POSITISM

適度に適当に。

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スラッシュ/ゲーム - /01 -


ハコニワノベル

 学生時代、就職活動になかなか本腰を入れられなくて、うだうだとぬるま湯のような生活を続けていた。その生活は大変に心地よく、出来る事ならば一生をそのまま過ごしていきたいとさえ思った。本気でそうなればいいとまで考えてみたものの、人生はなかなかに甘くない。やれやれ、そういうことなら仕方ない。などとたかをくくって遅い就職活動を開始してみると時すでに遅く、ほとんどの企業が募集を締め切っていた。詳細は知らないがアメリカの不況とやらが、この国にも襲いかかっていることも影響があるらしい。しかし、この不況というものを大義名分にすれば、自堕落で素敵なぬるま湯生活を続けられるじゃないかと喜びもあった。そんな矢先、両親から無情な仕送り停止の知らせが入った。どうやら不況とやらは国だけでなく、両親にまで襲いかかっていたらしい。抜け目の無い奴め。
 そこからは求人という求人をちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返し、手当たり次第に応募を続ける日々となった。しかしながら書類選考という超難関な選考に阻まれ続けること数十社、いや百数社。社会が自分を必要としていない現実を見せつけられて、まさに精も根も尽き果て、街行く人達全員が自分を哀れんでいるように思え大変惨めに感じた。だが強靭な精神力を保有しているため、三日後にはその惨めさにも慣れていたし、全ては諦めが肝心だなどと妙に清々しく決意していたのだ。それなのにある日の午後、いつ応募したのかさえ忘れていた一社から面接を行う旨の連絡が入った。人生はなかなかに思い通りにはならないようだ。必死にかき集めたお金でスーツを購入し、フレッシュリクルーターに生まれ変わった。そのフレッシュさがはじけ過ぎていたのか、面接会場へは軽やかなステップで移動した。すれ違う人が皆、自分を応援しているようにさえ思えた。

「あなたが大切にしていることは何ですか?」
「人生をいかにして楽に生きるかを命題にしています。普段を楽に生きていれば、有事の際に普段使っていない本気を存分に発揮することが出来ると思うからです」
「では、あなたが当社に入社してどのようなことをやりたいと考えますか?」
「私に関わる全ての人が楽しく思えることをやりたいと思います」
「具体的に楽しくとはどのようなことですか?」
「楽しいことは嬉しいということで、つまりは幸せになってもらいたいです」
「それは身内だけになってもらいたいのですか?」
「身内だけでなくお客様や、自分も幸せになってもらいたい、いや幸せになります。幸せにしてみせます」
「分かりました。こちらからの質問は以上です。何か質問等ありますか?」
「ちなみになんですが、御社はどのようなことを仕事にしているのですか?」
「……本日お渡ししたパンフレットに書いてありますので、またご覧になって頂ければお分かりになると思います」
「あ、そうなんですか。入社までに穴が空くほど目を通しておきます」
「結果は一週間以内にお伝えするようにします」
「はい、本日はありがとうございました」

 あれは一年前の年末だったと思う。今思い出しても内定間違いなしの面接だった。自分だけでなく他人すらも幸せにしてみせるという高い意欲、今時の若者らしからぬ情熱がほとばしっていたのだろう。あの完璧な面接が行われてから二ヶ月後に、楽勝で内定を頂いた。風の噂では別の内定者がいたものの、ギリギリになって内定辞退されてしまい欠員が出たとかどうとか。まぁ、風の噂はあてにしないに限る。
 内定を掴みとり、今年の四月からこの会社KGC、上坂ガーデンカンパニーで働いている。KGCはあの泣く子も黙る、全国津々浦々、大小様々な公園の企画、建設、運営から管理までをこなす巨大企業グループである帝園グループの傘下にある会社だ。あの日もらったパンフレットには帝園グループのマークが描かれていて、ついに一流企業に勤めることになるのかと、下ろしたてのスーツを正したのが懐かしい。今は毎日KGCから支給された作業服をビシっと着こなしている。

「こら、爽太」

 昼休みも終わり、紙コップに注がれた本日三杯目のコーヒーを飲みながら、ニュースサイトのフィードをチェックするという大変忙しい作業をしていたのに、いきなり後頭部を叩かれた。これはもう弁明の余地なしで傷害罪になる。誰か警察を呼んでくれないか。ということを割と本気で思いつつ振り返ると、思った通りミッチー先輩がいかにも怒っていますオーラを出して仁王立ちしている。

「ミッチー先輩、痛いじゃないですか」
「痛いじゃないですか、じゃないでしょう。君、今朝の東公園の清掃はどうしたの?」
「今週って僕でしたっけ? いやいや、僕じゃないような気がするな。ほら、ホワイトボードの当番はミッチー先輩になってるじゃないですか」
「あんたが先週私と当番を交代してくれって言ったの忘れてるわけ?」
「あぁ、そう言えばそういう約束事を交わした、ような記憶がありますね」
「だったら何で今日清掃しなかったのよ。あんたのせいで私が呼び出されて今まで清掃するはめになったじゃない」
「それならそうと朝の段階で携帯にでも連絡くれればいいじゃないですか」
「したわよ。何度もね」
「またまたご冗談を。僕の携帯にはほーら、あー、着信が十八件も入ってますね。ミッチー先輩、そんなに僕の声が聞きたかったんでぇっ……い、痛い痛い痛い」

 思い切り耳を捻られて激痛が走る。いや、このままだと耳が千切られる可能性も出てきている。これは立派な傷害罪、しかも先輩が後輩に対して行うパワハラだ。訴えたら間違いなく勝てる。という勝算が立てられたとほぼ同時に耳は開放された。それでもなお、じんじんと痛む。

「とにかく、報告書の作成ぐらいはきっちりやってもらうからね」
「いや、僕が報告出来るのは清掃しませんでした。という簡潔かつビューティフルな報告しかありませんよ」

 突然、バンと机を叩かれた。コーヒーが少しこぼれてしまった。デスクにシミが付いたらどうしてくれるんだ。まったく。

「そのまま正直に報告したら、あんたの教育係でもある私の責任問題になっちゃうでしょうが。私が概要を伝えるから、きちんとした報告書を作ってもらわないと困るのよ。分かったかしら?」
「まぁそういうことなら、先輩を助けると思ってやりますよ」
「反対の耳も捻ってあげようか?」
「さ、報告内容の概要を教えて頂けますか、小谷先輩」

 従順に作業内容を教示してもらおうと思ったのに、結局反対側の耳も捻られた。まったく酷い先輩だ。KGC管理部三課の主任、小谷美知恵。通称ミッチー先輩、入社五年目で独身。大人しくしていればそれなりに魅力ある女性だというのに、こうも暴力的ではいけないな。
 こぼれたコーヒーを拭き取りながら後ろを確認すると、未だ怒りが収まらないのか妙に禍々しいオーラを背負っているミッチー先輩が見えた。やれやれ、レディはもっとお淑やかにしておくべきだ。そう思った瞬間、ミッチー先輩が振り返ってキッとこちらを睨みつけてきた。両耳がじんわりと痛くなった気がして、電光石火の勢いで視線を逸らした。



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