POSITISM

適度に適当に。

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コネクテッド・シグナル 第十四話


ハコニワノベル

 ――三ヶ月前。

 彼との同棲生活が始まった。今までより早起きして彼の朝食、それからお弁当を作るようにした。彼の寝顔をしばらく堪能してから彼を起すのが幸せだった。だけど彼は元々早起きする人で、私が目を覚ますと同時に起きようとする。私はそれを無理やり寝かせるようにした。そうでもしないと彼の寝顔を堪能できないから。
 心配事が二つほどある。一つは彼がたまに右肩を痛そうにしていること。肩こりだとは言っていたけれど少し心配。もう一つはなんとなく彼が私に隠し事をしている気がすること。それは最近彼が心の底から笑っていない気がするから。彼自身の中で何か心配ごとがあるのだろうか。もしかすると大量に作ってしまったカレーが、四日目に突入したことに怒っているのかもしれない。

「ねぇ、タカアキ。その、怒ってるの?」

「ん?なにを?」

「いや、ほらカレーばっかりでさ」

「ううん。僕、カレー好きだから大丈夫」

「それならいいんだけどさ」

「……おいしいよ」

「ありがとう」

 なんとなく無理においしいと言わせた気がして悲しくなった。彼は食事のあといつもこっそり何かを飲んでいる。胃薬だったらどうしよう。いや、きっとサプリメントかなにかだろう。そう思っていた。
 最近彼は無口になった気がする。常に何かを考えているような素振りをしている。やっぱりなにか悩み事があるかもしれない。相談したい悩みなら、きっともう相談されてるはずだから、きっと相談の出来ない悩みなんだろう。そう思うとこちらから聞くようなことは出来なかった。
 ――一ヵ月後。
 いつものように仕事を終えて家に帰ると、何か変な気分になった。買ってきたものを片付けて、テレビの電源を入れる。ソーダ水をコップに入れてソファに腰掛けた。

「なんだろう、なんか変だよね」

 独り言。何が変なのか解らない。ただ、家中が妙に片付いている気がする。部屋着に着替えるために着ていた服を洗面所にある洗濯カゴに放り込んだ。部屋干ししていた洗濯物に目が行った瞬間、私は気が付いた。何が”変”なのかに。彼の下着だけが無くなっていた。

「ウソ、でしょ?」

 慌てて寝室へ走る。ない。彼の机や仕事で使う物。タンスを開ける。ここにもない。彼の服、下着、クリーニングから返って来ていたスーツもシャツも。台所へ走る。ここもだ。彼の持ってきたグラス、食器もない。玄関。靴、サンダルもない。もう一度洗面所。歯ブラシもない。彼の物が全て綺麗に無くなっていた。もう一度見回すと引越し後の部屋のように、家中が片付いている。それが妙に悲しかった。
 携帯電話で彼に連絡してみる。――繋がらない。まだ会社にいるかも知れない。昔の知り合いである事務員へ電話をした。

「もしもし、久しぶり」

「香苗、久しぶりどうしたの?」

「えっと、孝明……近藤さんいる?」

「え?近藤さんって、香苗が付き合ってた近藤さん?」

「付き合ってたって何よ?今も付き合ってるわよ」

「ウソ……だって近藤さん随分前に別れたって、送別会のとき言ってたけど?」

「え?送別会?」

「知らないの?近藤さん先月でうちの会社辞めてるよ」

「そんな……」

 電話を切ってから私は力が抜けた。彼は一ヶ月前からこうすることを決めていたんだろう。何が悪かった?何がいけなかった?私は彼に苦しい思いをずっとさせていたんだろうか。そう思うと胸が苦しくなって、我慢していた涙が溢れ出た。
 随分泣いて、あまり得意じゃないお酒を飲んで気分が悪くなった。なんとか気分を変えようとソーダ水を取りに冷蔵庫を開けた。冷蔵庫からソーダ水を取り出すして扉を閉めようとしたその瞬間。彼の物がなにもかも無くなったこの家の中で、たった一つ彼の物が残っているのを発見した。それは酷く慌てて入れられたらしく、ぐしゃぐしゃに冷蔵庫の隅の隅へと押し込まれていた。藁をも掴む気持ちで私はそれを引きずり出した。



 ――紙袋。藤山国立病院の文字。内容物:シスプラチン。



 私はこの発見をしなければ良かったのだろうか。それを調べなければ良かったのだろうか。インターネットの検索エンジンに打ち込まれた”シスプラチン”という文字。そして検索結果に表示されている”抗悪性腫瘍剤(抗がん剤)”の文字。
 彼の右肩、彼が私に隠し事をしている気がする。二つの心配事が不必要に繋がってしまった。



 彼は、癌だ。




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