POSITISM

適度に適当に。

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世界の終わりを変えるモノ - 第二十一話 -


ハコニワノベル

 誰にも話したことがない。いや、声を失ってから話すこと自体が出来ないのだから、誰にも話せはしないのだけれど。それでも筆談や、メールでさえ、誰にも教えたことがない。
 実は自分の両親にさえ、声を失ったことすら伝えてはいない。あの日から僕は様々なものと極端に距離を取るようになった。僕はずっと独りで由香里という存在を抱きながら、現実でも夢でもない中間地点で、ぶつぶつと孤独を悲しみながら生きてきた。それはきっと、由香里が望んでいたことと正反対のことだろう。
 濡れた頬をジャケットの袖で拭く。それから僕は図書館へと戻った。
 窓際のいつもの席に座ると、さっきまで近くで見ていた木が妙に大きく感じた。特にすることもなく、ただその木を見続けていた。

「あ、あの……」

 顔を上げると、二人の女の子が立っていた。自分の周りには他に誰もいない。一人はあの本の子。もう一人は──、あの喫茶店のウェイトレスの子だ。

「これ、あんたのパーカー?」

 ウェイトレスの子がいきなり紙袋を突き出して聞いてきた。「ちょ、ちょっと、ひなちゃん!」と本の子に言われているが、お構いなさそうだ。紙袋を覗き込むと、間違いなく僕のパーカーだった。とすると、このウェイトレスの子が昨日、あいつらに──。そうか、思い出した。あいつらは、昨日の昼間にこのウェイトレスの子をナンパしようとして、腕を捻られていた二人組みじゃないか。
 ウェイトレスの子は瞳を輝かせながら「ねぇ、あなたのなの? あなたが私の王子様?」とかなんとか言っている。本の子は隣で顔を赤くしたり青くしたりしながらうろたえている。

(そうだよ……)

 聞こえない言葉の代わりに、大きく頷いた。

「やっぱりー! いやー! ほんとさー昨日はサンキューね! 助かったよー! 人生の大ピンチだったからさ! いや、ほんと」

 図書館中にウェイトレスの子の声が響いた。周りからの大注目を浴びたまま、本の子と目を合わせてから「なに? どうかした」というウェイトレスの子を引き摺るようにして、三人で図書館を出た。近くで目に付いたファミレスに入る。それでもウェイトレスの子は止まらなかった。

「ほんと、マジでもうダメかと思ったよ。あんたがさー、って名前なんて言うの?」

「も、もう! ひなちゃん、順番が滅茶苦茶だよ……ぅ」

「まー細かい話は抜きでさ。私は日向。春野日向。日向とか好きに呼んで。んで、こっちが景子、私はケイって呼んでる。それで、あんたは?」

 完全にこの空間を支配されているような気分になった。僕は多少怯えながら、メモ帳に『朋章(ともあき)』と書いて、それを見せた。

「へぇー、朋章っていうのか。てかなんで書くわけ? ここ、図書館じゃないから声出しても大丈夫だって!」

 と言いながら、ウェイトレスの──、日向という子は笑っている。隣りに座っている本の──、景子という子は伺うようにこちらをしばらく見てから、何かを察したような顔になった。

「ひ、ひなちゃん待って。ねぇ、ちょ、ちょっと……」

「んー? どうしたケイ? メニュー見るの?」

「ち、違うよ。と、とと、朋章さんって、もしかして……」

 もう一度伺うように上目遣いで見つめられた。この状況で隠せるわけが無い。いや、別にもう隠すつもりなんてない。『僕は声が出せない』とメモ帳に書いて、それをまた二人に見せた。

「え、冗談じゃなくて?」

 日向という子が聞いてくるので、大きく頷く。「だから、待ってって言ったのにぃ……」と景子という子は両手で顔を隠してから「すみません」と何度も頭を下げてきた。

「いやー、あんたもさー、そういうこと早く言ってよ! 私、てっきり超恥ずかしがり屋なのかと思っちゃったじゃん」

「だ、だからひなちゃん! 言わなかったんじゃなくて……、だからその、言えないんだよ!」

「……あーそうか! なるほど!」

「んもぉ、ひなちゃんのバカ!」

 この二人を見ていると、和やかな気持ちになった。しゃべれないことを気味悪がったり、面白がる人には出会ったことがあるけれど、拒絶したりせずに真正面から受け止めてくる人には初めて会った。それから昨日のことの感謝を何度も何度もされ、年齢や血液型に始まり、ありとあらゆることを質問攻めされた。それを必死にメモ帳に書いて、見せて、書いて、見せてを繰り返す。年齢が二十五だということを教えると、途中から敬語に換わったのが可笑しかった。
 そして、やっと質問攻めから解放された頃、日向という子がほんの少し躊躇してから聞いてきた。

「えっと、これ聞いちゃったらマズいならスルーでいいんだけどさ……」

「ちょっと! ? ひなちゃん……! ?」

「朋章さんって、なんで声出なくなったの? 生まれつき?」

「ご、ごめんなさい! ほ、ほらっ! ひなちゃんもちゃんと謝って!!」

 景子という子が慌てていたので、それを片手で落ち着かせる。今まで誰にも話したことなんて無いけれど、話すべきなんじゃないかと思った。今まで、それを誰かに話すことで、同情されたりするのが嫌だった。だけど今はそうじゃない。他人に話して何を言われたり、思われたとしても、その全てを受け入れて前を向ける気がする。



   ◆



「あたしはな、死んでしまったあたしのこと、忘れないでいてほしい」

(へぇ)

「けどな、あたしのこと忘れられへんのは、まぁ、当然やけど。それを引き摺ってほしくはないんよ」

(引き摺る?)

「要するに新しい恋が出来へんとか、落ち込み過ぎて普段の生活もままならなくなってまうのは、嫌やねん」

(んー、忘れずにいて、なおかつポジティブに生きて欲しいってこと?)

「そりゃ、他の女と付き合われるのはしゃくやけど、その人の一生が幸せに過ごせるなら、やっぱりそっちのほうがええやん」



   ◆



 現実から逃げたり、それを隠したりするのはもう辞めよう。由香里を一生忘れられないのなら、一生覚えて生きてやる。

(僕は、僕に起こった全てを受け入れて生きていこう)

 しばらく目を閉じて考えてから、僕はメモ帳を取り出してペンを走らせた。

『君の持ってるあの本を貸してくれるなら、全部話しても良いよ』

 それを見た景子という子は、自分のバッグからゴソゴソと本を出して「これですか?」と聞いてきた。──「太陽と月の姫」という物語だったのか。まるで目の前にその太陽と月の姫がいるような気持ちになった。
 『そう、それ。貸してくれる?』と書いたメモを見せると、なぜか日向という子が「もちろん!」と言っていた。景子という子はその声に遅れて「……いいですよ」と言いながら頷いた。『ありがとう』と書いたメモ帳を見せてから、新しいページを開く。そしてペンを走らせた。



 ──1ページ書いてちぎって二人に渡す。
 ──それを二人が読む。
 ──また1ページ書いてちぎって二人に渡す。
 ──またそれを二人が読む。



 書いている最中に涙が溢れた。でもそれを気にすることなく必死にペンを走らせた。それを読む二人も途中から何も言わなくなり、先に日向という子が泣き出して、しばらくしてから景子という子も泣いていた。



 ──1ページ書いてちぎって二人に渡す。
 ──それを二人が読む。
 ──また1ページ書いてちぎって二人に渡す。
 ──またそれを二人が読む。



 それから僕は、僕と由香里のことを、まるで物語のように書き続けた。




≪第二十話へ
第二十二話へ≫

COMMENT

今パソがやっとガキンチョ達から開放されたので、やっとこ読む事ができたのだけど。。。

朋くんはやっと自分を解放してあげる事ができるんでしょうか。。

なんか身近に亡くなった人を忘れられずにいる人を見てるので、身につまされてしまって、涙が溢れてしまいました。

死んだ人には叶わないかもしれないけど、朋くんにはもっと楽に生きてほしいと、感情移入してしまいました。

てか、しのめんさんて、仕事中にどうやってこんなお話を書いてるのか、ほんと感心してしまいます。w

ア アイセンサーからオイルが…。
  • 2008.03.24[月]

一番忙しい月曜の朝から、会社で読んで泣きそうに><。(コラコラ

やっと自分を解放する気になれたのかなぁ。。

朋くん…エライ(´;ω;`)

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