POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ/ゲーム - /04 -


ハコニワノベル

 案の定外は寒い。もうすぐ日も落ちてくるの時間帯なので余計に寒い。西川はオフィス街を縫うように流れる川で、北にある上坂川から分かれた支流の一つだ。最終的に上坂川に合流するので、西川の向こう側は巨大な中洲状になっている。この西川沿いにはKGCが管轄している西川サイクリングロードという、自転車専用路が作られている。歩行者用の通路も付いていて自転車側はエンジ色、歩行者側は緑色に色分けされ、白線で境界線が引かれている。サイクリングロードという名前になってはいるが、どちらかと言えば歩行者の方が多い。定間隔にベンチと花壇が設置されているので、分類上は公園とみなされている。ここの管轄も我らが管理部三課だ。
 この西川サイクリングロードには名物というか、有名人が一人いる。それが管理部三課の長谷川琉々。確か入社四年目と言っていた。一般的に天然とカテゴライズされる人物で、いわゆるムードメーカーでありトラブルメーカーでもある。彼女がこの西川サイクリングロードの担当で、毎朝通行人一人一人に挨拶をしている。だがそれだけで有名人になるわけではない。彼女はひとつひとつの草花にも挨拶を欠かさない。さらには全ての草花に名前まで付けて可愛がっているのだと言う。その会話ぶりがあまりにも本気なので、この西川サイクリングロードに出没する妖精とまで呼ばれるほどの有名人だ。
 その妖精さんが昼過ぎにトラブル対応に出かけてから戻ってきていないということは、トラブル対応中にトラブルメーカーぶりを遺憾なく発揮して、トラブルを拡大させているのだろう。西川サイクリングロードは人の行き来が多いので、自然とトラブル発生件数は多い。通路上に出てみると、少し離れた場所に長谷川さんの後ろ姿と、なにやら言い争いをしている二人を発見した。

「だから、歩行者側を歩いてないおっさんが悪いんだろうがよ」
「なんだその言葉遣いは。こっちは君のせいで怪我しているんだぞ」
「怪我っていってもほんの少し擦りむいてるだけじゃねーかよ」
「あ、あの。その、すいません」
「なんだよオバサン」
「オバ、オバサンじゃないです。長谷川です」
「あんたの名前なんか聞いてねーよ」
「あ、あの。すいません」
「なんであんたが謝ってるんだよ。謝るのはそっちのおっさんだろ」
「なんで怪我させられた私が謝らなきゃいけないんだ。君の方が謝るべきだろう」
「あ、あの、だから……もぅ! 足をそんな所に置いたら、ジェシカちゃんが! ジェシカちゃんが!」
「は?」

 後ろから観察してみるに、どうやら自転車と歩行者の接触事故らしい。その言い争いをしているところに長谷川さんがやってきたと言うわけだ。しかも昼過ぎから二時間半、この言い争いはまったく解決に向かっていないらしい。その言い争いを抑えることもせず、長谷川さんが必至に訴えているのは、自転車の若者が足を置いている花壇の黄色い花――、ジェシカちゃんの方が気になっているらしい。

「何訳の分からないこと言ってんだよ。もういいよ、俺はもう行くから」
「待ちなさい。君、ちゃんと私に謝ったらどうだ」
「うるせーよ、ハゲ」
「ハゲとはなんだ、ハゲとは! 君、いいかげんにしたまえ」
「ジェシカちゃん大丈夫? ジェシカちゃん、すぐに助けてあげるからね」
「ハゲにハゲって言って悪いのかよ」
「目上の人に対する言葉遣いがなっていないな君は。親御さんに連絡するから連絡先を言いたまえ」
「はっ、うぜぇ」
「あの、ちょっと。本当に足、どけてもらえませんか? ジェシカちゃんがさっきから苦しがってます」

 見ている分には物凄く楽しいけれど、このままだとあの二人掴み合ったり、下手をすれば手を出すかもしれない。そうなると益々面倒なことになってしまうので、ここはさっさと事態を収集してしまうに限る。

「お取り込み中失礼いたします」
「あ、爽太君。お疲れ様」
「誰だよお前」
「私はこの西川サイクリングロードの公園管理を行っておりますKGCの者です。双方に言い分はあると思いますが、このままここで言い争いをされますと、他の通行者の方に迷惑になりますので、そこのベンチまで移動をお願い出来ますでしょうか」
「ジェシカちゃん、やっと助けてあげられるよ。うんうん、後でちゃんとお水あげるから待っててね」
「はい、長谷川さんもベンチの方に行きましょう」

 こういう場合に、大抵落ち着いて冷静な態度を取ると相手側は素直に従ってくれることが多い。命令するのではなく、お願いをするのがポイントだ。あと、オドオドしてはいけない。これぐらいのトラブル対応などわけはない。普段、東公園で起こるトラブルに比べれば程度の軽いトラブルだろう。

「私はこの若造に自転車でぶつけられたんだ。ほら見ろ、怪我だってしてるんだぞ」
「なるほど」
「ちょっと待てよ、そこのおっさんが自転車側の道にフラついて入って来るのが悪いんだよ」
「歩行者を優先するのが当たり前だろう」
「だからって自転車側に急に倒れて来たんじゃねーか」
「あの、一つ確認させて頂きたいのですが、自転車通行路を歩いていたのは間違いないですか?」
「そ、それは間違いない。けれども、歩行者が常に優先されるのは常識でしょう。まったく最近の若者は常識が通用しないから困る」
「だから、俺はあんたにぶつかってねーし。勝手に転んだだけじゃねーかよ。怪我だって転んで出来たんだろ? 自業自得じゃねーか」
「いや、その、それは、その……。そ、それでもだな、歩行者は優先されなくちゃいけないんだ。後ろから物凄い勢いで走ってくるのが悪いんだ」
「あ、ちょっとよろしいでしょうか。その件なんですけども、道路交通法第六十三条の四第二項にですね、歩道内に自転車の通行すべき部分が指定されている場合、歩行者はこの部分をできるだけ避けて通行するように努めなければなりません。という記述があるんです。このサイクリングロードでは、この白線で自転車と歩行者の通行部分が指定されているので、歩行者の方はできるだけ避けるというのが一般的なルールになります」
「おっさんの方が常識が無ぇんじゃねーかよ」
「いや、そんな、まさか。あっれぇ、おかしいな。はは、ははは」
「それはそれとして、君も相手に対して暴言を言い過ぎるのは良くないと思いますよ。冷静に説明すれば、こちらの方もすぐに納得されて、自分の非を認めて下さったと思います。このまま言い争いを続けられるようであれば、警察へ連絡する決まりになっているのですが、まだ言い争い続けられますか?」
「はぁ? 警察とか面倒くせーわ」
「わ、私も警察はちょっと」
「なら、お互いに一言詫びておしまいにしましょう。こんなことでこれ以上時間を費やすのも勿体無いですし」
「チッ、分かったよ。……すいませんでした」
「私も意固地になってたようだ、すまなかった」
「はい、ではお二人ともお気を付けてお帰り下さいませ」

 若者は大きなため息を吐き捨てて自転車で行ってしまい、中年の男性はバツの悪そうな顔で「なんか、すいませんでした」と何度も頭を下げて帰っていった。やれやれ、携帯電話で「道路交通法、自転車」のワードで検索をかけて、一番先頭に出てきた内容をしゃべるという高等技術が、事態収拾に役立ったというわけだ。
 長谷川さんは話してる最中から妖精の国ワンダーランドにでも行ってしまったかのように、終始うわの空で適当に相槌をうっていて、二人が帰ったあとに「あ、ジェシカちゃんにお水あげる約束してるんだった」とか言いながらどこかへ行ってしまった。たぶん水やりの準備をしに行ったのだと思われる。妖精さんは大忙しなのである。
 携帯電話で時間を確認すると定時まで一時間を切っていた。ベンチに腰掛けて西川を眺めながら、定時五分前に自席に到着するよう緻密な計算を行ってから自社へと戻った。



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