POSITISM

適度に適当に。

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世界の終わりを変えるモノ - 第十三話 -


ハコニワノベル

 目が覚めると布団もかけずに眠っていた。なんだか由香里の夢を見た気がした。いつもの些細な会話をしていた気がする。起き上がってシャワーを浴びた。
 日曜日は図書館の開館が遅くて、更に閉館が早い。あの子に、いやあの子が持ってたあの物語に、もう一度会えないかなと、考えながら準備をした。焦げ付いたフライパンを洗うのは帰ってきてからにしよう。
 昨日着てたパーカーを着ようと思い、探し出してしばらくしてから、昨日路地裏にいた女の子に渡してしまったことに気が付いた。仕方なく薄手のジャケットを引っ張り出して袖を通した。「よし」と張り切って玄関を開けると、外は雨が振っている。
 普段、雨が降っていたら図書館には出かけないのだけど、どうしてもあの子の持っていた本に出会いたくて、傘を差して駅へと向かう。日曜だったけれど、雨のだからか人通りは思った以上に少なかった。上半身とカバンは傘で濡れずに済んだものの、駅に到着するころには膝下はずぶ濡れ状態になった。

(雨、か……)



   ◆



「えー! ? 雨降ってんの? サイアクやん」

(一緒に入ってく?)

「えー! ? なんで朋章と同じ傘に入らなあかんの?」

(嫌なら別にいいけどさ)

「なら、あたしが傘、借りてあげるわ。ほな、さいなら」

(えー! ? )



   ◆



 由香里と出会って、まだ間もない頃に傘を奪われたことを思い出した。あのときは濡れて帰ったおかげで、翌日から一週間近く風邪をひいて寝込んだ。寝込んでから三日目か四日目に、由香里がバイト先の店長から無理やり住所を聞きだして、お見舞いに来てくれたことがある。



   ◆



「生きてるかーい?」

(なんとかね……)

「はい、これ差し入れ」

(ちょ、お前さ、風邪ひいてる人にカップラーメンばっかりって変だろ!)

「なんでよ? お湯入れて三分で食べられる。もう、人類が生み出した英知やん!」

(いやいやいや、味濃いし、脂っこいのは食べたくない……)

「……」

(あ、あぁ! えっと、その、ね! うーん、ほら、お見舞いは嬉しいんだよ? 差し入れがさ、もっと消化に良くてあっさりしてたらなぁって。ほんと、それだけだから、ね? 解るかなぁ……?)

「消化に良くてあっさり……」

(そうそうそう、でもね、気にしなくていいから。ほんとお見舞いだけでも嬉しいから。ここ数日間、誰とも会ってないしさ)

「うどんやな?」

(そうそうそう。って、へ? なにが?)

「消化に良くてあっさり……、まさにうどんやな。関西風の!」

(え? は? なにが?)

「任せとき! めっちゃ美味いの、作ったるから!」

 そこから、由香里の関西風うどんが出来上がるまでに丸二日が過ぎる。「あかん、ダシがなってない」とか言いながら由香里は僕の部屋で丸二日間、買い物で外出する以外はずっとうどんを作っていた。ただのうどんでもいいからと食べようとすると「これが関西風やなんて思われたら、あたし関西の土を二度と踏まれへんようになる! だから、絶対にこれは食べさせられへん!」とか言われて食べさせてもらえなかった。仕方なく僕は、差し入れのカップラーメンを食べて過ごしていた。

「出来た……ヤバイわぁ、あたし天才やわ。これが世界最高のおうどんやわ。これ店出せるわぁ。ほら、朋章! 食べてええで! めっちゃ美味いから! ほら! 食べ!」

(どうしよう、もう風邪治ったっぽいんだよね。まぁ、そんなこと言えるはずないんだけど)

「なにモタモタしてんねん、早よこの世界最高のおうどんの香り、味、喉越しに感動してーな」

(喉越し? うどんはスーパーのお徳用五玉冷凍パックのうどんじゃない? ってこれも言えないけどさ)

 由香里の作ったうどんは確かに世界最高だと思えるほど美味しかった。「美味い!」を連発して食べたのは、随分久しぶりのように感じた。

「な? めっちゃ美味いやろ? 関西風が世界最高やで? いや、あたしの作ったこのおうどんが世界最高やわ。あかん、テンション上がりすぎて倒れそうやわ……」

 と言ってから、由香里は本当に倒れた。見事に風邪がうつって、そこから更に丸二日、由香里は僕の部屋で寝込んだ。僕は必死に看病した。おかゆを作って食べさせたり、コンビニで肌着も買ったりした。このときの由香里の風邪が治ってから、由香里はたまに僕の部屋に来るようになった。
 しばらくバイトでお金を貯めてから、大学へ通いやすい場所へと引越しをすることを決めたのだけど。引越しをすると、今のバイト先が遠くなるので、僕はバイトを辞めた。なぜか由香里も同じタイミングでバイトを辞めた。

(なんで、バイト辞めたの?)

「んー、次のバイトがあたしを待ってる気がすんねん」

(なんだよ、それ)

「ほら、あたしの可能性って、まだまだ無限大でしょ? 新しいことに挑戦しなさい! って神様が言ってる気がするのよ」

(へ、へぇー。由香里ってもしかして、宗教の勧誘とかしてる?)

「そんなんするわけないやんか! どうせするなら宗教を開くよ。由香里教」

(絶対入りたくないな……)

「もう、入ってるやん、朋章は」



   ◆



 窓から雨に濡れている下条町の駅名看板を眺める。電車が停まり、しばらくすると扉が開いた。僕はゆっくりと電車を降りた。

 ──「好きな人を残して自分が死んでしまったらさ、朋章は残された人にどうして欲しい?」

 耳の奥で由香里の言った台詞が蘇った。

(僕は、どうして欲しいんだろう……)




≪第十二話へ
第十四話へ≫

COMMENT

僕は、好きな人が幸せになれるのなら
忘れてもらってもかまわない。

本心じゃないけど、悲しいし寂しいけど

それでも好きな人に幸せになって欲しい。
  • 2008.03.17[月]

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