたの顔も見たことだし」
「相変わらず素っ気ないのね」
「とにかく、気を付けや。変なもんに不用意に足突っ込んだらあかんで?」
「僕が何でも足を突っ込むようなマヌケに見える?」
「見えへんな」
「なら、安心じゃない」
「あんたは何でも頭から突っ込むような奴や」
「あら、大変」
「ほな、せいぜい死なんように用心しい」
「はいはい。あ、夜道に一人で危なくない? 送るよ」
「いらん。あんたとおる方が危ないわ。ほなね」

 それだけ言い残すと静香は帰っていった。矢袋と矢筒を持っていたので、きっと部活帰りに寄ったのだろう。それにしてもだ、たまに未来が見えるとか変なオカルト趣味を持っているからって、そんなに自慢しなくてもいいと思う。それと僕たちは婚約者なんだから、もう少し可愛らしく振舞ってもらいたいものだ。そうだ、このままやられっぱなしなのはしゃくなので、少しイタズラをしてあげよう。ベランダに移動してエントランスから出て行く静香が見えるのを待つ。しばらくしてマンションから出て行く静香の姿が見えた。

「静香、愛してる……っつ」

 叫んだ瞬間、右頬を何かがかすめた。振り向くと、一本の矢が窓のサッシに突き刺さっている。しかも丁寧に矢文付きだ。矢文には「うるさい、黙っとけ」と殴り書きされていた。殴り書きでも無駄に達筆である。僕が叫ぶことを予見して、矢文をくれるだなんて可愛いじゃないか。もしかして、どこかに小さく「愛してる」などと書いていないかと、くまなく調べてみたが無駄に終わった。



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COMMENT

●サイコ★デコラデコラさん

すみませんw
ヒロインはこの子なんですよー。

ヒロイン、私かと思ってドキドキしてたのにぃ(嘘)

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