| POSITISM | - 前向き親バカおとーさんの素敵な妄想エッセイ集。 - |
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朝目覚めると、まだ少しだけ胸が痛む気がした。
「よーし、瑞穂を励ます会だ!じゃんじゃん飲もう!乾杯!」
瑠伊子部長の音頭で月曜日だと言うのに飲み会が始まった。大人な雰囲気のお洒落なお店だ。なのに明らかに私たちのグループが騒ぎすぎて、周りから浮いている。しかも肴にされてるのは、私の失恋だから居たたまれない。
- 第十一雨 -
「瑞穂、大丈夫。すぐに素敵な人に巡り会えるよ」
「彩…、ありがとう」
「よし!合コンのセッティングね!」
「いや、それ彩が行きたいだけじゃ…」
彩は素早く携帯電話を操作してどこかに電話をかけた。隣りで「今日、これから無理?」とか言っている。行動が早過ぎてちょっと付いて行けない。瑠伊子部長はもう随分と出来上がっているのか、真っ白なシャツの第三ボタンまでを肌蹴させて、深い紫色のブラがどうやっても視界に入るようになってしまっている。
「瑞穂、辛かったね」
突然、その瑠伊子部長にきつく抱きしめられた。その熱い抱擁から解放されると、瑠伊子部長は隣りに座った。
「スプモーニ、おかわり頂戴」
そう店員さんに告げてから、真剣な表情で私をみつめて話し始めた。
「瑞穂、終わりがあるから美しいのよ」
「…はい」
「それでも、辛いことには変わりないわよね」
「……」
「無理に答えなくていいわ。その代わりにじゃんじゃん飲みなさい。今日は奢ってあげるから」
「いや、一応病み上がりなので、程々にしておきます」
「そっか。恋の病だったんだものね」
「いや、そうじゃなくて本当に…」
「いいのよ。今日は強がらなくていいの。泣いたっていいんだから」
「いや、だから…その」
完全に勘違いをしたままで、瑠伊子部長はスプモーニを受け取るとそれを一口飲んだ。
「失恋はね、交通事故みたいなものなのよ。アクシデントよ」
「は、はぁ」
「そうね、私にもこんなアクシデントがあったわ。子供のころ、田舎のおばあちゃんの家に遊びに行ったとき、使われていない蔵があってね。ほら子供って好奇心旺盛でしょ?だから私その蔵をね、勝手にあけたの。そしたらそこに数え切れないぐらいのカマドウマがいてね。あれはトラウマになったわぁ、カマドウマだけに」
「……?」
「ちょっと、瑞穂!今の普段ダジャレとか言わない瑠伊子部長が、あんたに気を使って言ってくれてるんだよ?少しはリアクションしなさいよ!」
隣りから彩が小声で教えてくれたものの、完全にタイミングを失った瑠伊子部長のダジャレは、少しずつ静寂という波紋を店の中に広げていった。
「あ、あの、すいませ…」
なんとか口を開こうとすると、瑠伊子部長は立ち上がって残っていたスプモーニを一気に飲み干して、第四ボタンを肌蹴させて言った。
「今日は飲むわよ!」
長い夜になる。参加者全員がそう感じた。
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