POSITISM

適度に適当に。

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FARFALLA - 03 -


ハコニワノベル

「カプリコルさん、僕、こいつを取り付けてから帰るよ」
「あんまり遅くまでやって捕まるなよー」
「はーい」

 スペースジャケットを脱ぎながら、僕は太陽電池パネルをどう取り付けるかばかりを考えていた。カプリコルさんはエアタンクに圧縮酸素を補給しに行ってしまったようだ。スペースジャケットを乱暴にロッカーに放り込んで、太陽電池パネルを手にして走る。
 外へと繋がる扉とは反対側に位置する場所に、縦長の物体が深い緑色のシートに包まれている。それを慎重に外すと、中からロケットが顔を出した。ソユーズ、僕のストラトキャスター。細かいパーツも含めると何千、何万というパーツを探しては取り付けるを繰り返して、ここまで組み上げるのに二年かかった。外でしか手に入らないパーツもあれば、中でしか手に入らないパーツもある。そのパーツを探してうろうろしているときにカンクロとペーシに見つかって、それ以来僕は「ゴミあさり」をしているとバカにされている。
 本体の一番下になる円柱の部分のサイドからパネル板を引き伸ばす。そこに手に入れた太陽電池パネルを一つずつ丁寧に溶接していく。バーナーの熱で倉庫は蒸し暑いし、溶解する金属と薬品の化学反応でなんとも言えない臭いが充満していく。太陽電池パネルを全部取り付け終わったのは、それから二時間半が経過していた。

「あとはアブレータ…それから燃料だな」

 耐熱版であるアブレータはどうにかなるとは思うけれど、問題は燃料だ。必要なのは別の星に到着してから帰ってくるための燃料。ここから打ち上げる時は燃料を使うのではなく、カタパルトによる衛星外への射出を考えている。そうでもしないと、とてもじゃないがロケットを打ち上げて衛星上の重力を振り切っていくだけの燃料を、リベルラなどに見つからないようにこっそり集めるのは不可能だ。そんな燃料事情を考えながら倉庫を後にした。
 フィオーレでは昼や夜という自然的な時間の区切りがない。それはこのフィオーレが常に太陽の方向を向くようになっていて、居住区は太陽とは反対側に存在しているのが大きな要因である。一応、ある規定時刻になると居住区の照明が徐々に落とされて、やがて薄暗くなっていく。それを夜だと呼んでいる。今がまさにその夜だ。
 夜になると自分の家以外の建物には基本的に入れなくなる。フィオーレに住む人たち全員は、左手の甲に薄いメダルが埋め込まれている。それぞれの管理IDや今までの生活上の記録などがこと細かく記憶されている。それが建物に入る場合のキーとなっている。普通の人は。
 僕の左手の甲に埋め込まれているメダルは、カプリコルさんが妙な装置でいじくってしまってから、なんだかおかしい。「発信機にな、イタズラしてやったんじゃよ」とか言っていて、しばらく意味が解らなかった。僕やカプリコルさん以外で外へ出た人が監視衛星に見つかって、逃走を試みるも簡単にリベルラに掴まり、未開拓地区の開拓作業という名の重労働ボランティアにされた話を聞いて、発信機という言葉の意味が解った。
 リベルラは人知れず僕たちを監視下に置いている。いつ、誰が、どこで、なぜ、何を、どのように、といったことはきっと簡単に解るのだろう。それに気が付いてからは、リベルラという組織自体がどうにも胡散臭く感じてしまっている。それに怪しいのは、特に外へ出た人を執拗に排除したがっているように感じる。常に太陽の方向を向いているのも不思議で、そのことをリベルラの人に聞いてみたことがある。

 ・太陽からのエネルギーを効率よく得ることで、無駄のないエネルギー資源を確保しています。
 ・太陽の光は強すぎるため、直視してしまう危険を排除しています。
 ・外に出ると太陽の光を直接受けてしまう可能性があるため、大変危険です。

 という、まるで誰かにこう言っておけとでも言われたかのような返答が返ってきている。益々、怪しい。どういう訳か太陽を隠したがっているように感じてしまう。隠されるとよけいに見たくなるもので、今ロケットを組み上げているのは、そういった秘密を暴いてやろうという思いもあるからだ。フィオーレには、いや、今の人類にはなんだか隠された部分が多い気がする。
 それはともかく燃料を――と考えを切り替えようとすると、自分の家の前まで帰ってきていた。中途半端な階段を上ってから、入り口で左手の甲をかざして中に入りエントランスを横切る。エレベーションで自室の前までは勝手に移動するのだけれど、どうにもこの安定した浮遊感が気持ち悪い。

 ――XB03026。僕の部屋番号であり、僕の管理IDでもある。エレベーションから開放されて中に入る。親はいない。いや、厳密に言えばこのフィオーレの中のどこかにはいる。でも誰が親なのか解らない。もちろん向こうも誰が自分の子なのかも解らない。人工授精による完全体外受精で現在の人類は繁栄を繰り返している。「血は争いの原因になりやすいため…」というリベルラの方針だ。実に計画的に人口は増加を続けている。
 部屋の中は必要最低限のものは揃っている。何か必要なものがあれば建物の管轄をしているリベルラの社員に伝えれば、遅くとも二時間後には大抵のものは手に入る。ただし、それが必要なものであった場合だけだ。確固たる基準があり、その基準から外れるものは手に入れられない。それで不自由だと思ったことはないけれど。
 手と顔を洗ってからモニタを付ける。管轄のリベルラ社員への通信を選択。

「すいませーん」
「はい、こちらリベルラ社XB地区管轄担当局です」
「あの、晩御飯をお願いしたいんですけど」
「かしこまりました。メニューはいかがなさいますか?」
「あっさりしたパスタでお願いします」
「あら、野菜はしっかり食べないとダメよ? ミツル君」
「あー、今日はヴェルネさんが担当の日か」
「なに? 私が担当だと不都合なのかしら?」
「いやそういうわけじゃ…」
「まぁいいけど、ベーシックパスタとスターサラダにしとくわね」
「また勝手にサラダとか付ける…」
「ちゃんとバランスよく食べないとダメなのよ」
「はいはーい」
「残してたら、解ってるわよね?」
「…は、はい」
「そ。解ってもらえてお姉さん嬉しいわぁ。それじゃぁね」

 どっと疲れた。ヴェルネさんはこの地区を管轄しているリベルラの社員。リベルラの人は皆機械的に仕事をこなしているのだけれど、ヴェルネさんだけは違う。真面目に仕事しているようには感じないけれど、悪い気分はしない。実際に何度か会って話したこともある。仕事は緩く、自分のポリシーには厳しくて、最近彼氏が出来ないことを嘆いている大人な女性だ。本当はダメなのだけれど、多少の我侭は許してもらっているありがたい存在だ。知り合いの家を管轄しているリベルラ社員は厳しすぎて、通信をするのにやたらと緊張するという。それを考えれば恵まれている。

 入り口のドア横にある受信ボックスのランプが赤く点滅した。

 中を開けるとベーシックパスタとスターサラダが届いていた。送信者のメッセージに「きちんと食べるように」と書かれていて笑った。そそくさとそれらを口に運んでいく。




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COMMENT

おもしろいなぁ、おもしろいなぁ

大事な事なので二回いいましたっ
このコメントは管理人のみ閲覧できます
  • 2008.09.11[木]
  • -

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