POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ/ゲーム - /02 -


ハコニワノベル

 KGCは社員数二百数十名の会社で、十三の公園を管轄している。そのうち有料公園は二つ、一般公園が九つ、それから最近の試みであるオフィス緑化企画で、二つの企業ビル屋上に小さな公園を造り、それらを管轄しているというわけだ。新規の公園計画や既存の公園でのイベントなどを計画立案しているのが企画部、二つの有料公園にて接客等を行う運営部、その他の公園を管理する管理部、その他にシステム部と総務部が存在している。十年、いや百年に一度の逸材と自称する僕は管理部の三課に配属されている。管理部三課は上坂西1公園、上坂西2公園、西川サイクリングロード、上坂東公園の四つを担当として受け持っている。ちなみに僕の管轄は東公園だ。
 管理部という大層な名前が付いてはいるものの、実際の業務内容としては公園内の清掃、点検、修繕依頼、草刈り、低木の刈り込み依頼などだ。ただ、各公園はそんなに大きくないので、一週間ごとに当番を決めて、当番は毎朝担当公園の清掃を行い、軽く公園内の点検をしてから出社するというルールがある。ホワイトボード上には今週の当番としてミッチー先輩の名前の上に、赤いマグネットが置かれている。しかしどうやら先週の当番であった僕が、ミッチー先輩と当番を交代して欲しいと申し伝えていたらしく、今週の当番は僕ということになるらしい。そう言えば先週末に勘違いしてくれるかもしれないと、赤いマグネットを自分の名前の上からミッチー先輩の名前の上へ移動させたような気がする。いや、確信がある。
 当番になるといつもより早く家を出ないといけないし、この時期は何より寒い。しかも出社直後に面倒な報告書を作成しなければならないのだから、出来れば当番になりたくないのは自然の摂理だ。報告書はGSと呼ばれる社内システムで作成し、上司へレビュー依頼を出して報告書をチェックしてもらい、指摘があれば修正して再度レビュー。指摘がなくなったら次は課長へ提出、ここで指摘があればまた修正して再提出を繰り返し、課長承認が得られた時点で報告書作成は完了する。周りの人たちは半日もかけて、この報告書を作成しているようだが、優秀過ぎる逸材である僕にかかれば、二日ほどかかったりする。何が気に入らないのか、上司レビューの担当者であるミッチー先輩が、まったく承認をしてくれないからだ。前回当番時に作成した報告書の指摘箇所は三桁を超えていた。逆にそれだけの指摘を真面目に出来るミッチー先輩を、心から尊敬したいと思う。真似はしたくないけれど。
 少し冷めたコーヒーを口に含みながらGSのログイン画面を表示させる。社員IDとパスワードを入力すれば様々な社内処理を一元的にシステム上で行うことが出来る。システム部が血眼になって日夜機能追加、バグ修正を行っているおかげでかなり使い易いシステムになっている優れものだ。
 さて、とりあえずさっきからチラチラとこちらを睨みつけてくる先輩のご依頼を達成するとしよう。

「あれ?」

 モニタに表示されたログイン画面に見慣れない文字が表示されている。

「前回ログイン時から同一IDでのログイン可能時間を超えています。システム部にご連絡下さい」

 なんだこれは。赤色でしかも太字。しかも何度試してもログイン出来ない。ログインが出来ないということは、報告書の作成も出来ない。つまり、今日はもう仕事がないということだ。やれやれ、システム側の問題じゃしょうがない。コーヒーを口に運ぶ。

「なにモタモタしてるのかな?」
「えっ、あ、ミッチー先輩、ちわーっす」
「ちわーっす。じゃないわよ。報告書の概要を送りたいけど、あんたまだGSにログインもしてないじゃない」
「いやそれがですね、何度やってもログインが出来ないんですよ。システム障害ですねこれは」
「何言ってるのよ、私はログイン出来てるし障害報告なんて来てないわよ。あんたIDとかパスワード間違えて入力してるんじゃないの?」
「そんな素人間違いするわけないじゃないですか」
「どうだかね、ほらちょっと見せてみなさい。ってあんたこれは」
「ね、システム障害でしょ。こんな赤いメッセージ初めてですよ。まったく、これは障害以外に考えられない」
「ちょっと確認したいんだけど、あんたいつからGSにログインしてないの?」
「えーと、先週はログインした記憶がないですよ。はっはっは……ぉぐぅ」

 腹部に鈍痛。ミッチー先輩の拳が脇腹に突き刺さっておられます。さっき優雅なランチタイムのデザートに食べた、ふわふわの紅茶シフォンケーキがお口からこんにちはしそうだ。もうこれは傷害罪で言い逃れなしの実刑判決が出るレベルだ。実現不可能とまで言われたミッションだったけれど、なんとかシフォンケーキを押し込めることに成功した。

「このメッセージは一週間以上ログインしなかったときに表示されるメッセージじゃない。勤怠入力は毎日しなさいって、私何度も言ったわよね?」
「は、はい仰られておられましたです」
「それでなぜ一週間以上ログインしていないのかしら。これで何度目なのよまったく。さて納得のいく説明をしてもらいましょうか」
「それはきっと小人さんがログインさせないように……ぁぐぇ」

 突き刺さったままの拳がグリグリされているであります。痛いというより吐きそうです。このままではマーライオンになってしまって、KGCの新名所が誕生してしまうじゃないか。

「毎回毎回ロック解除のために、私がシステム部に行ってるんだからね。もう今回からあんたが自分でシステム部に行って、ロックを解除してもらってきなさい。それから、報告書が二時間後までに出来上がらなかったら、今年一年分の三課の報告書をまとめる素敵な残業をプレゼントしてあげるからそのつもりで」
「ふ、ふぁぃ。分かりました」

 そこまで言うとやっと拳が腹部から抜き取られた。ギリギリだ。ギリギリで新名所は誕生することはなかった。口の中が微妙な甘みと酸味で広がっている。それを残りのコーヒーで流し込んだ。ミッチー先輩は内線を取ると「管理部三課の小谷です。黒瀬主任をお願いします」とか話してる。やれやれ、訴えられたら負けるとも知らず呑気なものだ。

「爽太、システム部の黒瀬に頼んであげたから、さっさと行ってきなさいよ」

 内線を切ってからそう言うとミッチー先輩は、やれやれという感じを身体全体から醸し出しながら自席へと戻って行ってしまった。これ以上モタモタしてるとマーライオンにされかね無いので、素直にシステム部へと向かった。
  KGCの社ビルは一階がエントランス、二階には我らが管理部の一課、二課、三課が入り、三階に企画部と運営部、四階はなぜか閉め切られていて、五階にシステム部、六階に総務部、七階に社長室と応接室がある。それぞれの階にミーティングスペースと、自動販売機やソファなどが設置されているリフレッシュスペースがある。
 エレベーターホールで二台あるエレベーターを確認すると、一台は点検中でもう一台は七階に止まっている。若さがほとばしっているとはいえ、階段は非常に体力を奪われるので出来れば選択したくない。ここはエレベーターで行くことにしよう。よし、と納得してから七階に止まっているエレベーターを呼ぶ。しかし、何度ボタンを押しても七階に止まっているエレベーターは降りてくる気配がない。やれやれ、ここは若さをほとばしらせるしかないようだ。
 しょっちゅう電話が鳴り響く二階とは違い、三階は静かだった。企画部は基本的に営業活動で社内にいないし、運営部は有料公園側での仕事がメインなのでほとんど社内で見かけることはない。きっと今いるのは運営部個別の経理部門の社員だけだろう。四階は四という字が不吉だからとかで使っていないらしく、白い壁で塞がれている。入社以来、この四階のフロア内を見たことはない。
 さて、やっと五階にたどり着いた。そこにはぶっきらぼうな電子ロック扉だけが見える。他のフロアは自由に出入りが出来るものの、システム部のフロアには二重の電子ロックを解除しないと入れない。外側の電子ロックは一般社員のIDカードで解除出来るが、内側の電子ロック解除にはシステム部社員のIDカードがなければならない。どうしてここだけこんなにセキュリティが高いのだろうか。こんなところにお金をかけるならば、僕の給料をもっと上げるなどの有効利用をすべきだと思う。
 外側の電子ロックを解除して、内側に設置されている内線を持ち上げる。

「管理部三課の小谷主任にここへ来るように言われたものですが」
「あぁ、今行く」

 少し無愛想な内線応対後しばらくして、中から出てきたのはシステム部主任の黒瀬渉。と、IDカードには書かれている。システム部は昼夜休日関係なく仕事が発生するとかで、黒瀬さんもその激務によるものだと思われる疲労をあちこちに抱え込んでいるようだ。特に目の周りのクマが凄い。ちゃんと睡眠を取って欲しいものだ。

「どうも、お待たせ。……ふぅん、君が小谷から良く聞くまったく成長してくれない後輩君か」
「あ、それはきっと別の奴です。僕は成長し続けて困ると言われるほどの逸材ですから」
「それで何度もGSにロックかけられてるのか。俺が入社してから今までで、こんなにロック解除の依頼があったのは君で二人目だ」
「それはどうもどうも」
「褒めてはないけどね。まぁ、いいやIDカード貸てくれる? ロック解除しちゃうからさ」
「あ、はい」

 そういうと黒瀬さんは僕のIDカードを受け取って、システム部内に行ってしまった。IDカード無き今、システム部側はもちろん、入ってきた外側の電子ロックでさえも解除する方法が無い。つまり、閉じ込められている。なんたることだ、これは軟禁にあたるんじゃないだろうか。このままではこれが精神的な苦痛になりトラウマとなって、職務を全うすることが出来なる。その損害と医療費を請求しなくてはならないだろう。請求額は二億円ぐらいが妥当な線か。などと将来のビジョンを考えていると、再び内側の電子ロックが解除され、黒瀬さんが戻ってきた。

「はい。ロック解除しといたから。あと、パスワードだけは初期パスワードに戻ってるから気をつけて」
「了解しました」
「あぁそうだ。一つ、面白い話をしてあげよう。小谷もね、新入社員の時に何度もロック解除の依頼に来てたよ」
「あぁ、やっぱり。あの人そういうところがありますからね」
「まぁ、当時は三日間ログインしないとロックが掛かってたんだけどね」
「あの人、三日坊主だからなぁ」
「ははは。君、なかなか大物になるかもしれないな」
「既に大物な自負があります」
「ま、小谷もいろいろ頑張ってるんだから、あまり迷惑かけないようにしてやれよ。それじゃぁな」
「はい。失礼します」

 ロック解除は無事に終わった。あとは二時間以内に報告書を仕上げればいい。それは楽勝だな、根拠はないけれど。エレベーターホールでエレベーターを確認すると、相変わらず一台は点検中でもう一台は一階に止まっていた。やれやれ、また若さをほとばしらせることになるようだ。



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COMMENT

●黒さん

そうです。
ここが初登場だったんですよー。

何気にここで登場していたのですね。
  • 2010.01.06[水]

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