POSITISM

適度に適当に。

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ある、サクラの季節 - 09:ギターヒーロー -


ハコニワノベル

 俺は何を伝えたい?俺は何を届けたい?このギターで何を叫びたいんだ?
 子供の頃にテレビで見たミュージシャン、そこで演奏されるギターに衝撃を受けた。それはもうショックだった。こんなものが世の中にあるのかと電撃が走ったようだった。それから毎月の小遣いや正月のお年玉を必死に貯めて俺はギターを買った。中学に上がるとオリジナルの曲でストリートライブを毎日していた。ライブといってもファンなどいないし、誰も立ち止まって聴いてくれることも無かった。
 三年間、ほぼ毎日夜になると商店街の片隅でギターをかき鳴らす。聴いてくれる人もいないのに声を出した。誰も聴かなくても構わないと、ずっと思ってやってきた。けれど、それも今日で終わりにすることを決めた。
 身の程を知った。三年間でただの一人も立ち止まらせることが出来ない歌なんて、歌い続ける意味はない。明日は高校の入学式というのもあり、丁度いい機会だと自分を納得させる。

「今日が俺のストリート最期の日だ」

 ギターケースを担いで大通りを歩く。飲食店には多くの客が楽しそうに食事をし、大通りにもまだまだ行き交う人が多い。信号で立ち止まり、しばらくすると赤信号が青信号に変わる。ギターケースを担ぎなおして、いつものように商店街へと入った。閉じられているシャッターを横目に見ながら、この三年間ほぼ毎日を過ごした場所へ腰を下ろす。ギターケースを開き、相棒を取り出して音を確かめる。目の前を行き交う人、人、人。
 ギターをかき鳴らす。


  可愛い 君のこと ただ見つめてるだけなのに
  気付いた 君と 目が合うのを恐れてる

  臆病な 僕のこと 君は知らないはずなのに
  目が合った 僕を 優しく微笑んでくれる

  何気ない仕草も全部 僕を酔わせていく
  だけど踏み込めないよ 想いを告げるアクセル
  だって 君との関係を 壊すのが 怖いから

  だけど!

  止まらない 止められない 君への想い
  そう信じて 信じ抜いて 君へ告げたい
  唸れ Invincible Heart!!


 目の前を行き交う人はチラっとだけこちらを見るばかりで、誰もが足早に過ぎ去っていく。だけど気にしない。三年間で書き溜めたスコアをパラパラと捲ってから手を止める。そしてまた、ギターをかき鳴らす。


  この声が 聞こえてますか
  遠い 遠い あなたへ
  この想いが 届きますか
  届かぬ 届かぬ 君へ

  どんなに叫んでも あなたには聞こえない
  どんなに想っても 君には届かない

  何を伝えたくて 伝えられなくて
  何を届けたくて 届けられなくても
  歌い続けたい

  この声が 聞こえてますか
  遠い 遠い あなたへ
  この想いが 届きますか
  届かぬ 届かぬ 君へ

  この声を 聞かせたいよ
  遠い 遠い あなたへ
  この想いを 届けたいのに
  届けられぬ 遠い 君

  いつの日か 聞いてくれ
  今は 遠い あなたよ
  この想いを 声に乗せて
  届け 届け 君へ


 昼間は学校に行き、授業中に閃いたフレーズをノートに書き写す。家に帰りそれを曲にし、夜はここで出来上がっている曲を歌う。三年間この繰り返しだ。誰も足を止めずに過ぎ去っていくのも、三年前も今も変わらない。ストリートで歌う最期の日も今までと変わらずに過ぎていく。気が付けば商店街の外はすっかり日が落ち、目の前を行き交う人もほとんどいなくなった。ペットボトルの水を飲む。少しだけ喉にしみる。

「誰にも届かない…か……」

 零れ落ちる独り言もむなしいだけだった。春だというのに夜は肌寒い。何も考えずにギターをかき鳴らし、声を張り上げる。ほとんと人もいないのに、何をしているんだと自問自答をしていた。目の前を二人乗りの自転車が通り過ぎていった。
 例え誰も立ち止まらなくても、誰にも届いていなくても、今日は自分が納得するまで歌い続けてやる。そう決めて、一番最初に作ったスコアを眺めると、三年前を思い出した。
 音楽で何かを救える気がしていた。世界を救うことは無理でもこの声が届く人ならきっと救えるだろうと、あの頃は信じていた。だから毎日ここで歌を歌ってこれた。
 いつの間にか歌うことの意味を見失っていたことに気が付いた。いつからか自分が救われたくて歌っていた。目を閉じて三年前を思い出す。

(何のために歌を歌うんだ?)

(世界を救うため?)

(いや…違う……)

(この声が届く人を救いたいからだ!)


 前を見る。誰もいない商店街はシンと静まり返っていた。今ここに誰もいないのなら、目を閉じて心の中にいる誰かに聴いてもらうつもりで、またギターをかき鳴らす。


  子供の頃 早く大人になりたいと
  何も考えずに言えたけれど

  この頃 大人になりたくないと
  毎日何度も呟いている

  だけど時間は 勝手に進み
  気が付けば 僕も 大人に近付いていく

  Youth Return
  なにもかもを奪わないでよ

  Youth Return
  僕の自由を決め付けないでくれ

  ほら また今日が過ぎていく
  明日がやってくる


 遠くからヒールの足音が聞こえる。その音は少しずつ近付いているように感じた。その足音の主に向けて目を閉じたまま、気持ちを、魂を込めて歌う。


  子供の頃 大きな夢だって
  何も考えずに言えたけれど

  この頃 叶えられそうなことばかり
  毎日何度も呟いている

  だけど時間は 勝手に進み
  気が付けば それも 叶えられずに過ぎていく

  Youth Return
  なにもかもを奪うのは僕だ

  Youth Return
  僕が僕を望むように変えよう

  ほら 顔を上げて進もう
  明日がやってくる

  君にも 僕にも 明日はやってくる


 歌い終わって目を開けると、そこに一人の女性がいた。まっすぐに俺を見つめている。高いヒール、ピンク色のドレス、それから白いカーディガン。そこら辺の大人なお店のお姉さんだろう。初めて誰かに立ち止まってもらったことに気が付いて、深く頭を下げた。すると、そのお姉さんは手にしていた千円札をギターケースに入れると、どこかへ走り去ってしまった。その後姿を勝手に視線が追いかけて、お姉さんが見えなくなっても、しばらくそのまま立ち尽くしていた。
 なぜかそこから歌うことが出来なくなり、ギターケースに入れられた千円札を大切にしまってから、ファーストフード店に入った。
 安いハンバーガーを口に放り入れながら、初めて立ち止まってくれたあの女の人を思い出していた。今日がストリート最期の日だと決めていた。それは自分の歌が誰にも届かないからだ。でも、最期と決めた今日、やっと自分の過ちに気が付いた。誰も聴いてない、誰にも届かないと決め付けていたのは自分自身だった。聴いて欲しい、届けたいと心底思いながら歌うことを思い出した。そしてそれは、初めて人に届いた。なぜか目頭が熱くなった。
 乱暴にハンバーガーを詰め込んで店を出た。家に帰ると涙が溢れた。自分の声が届いて嬉しかったのと、今まで不甲斐ない歌を歌っていた悔しさが入り混じった涙だった。三年間でたったの一人。それでも嬉しかった。何度も何度もあの女の人の顔を思い出していた。

「どことなく幼く見えたけど、綺麗な人だったなぁ。また会えるかな」

 気が付けば明日からもストリートに出ると決めていた。きちんと歌いたい。それからまたあの人へ届けたい。もう一度、あの人に会いたい。その思いしかなかった。
 目を閉じるとまぶたの裏にあの高いヒールと、ピンク色のドレス、白のカーディガン、それからどこか幼さを残した綺麗な顔が浮かび上がっていた。
 その翌日、あまり眠れないままに、高校の入学式は始まった。



   ※



「瀬川透」

「はいっ」



   ※



 入学式は終わったものの、頭の中は夜になったらストリートでギターを鳴らすことばかりを考えていた。あの女の人を思い出して少しニヤついた。すると前の方で「どーしたのー?にやにやしちゃってー」という声が聞こえ、焦って視線をそちらに向けると生徒会長選挙のポスターを見てる女子二人がいた。どうやらこちらの話ではないらしい。胸を撫で下ろすのと同時に、その話題となっていたスターを眺めてから教室へと入った。
 廊下側から二列目の一番後ろの席に腰を下ろす。とにかく早く夜にならないかと、そればかりを考えていた。徐々に集まるクラスメイトには興味が無かった。右斜め前で女子一人と男子二人が「運命の赤い糸」がどうとか話をしている。しばらくすると右隣の席に着いた見た感じにも軽くてチャラチャラしてる男が、右斜め前の話に割って入った。
 頬杖を付いて、とにかく時が経つのを待った。左隣の女子がこちらをしばらく見てから、窓際の一番後ろに移動していく。頬杖を付いたまま視線を前に移した。教室の一番前を歩いている女子に目が留まった。どことなく浮世離れた雰囲気があったからだ。その女子は一旦窓際の一番後ろに視線を投げてから、窓際の一番前の席に着いた。

(早く夜にならないかな…)

 そう思ってから再度窓際の一番前に視線を移すと、浮世離れた雰囲気の女子と目が合った。その女子は目を丸くしてこちらを見ている。しばらく見つめられて気が付いた。昨日の女の人だ。三年間でたった一人、自分の歌が届いた人が自分の視線の先に居る。

(き、昨日の…?)

 頭が真っ白になっていく。同い年だとして今年十六歳になるだろう彼女が、なぜあのヒールを履いて、ドレスを着ていたのだろうか。睡眠不足と視線の先にいる女子と目が合って思考回路が鈍っている。右斜め前で話していた話題が脳裏に蘇った。

(運命の…赤い糸……)

 もう一度、彼女を見て気が付いた。初めてギターに出会ったときと同じように電撃が走っていた。──それは鮮やか過ぎる一目惚れだった。




≪08:弦楽三重奏へ
10:ミッション開始へ≫

COMMENT

ステキなストリートミュージシャンが同じクラスだなんて!

「ああ・・・ぁぁあああ・・・」

夕陽が斜めに差し込む放課後の教室でクチビルを塞がれる予感に身体のクネクネが止まらないわぁ。

すごー!あちこちでリンクしてるんだ。

しかし、今回の恋模様も甘酸っぱいですなー(トオイメ
甘いよー。甘過ぎるよしのめんさぁぁぁぁぁぁん。

一人みく子(笑)

小説の裏側みたいですよね。
本当は主人公以外も動いてるはずなのに見えないだけで。
伏線を隠さない物語。

透=とおちゃん?




こういうオムニバス形式なのって、

活字が苦手な僕も読みやすくていいなあw

最後、各話がどう繋がるのか楽しみっすw

(→▽←) きゃ~!
夜の蝶とギターヒーローはやっぱりひと目惚れ同士だったのね(〃∇〃)

このクラス、ちょー楽しい♪




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