| POSITISM | - 前向き親バカおとーさんの素敵な妄想エッセイ集。 - |
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タタンタタンタタン。トトントトントトン。
電車が線路を奏でる音が響く。
その音の中に、向かい合う男と女。
男が何かを言ってから女の方へと歩き出す。すれ違うように女の横にくると一枚の紙を渡した。男はそのまま女の横を通り過ぎて歩いていく。女はしばらく立ち尽くしてからその紙へ視線を移した。
◇
カナエへ
突然君の前から消えて
突然現れて別れを告げたこと、ごめん。
僕は君を嫌いにはなれなくて
だけど僕は君に相応しい男でもない。
勝手に決め付けて
自分の事ばかり考えてしまう
弱い僕を許してください。
だけど、僕は君の前から消えます。
自分勝手でわがままで、弱虫の僕なんかより
君には相応しい人がいるはずです。
だから、僕のことなんて忘れてください。
ありがとうと愛してる。
それから、さよなら。
タカアキ
◇
その紙は別れを告げる手紙だった。女はその手紙をそっと胸に押し当てて、真っ直ぐ前を見つめている。その目から一筋の涙が零れ落ちていく。今すぐに男を追いかければ追いつくことが出来るだろう。しかし女は振り向きたくても振り向けなかった。
「読み終わっても、振り向かないで」
この手紙を男から受け取るときにそう言われていたからだ。
タタンタタンタタン。トトントトントトン。
背中側から電車が線路を奏でる音が聴こえた。女はその場にへたり込んで泣いた。声はあげず、ただただ涙を流した。まるで夏の夕立のように、その涙はまっすぐにまっすぐに零れていた。
タカアキと出会ったのは随分と前のことのように感じる。だけどたった三年三ヶ月前のことだ。就職難と言われていた時代が終わり、選り好みをしなければそれなりに働くことが出来る。そんな時代の中で私は就職活動をしていた。特に強い希望があったわけではないけれど、自分の時間が多く取れそうだと思っていた事務職での就職活動をして、それなりの苦労とそれなりの努力で無事に就職が決まった。
実際に事務の仕事をし始めて解ったのはイメージしていたものとは違って、日々ルールを理解していない社員との戦いや、ミスが許されない書類関連の作成。更にはデスクワークなのに体力勝負な月末処理も待ち構えていて、家に帰ると疲れて何もする気になれないのが現状だった。
そんな状態も半年、一年と過ぎ去っていくとそれなりに慣れてきて、上手く自分の時間を捻出できたりするようにもなった。けれど、最初からやりたいと強く思っていた仕事ではなかったので、もう仕事に対する情熱はほとんど無かった。
そんな時期、別の会社から転職してきたのがタカアキだった。事務処理関連をまったく知らないタカアキに、自分の会社でのルールや書類の記入方法を一対一で教えているうちに仲良くなって、どちらからともなく週末に会うようになり、告白され付き合うようになった。どうにも恥ずかしいので私は会社を辞めて、別の仕事に就いた。そしてこの春から同棲を始めたところだ。
それなのに、一ヶ月前にタカアキは何も言わずに家から消えた。私が仕事から帰ってきたときには、タカアキの荷物が全部綺麗になくなっていて、携帯電話に連絡しても繋がらない日々だった。そしてやっと連絡が取れたと思ったら、タカアキの口から出たのは「別れよう」という言葉だった。
「ちょっと待ってよ。そもそも何も言わずにどこに行ってるの?」
「ごめん。だけど、僕はもう君とは付き合っていけない」
「そんなの意味が解らないよ」
「ごめん」
「謝らないでよ……私が悪いみたいじゃない」
「……」
そこで会話は終わってしまった。ただ、タカアキが冗談を言っている顔ではなかったから、何が悪かったのだろう。そればかりを考えてしまってタカアキの顔がまともに見れなかった。
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