POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ/ゲーム - /03 -


ハコニワノベル

  GSのロック解除をしてもらってからきっちり二時間。いや、正確には二時間と十五分後に奇跡的に報告書が承認された。ミッチー先輩から教えてもらった概要を、そのまま報告書に貼りつけて初回のレビュー依頼に出してみたら、物凄い勢いで指摘件数十八件で差し戻された。そこからもそんなやり取りを何度か繰り返すうちに、ミッチー先輩から送られてくる概要が詳細に代わり、最終的にはほとんど報告書の内容になって送られてきた。なので、それを丸々貼り付けるだけで最終的に承認された。やれやれ、最初の方法で間違っていなかったというわけだ。あとはこの報告書を課長へ提出するだけ。そのままGSで報告書を管理部三課の田中課長宛に送信する。
 管理部の仕事は基本的にはそんなに多くない。東公園はKGCが管轄している公園の中で一番小さい公園なので特に仕事量は多くない。ただし、公園内でのトラブル発生時にはすぐに駆けつけて状況把握、事態回復を行わなければならない。住宅街の方にある公園になると夜な夜な若者がたむろしたりするので、トラブルの発生件数が多く休日でも出向く必要があったりする。僕の担当している東公園は、まさに住宅街に隣接しているので、一般業務よりもトラブル対応が仕事の大半を占めている。
 その他には、近隣住人や公園利用者からのクレーム対応などが主な業務内容だ。クレーム対応については、ただ文句を言いたいだけのクレーマー等がいるため、二十四時間対応をするわけにはいかない。クレームへの応対は定時までと決まっていて、定時までにクレームが発生しなければ、基本的に定時退社が可能だ。自慢になるけれど、僕は今まで残業というものを一度もしたことがない。それだけ僕の仕事は完璧だということだろう。ただ、KGCは女性社員が多いため、トラブル対応時にはたくましい男の象徴的な存在である僕が駆り出されることが多い。休日にも関わらず何度も呼び出しを受けるのは、僕の男らしさ故にだろう。
 ふとモニタへ視線を移すと、GSの画面にメッセージの受信を知らせるアイコンが点滅している。きっと報告書の課長承認が出たのだ。紙コップに注いだお湯をすすりつつ、メッセージ本文を表示させる。

「お疲れ。ちょっと私の席まで来てくれる?」

 これはなんということだろうか、GS上だけでは褒め足りないから直接褒めたいとは。それだけ完成度の高い報告書だったのは言わずもがなではある。自席から課長の席へと向かう。

「田中課長、失礼します」
「お、お疲れ」
「お疲れ様です」
「とりあえず、報告書見たよ」
「一生懸命作成した報告書です」
「文章構成が小谷のそれなんだけどね」
「な、なにを仰いますやらルー姉さん」
「職場ではそう呼ばないようにと言っておいたはずだけど?」
「いや、これは失礼しました。課長の麗しさについ口が滑ってしまいまして」
「なら仕方ないか」
「仕方ないですよね」

 田中瑠伊課長。我らが管理部三課のトップだ。面倒見が良くて姉御肌。会社から一歩外に出たら課長と呼ぶことを許さず、ルー姉さんと呼ばせる気さくさを持ち合わせていて、どちらかと言えば男前な気質を持っている人だ。

「仕事は仕事でちゃんとやりなさいと言ってるでしょう。まぁいいや、別にお説教したくて呼んだわけじゃないから」
「となると、何用でしょうか」
「ちょっとお使い頼まれてくれる? 総務部にこの伝票を届けて欲しいのよ」
「いいですけど、この伝票GSでやり取りしないんですか? GSでやり取りすればわざわざ届ける必要もないと思うんですけど」
「そこはあれよ、大人の事情というやつ」
「ほほぉ、こいつは悪巧みの匂いがしますな」
「越後屋、分かっておろうな」
「へっへっへ、お代官様もお人が悪い」
「はい。おふざけはこのあたりにして、早速届けくれたまえ」
「了解しました。それでは早速」
「あぁ、そうだもう一つ」
「なんでしょう」
「それ届け終わったら長谷川のヘルプに行って来て。サイクリングロードのトラブル対応に昼過ぎに出たまま帰って来てなくてね」
「あぁ、分かりました。様子見てきます」
「様子見るだけじゃなくて、ヘルプして来てね」
「かしこまりました」

 やれやれ、仕事が出来る人間と言うのはなんと忙しいことか。しかも難易度の高い仕事を頼まれてしまったな。それもこれも自分と言う逸材のせいだ。この調子で仕事をしていたら主任、課長、部長、そして社長へと最年少就任は間違いない。社長になったらまずは女性社員の作業服をかなりきわどいものにする必要がある。それは男性社員のやる気を奮起させ、その強大なエネルギーはKGCの業績をうなぎのぼりにするだろう。そしてほどなくして、僕は時代を動かした最年少社長などと持ち上げられるわけだ。いやいや、そんな大層なことはしていないですよ。与えられた仕事を真面目にコツコツとこなしていった結果です。
 ふふふ。あ、エレベーターが来た。
  KGCの六階には総務部が入っているが、総務部のあるフロアが実質的なKGCの受付になっていたりする。なので社員は通常、階段で六階へ入らなければならない。もちろんこれは一般社員にのみ該当する決まりであって、部長や社長などのお偉いさんや未来の最年少社長である僕には関係のない話だ。そのままエレベーターはスムーズに六階へ到着した。

「いらっしゃいませ。……って爽太君じゃない。どうしたの?」
「いやぁ、のんさんに会いたくなってしまってつい」
「はっはーん、その伝票を総務部に届けに来たわけね」
「なぜその極秘任務を知っているのだ。さてはスパイ?」
「はいはい、違う違う。ちゃんと階段側の社員用出入口から入りなさいね。今、人少ないみたいだけど誰かはいると思うし」
「はーい」

 KGC総務部の華、野々村杏。KGCに訪れた男性のお客さんのうち、実に六割が口説こうとするほどの女性だ。しかし、実は彼氏がいるという残酷な現実を知っている。その現実を知らない男性諸君が哀れで仕方がない。いや、もしかすると幸せなのかもしれないが。
 階段が設置されている側の廊下中央付近に「STAFF ONLY」と書かれた扉がある。とりあえずノックをしてみたものの返事がない。返事はないが、ここに入らなければ伝票を届けられない。とりあえずもう一度ノックしてから扉を開けた。
 総務部のフロアはパーテーションが各机の島ごとに設置され、一見すると迷路のように見えたり、見えなかったりする。普段はロボットのように電卓を叩いている人がひしめき合っているというのに、のんさんが言っていたように今はやけに人が少ない。いや少ないというより誰もいないように思えるほど静かだ。一つ一つの島を確認しながら、奥へ奥へと進んでいく。しばらく進むと微かに音楽が聞こえてきた。その音楽が聞こえてくる島を覗き込むと、ヘッドフォンを付けた人がいた。

「なんだ、志津バアか」
「んー? 何勝手に入って来てんねん、タノシソウ」
「いやいやノックしたし。あとさ、ヘッドフォン刺さってないよ」
「おお、通りで音が聞こえへんと思ったわ」
「で、何聞いてるの?」
「Youtube観てただけやで?」
「いや仕事しようぜ、志津バア」
「タノシソウにだけは言われたないわ」
「それと、相変わらず僕をポケモンみたいな呼び方するのやめて欲しいな。これでも両親が冗談半分で名付けてくれた名前に、愛着ってものがあるんだからさ」
「タノシソウ、君に決めた! ってか」
「なんでやねん」
「……あー、ちゃうちゃう。もっとビシッとツッコミ入れなあかんで。せっかくのボケが台無しやんか」
「もう痴呆が始まったのか」
「そやでぇ、朝起きて着替えて化粧して、会社に到着したら化粧したかどうか忘れてしもうてな、化粧したかしてないかで迷うぐらいなら、もう一回ちゃんと化粧しとこうと思ってな、こうシワを伸ばして、シワを伸ばしてファンデ塗りこんでな、鏡見たら化物が映っとってん。って誰が化物やねん!」
「ノリツッコミのノリが長すぎると思う」
「今のはちょっとくどかったなぁ。反省しとくわ。で、タノシソウは何しにここに来たんよ?」
「いやね、この伝票を届けてくれって哀願されたものだからさ」
「伝票? あぁ田中の小娘のか。了解了解、ほな受け取っとくわな」
「あのさ、今日はなんでこんなに誰もいないの?」
「あぁ、もうすぐ年末やろ。だから皆で年末処理してるんちゃうかな」
「ちゃうかなって、志津バアは一緒にやらなくていいの?」
「アタシを誰だと思ってんねん」
「妖怪」
「そそ、溶解する妖怪やでぇ……ってアホ!」
「つまりサボってると」
「あんまり失礼な口聞いてると痛い目見るで? 例えばなぜか今月の給料が半分になってたりしてな。それからなぜかボーナスが支給されなかったりするかもしれんで?」
「志津お姉さんは、若手に仕事の経験を積ませてあげてるんですよね」
「そういうわっかりやすいおべんちゃらいらんわ」
「くそう、このお局様め」
「アタシはこの会社で一番の古株、社長ですら恐れおののく存在。アタシを恐れてないのは田中の小娘と、企画部の近重。それからタノシソウぐらいだわな」
「まぁ、僕にとって恐れるようなものは何もないですよ。なにせ未来の最年少社長になるような超新星だもの」
「ふーん。どうでもいいけど、用が済んだならはよ出て行ってな。アタシも忙しいんやで」
「動画見てると他のこと出来ないしねぇ。まぁとりあえず伝票よろしく」
「まかせとき」

 そう言いながらヘッドフォンをPCに差し込み、志津バアはモニタを食い入るように見入ってしまった。彼女は総務部、いやKGCのお局様である大河内志津。この会社の中で最年長で古株だ。実際は役職に付いていない平社員のはずなのに、なぜか総務部の部長よりも権力を握っている。筋の通らないことが大嫌いで、筋が通っていることには寛容という分かりやすい性格をしている。けれど、その如何ともし難いキャラクターのおかげで、ほとんど全ての社員から恐れられている。これはあくまで風の噂ではあるけれど、志津バアに筋が通らないことをした数名の社員の給料が、なぜか十分の一しか支給されなかった怪現象が起こったことがあるらしい。所詮、風の噂だ。
 さてと、お次は長谷川さんのヘルプだったっけ。この時期に川沿いに出向くのはなかなかに厳しい。コートを取りに戻って、暖かいミルクティーを飲んで一息入れてから西川サイクリングロードへ向かおう。仕事の出来る男は忙しいのだ。



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COMMENT

●サイコ★デコラデコラさん

まぁ、あれです。生き字引的な存在ですよ。
お局的というかね。うん。

妖怪…(苦笑)

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