POSITISM

適度に適当に。

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晴色パラソル - 第三雨 -


ハコニワノベル

 今、彼女は僕の目の前で泣いている。

 太陽が沈み、月が昇るころに、彼女は泣きながら通りを上ってきた。夕方から降り続く雨の中で、あのぽっかり浮かぶ空のような傘は閉じられたまま、彼女は僕の目の前までやって来た。涙で濡れているのか、雨で濡れているのか解らなかったけれど、彼女は泣いていた。僕はどうして泣いているのか聞けずに、ただ彼女を見つめることしか出来なかった。

 - 第三雨 -

 どれぐらい時間が経っただろうか。彼女は下唇を噛み締めたまま無理に笑顔を作ってから、ゆっくりと話し始めた。

「……振られちゃった」

「重たいんだって。彼、結婚する気なんて元々無かったんだって」

「バカだよね。この人と結婚するんだ。なんて思ってさ、彼の為に料理も洗濯も掃除も頑張ってたのに。向こうは結婚するつもり、無かった」

「私だけがずっと、結婚を、考えてたなんて…バカみたいだよね?しかも三年間ずっと」

 何も言えずに、ただ彼女の声を聞いていた。僕には聞くことしかできなかった。雨が少し強くなるのと同時に、彼女の泣き声も大きくなっていった。それでも僕は、聞くことしか出来なくて、なぜかそれがとても情けなくて、気が付いたら僕も泣いていた。

「沢山ケンカして、沢山笑って、沢山泣いて、その分だけ好きになって、もう他の人とか考えられないぐらい好きなのに……」

 彼女の目は赤くなっていて、それでも僕が出来るのは話を聞いて、一緒に泣いてしまうことぐらいで、とにかく何度も声をあげて彼女と一緒に雨の中で泣いた。次第に雨が強さを増していく。

「本当は、彼の心が離れていくこと、気が付いてた。だけどそれを認めたくなくて…」

「私が頑張れば、きっと振り向いてくれる。そう信じて頑張ってた」

「………けど。彼、一度も振り向いてくれなかった」

 ザー!と強い音。そして強い雨。通りを走る車が何度か彼女のシルエットを映して走り去っていく。雨音だけが鳴り響いて、彼女の声すら聞こえなかった。そのまましばらくすると雨が弱まった。

「雨って、なんでも綺麗に洗ってくれるんだと思ってた」

「私の心の中まで綺麗にしてくれればいいのに」

「どうせなら、いっそのこと…全部無かったことになればいいのに」

 そこまで言った彼女は、しばらく空を仰いでから涙なのか、雨なのか解らないけれど顔を拭いて僕を見て笑った。

「昨日さ、彼に大事な話があるって言われたことを、職場で話したんだ。そしたらみんな『プロポーズじゃない?』って喜んでくれてさ…、こんなんじゃ来週、会社行けないよね」

 苦笑いをしてそう零してから、彼女は空に向かって叫んだ。

「真也のバカ野郎ーっ!!」

 雨はもう降っているのかどうかも解らないほど弱くなり、ほど近くの雲間から月が顔を覗かせた。

「私は、あんたのことが大好きだったのにーっ!!」

 自分達の周りから明るくなっていく。その光が徐々に広がっていく。

「あーっ!見て見てーっ!」

「ほら!ほーら!あそこ!」

 彼女は急に飛び跳ねるようにはしゃいでいる。僕は自分の顔を一度だけ手で拭いて、彼女が指差す方向を見上げた。

「ほら!満月!」




≪第二雨へ
第四雨へ≫

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