POSITISM

適度に適当に。

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晴色パラソル - 第一雨 -


ハコニワノベル

 君と初めて出会ったのは、朝から雨の降る日だった。

 雨の日は通りを歩く人たちもみんな俯いていて、透明のビニール傘や黒い折り畳み傘ばかりが並んで見える。雨が振っている日の朝はそれが普通のことだった。僕は自分の部屋の中から、家の目の前の通りを行き交う人たちを毎日見ていた。
 その通りは緩やかな坂道になっていて、下ったところに駅がある。十分もかからないぐらいの距離だ。逆にほんの少し上っていくと国道二号線に辿り着く。その交差点は小高い丘のようになっていて、天気が良い日は山の向こうに海が見えたりもする。
 あの日も朝から雨が降っていて、透明のビニール傘、黒い折りたたみ傘、たまに黄色やピンクの傘が通り過ぎていくのをずっと見ていた。ただ、いつも通りの雨の日だったのはここまでで、僕はその透明や黒、時々黄色やピンクの中に、ぽっかりと浮かぶ空を見つけた。その空はゆっくりと近付くと僕の家の前で止まったんだ。僕は思わず家を飛び出してそのぽっかり浮かぶ空を見ていた。

 - 第一雨 -

 僕の部屋から見える通りは、朝と夕方から夜にかけてが一番人通りが多い。きっと誰もが会社や学校へ行ったり、帰ってきたりするのに下ったところにある駅で電車を利用しているからだろう。それ以外のときは静かなもので、たまにおじいさんやおばあさん、ベビーカーを押すお母さんと野良猫が歩いているぐらいだ。
 僕は毎日この通りを眺めている。他にすることが見付からないのだから、毎日毎日ただ眺めている。日差しが強い日は部屋の奥から通りを眺めているけれど、雨の日は行き交う人たちの傘がまるで花のように見えるから、部屋から出てその傘を眺めている。僕は傘を持っていないから、いつも雨に濡れながら行き交う人の咲かせる傘を眺めていた。誰も俯いて歩いているからなのか、僕に気が付く様子が無かった。もしかしたら見えているのに、見えていないフリをしているのかもしれない。別に気にはならない。それが普通のことだったから。
 僕は家を飛び出してそのぽっかりと浮かんだ空を見ていた。その空が傘だと気が付いたのは、その傘が随分と長い間目の前に止まってからで、僕はそれまで本当に空が近付いてきているんだと思っていた。
 その傘の持ち主は立ち止まったままだった。女の人。真っ直ぐな長い髪の毛。その髪の毛の奥にパチリと開く大きな目。それから笑顔。気が付くとその人は傘を差し出して僕を傘の中に入れてくれていた。誰にも気付かれなかった僕を、見て見ぬフリされていたであろう僕を、ぽっかりと浮かぶ空のような傘の中に入れてくれた。

「雨だね」

 傘に落ちる雨粒の音をすり抜けるように、僕に届いた綺麗な声。その声は続けた。

「君は何してるの?」

「傘を見てるだけさ」

 そう答えた。彼女はしばらくしてから微笑むと、じゃぁねと言って手を振った。雨の日の朝、たった数分の出来事だった。
 その翌日から僕は、通りを行き交う人を眺めるだけじゃなく、彼女を探すようになっていた。晴れの日は彼女の笑顔を探し、雨の日はあのぽっかり浮かぶ空のような傘を探した。彼女は朝にこの通りを下って行く。夕方、ちょうど夕焼けが一番赤いときに上ってくることが多い。その時間が来ると何度と無く通りを眺めるようになっていた。
 ある土曜日。雷雨になった。人通りはほとんどなくて、僕は家から出て雨に打たれていた。雨雲を横切るように稲光が見え、しばらくしてからゴロゴロと音を鳴らしている。それに合わせるように歌を歌った。別に誰もいないから聴かれる心配はない。雷と雨音に合わせて声を出す。調子にのってどんどん大声で歌っていた。そのときだった。

「へぇ、歌を、歌うんだね」

 突然雨が遮られた。少しだけ見上げるとぽっかりと浮かぶ空──のような傘。そして彼女の笑顔がそこにあった。彼女は時々鳴り響く雷に目を大きくしながら話し始めた。

「君は雨に打たれるのが好きなの?」

「これさ、気持ちいいんだよ」

「私はね、雷が好きなんだ。ほら、見てても綺麗じゃない?だから好きなの」

「変なものが好きなんだね」

「雨も好きだなぁ」

「へぇ、僕もだよ」

「雨ってさ、なんでも綺麗に洗ってくれるみたいじゃない?」

「それ、僕が思ってることと同じだ」

「それにさ、この傘。いいでしょ?」

 そう言いながら彼女は二回その傘をクルクルと回した。

「とてもいいと思うよ。その傘」

 そう言うと彼女は嬉しそうに笑っていた。
 雨が次第に強くなって、彼女は軽く手を振ってから帰って行った。僕はその背中が見えなくなるまでずっと歌を歌っていた。




第二雨へ≫

COMMENT

もう始まってたんですね!
今回はどんな感じの物語になるのか楽しみ~♪

仕事早いよ、しのめんさん。。


なんか今回は不思議系キャラだー
空色の傘だったら、雨の日も少し楽しそう

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