POSITISM

適度に適当に。

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晴色パラソル - 第八雨 -


ハコニワノベル

 無言のまま、海の向こうからやってくる雨雲を見ていた。

「お待たせしました。ナポリタンです」

「ありがとう」

 軽くお礼を言いながら視線を窓から目の前のナポリタンに移す。

「食べなよ」

「え?」

「お昼、食べてないんだろ?」

「…うん」

 そう言われてフォークを手に取って、無造作にナポリタンを巻き付ける。くるりくるりくるり。出来上がったばかりのナポリタンがフォークに絡まっていく。彼が窓の外に広がっていく雨雲を見たままで口を開いた。

 - 第八雨 -

「俺さ」

「……うん」

「俺、結婚する気無いんだよね」

「………うん」

「瑞穂といるとさ、時々追い詰められてる気がするんだよ」

「………」

「瑞穂はさ、俺に結婚って言い過ぎないように、追い詰めないように、なるべく話題に出さなかったりしてさ、気を使ってただろ?」

「……」

「それが逆に重たかった。…気を使わせてるの、解ってたから」

「…」

「だから、終わりにしよう。これ以上続けても俺は瑞穂の望むことをしてあげられない」

「………う、う…ん」

 巻き取られたナポリタンが温もりを失っていく。窓の外に広がった雨雲は雨を降らせ始めていた。窓ガラスにぶつかる雨の雫のように、ナポリタンの皿と私の間にも雫が降り注いでいた。

「じゃぁ、俺行くわ」

「う……ん」

 彼は伝票を取って席を離れた。俯いていた私の目には彼のサンダルに付けられたピンバッチがカチカチと鳴るのだけが映っていた。彼が行ってしまった喫茶店の中は妙に孤独に感じる。巻き取ったナポリタンは少しだけ固くなっていて、結局食べられずに喫茶店を出た。
 雨の中で傘も差さずに砂浜へ下りる。あのときは優しく感じたこの場所も、今は風と雨で優しさのかけらも感じられなかった。
 ──どれだけの時間、そこにいたのか解らない。雨は降ったり止んだりを繰り返して、いつしか途切れることなく降りだしていた。雨は冷たく全身を濡らしていくのに、頬だけは妙に暖かい。雑誌の星占いで今月の双子座の恋愛運は絶好調だったのに、私の恋愛運は最低だ。これから今月中に新しい恋が芽生えるとは到底思えなかった。
 ずぶ濡れのままで電車に乗って最寄り駅で降りる。今更傘を差す気もなくて、そのまま雨の中を歩いていく。ふと、雨の日によく見かける彼に気が付いた。私は知らないうちに彼の傍に行って話しをし始めていた。

「……振られちゃった」

(解っていたことだけど)

「重たいんだって。彼、結婚する気なんて元々無かったんだって」

(重たくしないようにしてたのが、重たかったんだって)

「バカだよね。この人と結婚するんだ。なんて思ってさ、彼の為に料理も洗濯も掃除も頑張ってたのに。向こうは結婚するつもり、無かった」

(結局、便利な女だったのかな)

「私だけがずっと、結婚を、考えてたなんて…バカみたいだよね?しかも三年間ずっと」

(全部が裏目に出ちゃった)

 そこまで話すと、目の前の彼が泣き出したことに気が付いた。黙って話を聞いてくれて、今は何も言わずに泣いてくれている。まるで、励まされてるようにも感じた。

「沢山ケンカして、沢山笑って、沢山泣いて、その分だけ好きになって、もう他の人とか考えられないぐらい好きなのに……」

「本当は、彼の心が離れていくこと、気が付いてた。だけどそれを認めたくなくて…」

「私が頑張れば、きっと振り向いてくれる。そう信じて頑張ってた」

「………けど。彼、一度も振り向いてくれなかった」

 ザー!と強い音。凄い勢いで雨が降り注いできている。

「ううん…、本当は最初から。最初から彼は私のことなんて見てくれてなかった」

 通りを走る車のヘッドライトが何度か通り抜けていった。──雨は次第に弱まっていく。

「雨って、なんでも綺麗に洗ってくれるんだと思ってた」

「私の心の中まで綺麗にしてくれればいいのに」

「どうせなら、いっそのこと…全部無かったことになればいいのに」

「昨日さ、彼に大事な話があるって言われたことを、職場で話したんだ。そしたらみんな『プロポーズじゃない?』って喜んでくれてさ…、こんなんじゃ来週、会社行けないよね」

 一度、深呼吸をするように、大きく息を吸い込んだ。

「真也のバカ野郎ーっ!!」

 空を見上げて叫ぶ。雲間から月が顔を覗かせた。

「私は、あんたのことが大好きだったのにーっ!!」

 もう一度、叫ぶ。雨が上がって雲が流れていく。月が見えた。

「あーっ!見て見てーっ!」

「ほら!ほーら!あそこ!」

「ほら!満月!」




≪第七雨へ
第九雨へ≫

COMMENT

すごく共感してしまいました…
女心をこんなに描けるなんて、今更書くことでもないですが、さすがしのめんさんです!!
切ない女心も晴れますように♪

あぁ。

言う方も辛いんだよな。

言って失ってから初めて気付くんだよ。

大きさにさ。
  • 2008.06.11[水]

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