POSITISM

適度に適当に。

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世界の終わりを変えるモノ - 第二十六話 -


ハコニワノベル

 目の前でソルの背中にもたれかかるようになる黒い剣士。
 駆け寄って景子ちゃんを抱きしめようとすると、既に力なくその腕はぶら下がったまま動かない。剣の柄を握り締めたままのソルは、呆然と立ち尽くしていた。その剣を奪うように一気に引き抜くと、剣士は無造作に倒れた。

「そんな、なんで……」

 引き抜いた剣の刀身は血で赤く染まっている。まるでもともと刀身すべてがルビーで出来ているみたいに思えた。

「おぉ、それぞ、まさしく、ラグナロク。その剣を、私に、命の旋盤に、突き立てよ」

 ヴォルドという人は、そう言ってから羽織っていた上着を破り捨てた。その腹に世界樹の枝が縦に突き刺さっている。

「タンクル……剣を」

 ソルはそう言うと赤く染まった剣を持ち、ヴォルドに向かって突き立てた。剣はヴォルドの身体に深く突き刺さる。

「これが、私の、最後の、仕事に、なる」

 そう言うと、ヴォルドは枝が突き刺さっている腹に、深く指を差し込んだ。その腹が木の軋む音を鳴らすと、突き刺さった世界樹の枝が高速回転を始める。どうやらそれは、ヴォルド自身が自分の身体に埋め込んだ機械のようだ。木とドワーフが同化しているのではなく、その木を加工するためだけに自らを改造し、その身体に根や枝を突き刺して、長い年月をここで待っていたのだろう。
 突き立てられた赤い剣が、ヴォルドに徐々に深く埋まり込みながら世界樹を削っていく。その振動で世界樹の葉に溜まっていた雫が、ソルとシュバルツァに降り注いだ。
 しばらくして、命の旋盤の動きが止まった。ただしそれは、ヴォルドの命の終わりを意味していたらしく、ヴォルドは安らかな顔をしたまま息絶えていた。世界樹の枝は、つなぎ目なく削りだされている。

「これが、グングニル……。ヴォルドよ、そしてシュバルツァよ。そなた達の命は無駄にはせん! 行くぞ、タンクル!」

「……」

 息絶えた剣士を世界樹に寄りかかるように座らせ立ち上がる。言うべき言葉が見付からなかった。
 現実世界から本の世界に来たことを、最初は嬉しく感じていた。しかし、今は恐怖や後悔とも違う、言いようのない気分になっている。ソルは一直線にガロムガンドへと駆け出していた。

(残されてばかりだな……)

 一瞬そう考えてから頭を強く振り、もう何も考えなくて済むように、前を走るソルの背中をだけを追いかけて進んだ。


 ──神の国、大いなる大地。


 遠目に見たガロムガンドは退屈に見えた。戦うべき相手もいないし、既にほぼ全ての地上はカオスで満たされているからだろう。沈みかけの太陽と、上りかけの月を眺めながら大きく舌なめずりをしているようにも見えた。
 あまり深く考えていなかった。物語が終わりを迎えれば元の世界に戻れるような気がしていた。予想していた物語の終わりは、全員が助かるというハッピーエンドだった。だけど、現時点でシュバルツァ、いや景子ちゃんは──。
 今はいろんなことを考えることが出来そうにない。「とにかくガロムガンドを倒そう」それだけを考えて一直線にガロムガンドへ向かっていく。夥しい数のカオスが襲い掛かってくる度に、ソルの槍と自分の魔法の弓で蹴散らしていく。ただただ無心で進んでいく。自分が何のために戦っているのかすら解らなくなったころ、とうとうガロムガンドが間近に見るところまで来ていた。
 ガロムガンドに残された二匹の蛇が、こちらを確認すると容赦なく襲い掛かってくる。ソルは素早くグングニルをその一匹に突き刺した。──しかし、蛇はグングニルを乱暴に振り落とすと、何事も無かったように攻撃体制を整える。落ちたグングニルを避けるようにカオス達が逃げ惑った。

「ガロムガンドはグングニルによって、貫かれるのではないのか! ?」

 急に、それまでソルに向けられていた二匹の蛇の視線がこちらを向いた。次の瞬間、二匹の蛇が襲い掛かってきた。左手をかざし、右手の指輪に力を込める。赤と緑と青が混ざり合っていく。

「輝き射れ! 白き光の矢! リュミエールヴァイス!」

 放たれた白き矢は、一匹の蛇に命中し、蛇はしばらく悶絶してから動かなくなった。すかさず二匹目が襲い掛かってくる。再び左手をかざし、右手の指輪に力を込める──と、そこで三つの指輪が呆気なく崩れた。

「そんな、ここまでかよ……」

 蛇の大きな口が迫る。飲み込まれたと半ば諦めて目を閉じたものの、とくになにも起こらなかった。恐る恐る目を開けると、襲いかかってきた蛇の口の中に、ソルが飛び込んで両手両足で蛇の口を押さえていた。

「タンクル、グングニルを! きっと、魔力のあるあなたなら、グングニルを使いこなせるはず!」

「わ、解った! 解ったから、早くそこから逃げろ!」

「気にするな、世界を救えるなら、この命、いつでも捧げられる!」

「……」

「何をしてるタンクル! 急げ!」

「いい加減にしろ! 俺は、……何度、何度残されればいいんだよ!」

「……」

「言ってたよな……、『残す側の気持ちが解る? 残された者達へ、どうして欲しいと思っているのか』って。そんなもん、解ってたまるか! ……そっちこそ、残された側の気持ちは解るのかよ!」

「……」

「なんとか言えよ!」

「……」

「なんとか言えよ……」

「……」

「なんとか言えよ! ……由香里!」

 急に世界は色を失い、襲い来る蛇も、ひしめき合うカオスもスローモーションになっていく。

「……バレてたんや」

 蛇の口の中で背中を向けたまま、ソル──、いや由香里は続けた。

「あんたさー、あかんで? 気付いたとしても最後まで演じ切らな。あと話すときの言葉遣いもちゃんと役に合わせなあかんよ。そういう中途半端は一番やったらあかんねんで?」

「……この状況で説教かよ。相変わらずだな」

「アホ、今めっちゃ必死やで? ちょっとでも力抜いたら食べられてまうわ」

「……なんでここに由香里がいるんだよ?」

「えー、説明するんしんどいわー」

「いや、しろよそこは」

「んーとなー、ここはなんて言うんやろな、夢を見てるのと同じような場所やねん。想いが具現化してる世界。だからあたしも入れるんよ。まぁ、ほんとは三人がここに入ってくるみたいやってんけど、その一人と交代してもらってん。容姿があたしだとすぐバレるから、容姿だけその子のを借りて」

「つまり奪ったわけね」

「ちゃうわ人聞きの悪い! 譲ってもらったんよ。……まぁ、相手に了承得てないけどな。でも、いやー、まいったわー。ラグナロク作るところで、あたしの出番は終わりにするつもりやってんで? 朋章と少しでも一緒にいられたから十分やと思ったし。だけど、ほら、あの子がさー、まさか自分を刺すなんて思いもせんかったわ」

「それは僕だって驚いてる。だけど、本のタイトルに合わせた選択って考えれば……」

「どアホ! 朋章、あんたまったく変わってへんねんな。全然解ってないわ」

「なにがだよ!」

「あの子がなんで、自分を刺したと思っとんの?」

「いや、だからこの物語のタイトルに合わせた……」

「あんたのこと好きやからに決まってるやんか!」

「……は?」

「あんた、すぐに目を逸らす情けない男のままやん。ええかげんに目を逸らすのやめーや!」

「それとこれは関係な……」

「あの子、死ぬ間際にあたしが誰なのか解ってたで? それでも自分を刺した。それは朋章の為に選択したんやろ! あの子が朋章とあたしを残してくれたのは、なんでやと思ってんの?」

「……」

「ほんまに解ってへんのか……、どアホにもほどがあるわ。もおええ。ほな、ぼちぼち、物語に戻るで?」

「……ちょっと待てって」

「なんやのん? スローモーション中でも大変やねんで、この蛇の口押さえ続けるんわ」

 大きく深呼吸をする。
 本の世界に入ってから声が出せるようになっていた。それでも、きちんと声を出すことを意識して深呼吸をした。
 それから視線を由香里から離さないようにして、口を開く。

「……僕は、由香里のことが好きだった。大好きだった。あの時、言えなくてごめん。あの時、僕がちゃんと言えてたら……」

「……アホか。ちゃんと気持ち伝えられとったら、あたし嬉しくて交差点に飛び出してるわ。きっと同じ運命やってん……、だから気にせんでええよ。でも、それでもな、ちゃんと言うてくれて、ありがとう。……あぁーあー、ほんまは気付かれずにこっそり楽しもうと思ってたんやけどなぁ」

「……」

「それに、好きだったーとか過去形やしぃ。もうあたしは現在進行形にはなられへんのが悔しいわぁ。……せやけど、朋章が幸せならそれでええわ。ほんま、それだけでええわ。あの子にお礼言わなあかんね。あたしからは言われへんから伝えといて『しゃーないから譲ったる』って」

「由香里……」

「どうせ朋章は鈍感やから、まだ自分の気持ちにも気付いてへんねやろ? でも今度は恥ずかしがらんと、ちゃんと自分の口で言うねんで? 自分の気持ちは自分で伝えなあかんよ?」

 そこまで言うと、由香里はゆっくり振り返った。穏やかな笑顔に涙が伝っている。

「めっちゃ、楽しかった。また会えて嬉しかったわ……」

「……由香里?」

「朋章、じゃぁね」

 瞬間、世界に色が戻り、蛇の口が乱暴に閉じた。

「由香里ーっ!」

 それと同時にガロムガンドは沈みかけの太陽を飲み込んだ。
 ──世界は影に覆われる。

 更に襲い来る蛇の攻撃を無意識にかわしながら、転がっていたグングニルを手にして走る。
 ──いつの間にか出ていた雲が晴れ、まだ輝きを失っていない丸い月が昇っていく。

 何も考えないままに、口が勝手に詠唱を始める。

「月の姫、タンクル・マールの力をもって!」

 手にしているグングニルが淡く光ったかと思うと、ただの木だったその槍は瞬く間にギヤマンの輝きを放ち始め、穂先にはルーン文字が浮かび上がった。その光に蛇は苦しみもがいて襲い掛かってこれなくなった。手にしたグングニルに、自分の持てる全ての力を込めるて叫ぶ。

「貫け! グングニル! !」

 手から放れたグングニルはまるで意思を持っているかのように飛び、ガロムガンドの心臓部分に突き刺さる。更にそのままガロムガンドを浮かび上がらせ、高く高く舞い上がっていく。



 ──そのままグングニルは、ガロムガンドもろとも月に突き刺さった。



 断末魔を上げながらガロムガンドは絶命した。
 それと同時にタンクルの胸に何かが突き刺さるような衝撃が走り、タンクルはズルリとその場に倒れこんだ。




≪第二十五話へ
最終話へ≫

COMMENT

涙が(笑)

家で読み返してここで涙腺崩壊orz
  • 2008.03.29[土]

うう…切ない…。

切な過ぎるよ…。なんでケイは…それに由香理に再会できたのに…(←物語の世界に入り過ぎ。

旋盤キターーーー
すみません...

そこでゆかりんかぁ。
ヒドいなぁしのめんさんは。
愛する女性を2度も死なせるなんて。
しかも好意を抱いてる子まで。
罪だね罪。
ウルウル(T_T)

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