POSITISM

適度に適当に。

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世界の終わりを変えるモノ - 第九話 -


ハコニワノベル

 家に帰ったものの、晩御飯の材料がまったく無かったことに気が付いた。そして渋々買い物をするために再び家を出た。近所にあるスーパーは、たまに訳のわからない金額を設定することがある。今日は鳥のムネ肉が100グラムで20円だった。この近所にこれだけの人が住んでいるのか? と疑うほどの人ごみ、いやおばちゃんの群れを掻き分けて、カゴに1キロぶんの鶏肉を入れることに成功した。

(これ焼いて、あとご飯とインスタントのスープでいいや)

 会計を済ませて商店街を歩く。コロッケの誘惑に負けそうになったけれどなんとか我慢した。その隣にある昔ながらの映画館では、ちょっと前に流行った映画と、ポルノ映画のポスターが同列に並んでいる。立ち食いソバ屋、たばこ屋、洋食屋を通り過ぎて路地に入る。ファミリー向けのマンションが立ち並んでいる先に堂々と聳え立つ、雑誌などに必ず載っている有名なラブホテルを見ながら狭い路地を通り抜け、自分の住むマンションへ辿り着いた。
 間取り2LDKの部屋に入り、手を洗って戦利品である鳥肉を一食分ずつに切り分ける。そのうちの一食分を残して後は全てラップをして冷凍庫に放り込んだ。残しておいた一食分の鶏肉をフライパンで焼く。無駄に綺麗に片付いた、ほとんど生活感の無い自分の部屋に、鶏肉の焼ける音と匂いが広がった。



   ◆



(あのね、一応女の子でしょ?)

「当たり前やん、どっからどう見ても乙女やんか」

(そうかなぁ?)

 部屋は綺麗に片付けておきたい。それなのに由香里が部屋にいると、ものの数分でぐちゃぐちゃにされてしまう。雑誌や本はそこら中に投げ出され、今日着ていただろうと思われる服は玄関から転々と脱ぎ散らかされていた。それをひとつひとつ拾い、痛みやすいものはネットに入れて自分の洗濯物と一緒に洗濯機にかけた。
 僕達は付き合っているのだろうか? 僕が居酒屋のバイトを辞めて引越しをするときに、なぜか一緒に居酒屋のバイトを辞めた由香里。僕の新居からほど近い場所にあるブティックでバイトをするようになると、週に二日から三日は僕の部屋に住み着いていた。どちらとも好きだとは言わないし、バイトが休みの日に特別二人でどこかに出かけるということも無かった。由香里が僕の部屋に来た日は、部屋全体に生活感があふれ出していた。その雰囲気は嫌いじゃなかった。
 洗濯機が水を入れ終わり、ガタゴトと揺れながら回り始めたのを確認してから、僕はシャワーを浴びた。大学も順調に行くなら残り半分。単位も順調に取得しているし、そろそろ就職のことも考え始めないと。そんなことを考えながら髪を洗う。
 ──すぅっと冷たい空気が浴室の中に入り込んだ。
 かと思うと照明が消され、真っ暗になった。

(ちょっと、由香里? イタズラするなよ……)

「お背中、流しましょうか?」

(って、中に入って来てるの?)

「……あかん?」

(いや、いいけどさ)

「……ええの? ほんまに? ……ありがと!」

 背中から抱きついてきた由香里は裸だった。今までそういうことを由香里とはしたことが無かった。好きだけど、いや、好きだからこそ越えたくない一線があった。けれど、その一線は出しっぱなしのシャワーで綺麗に流され消えていく。
 ──シャワーを止めて由香里の方に向き直って抱きしめた。

「ごめんな、我慢できへんかってん」

(……)

「こんなん、卑怯やんな……。でも、でもな」

(ここまでさせた僕も卑怯だ)

「ははは、ならお互い様やね?」

 目が慣れて薄暗い浴室の中で由香里はにっこり微笑んで抱き返してきた。しばらく抱きしめあっていると暗闇に目が慣れて、由香里に盲腸の手術跡があることまで解った。とたんに現実に引き戻された気持ちにる。それから恥ずかしくなって、どちらともなくお互いに離れた。僕は泡も消えてガチガチになった髪の毛を乱暴に流して先に出た。扉を閉めてから照明のスイッチを入れて、そそくさと身体を拭いて部屋に戻った。浴室からは再びシャワーの音が聞こえ始めた。



   ◆



(うわ! 焦げてる!)

 白色から灰色に変わった煙が目の前のフライパンから立ち昇っている。火を消して炭になりそうな鶏肉を無理やりに救出して皿に盛り付けた。ほとんど黒い塊になっている。少しだけかじってみたけれど、それはとても食べられたものじゃ無かった。僕は料理を諦めて外食することにした。
 コートと今日の昼間に着ていた薄手のパーカーで迷って、パーカーを選択したことを少しだけ後悔した。日も落ちてしまって風は肌寒い。
 今日はやけに由香里のことを思い出してしまう。それがなんだか落ち着かない。由香里との思い出がない、自分もまだ入ったことの無い店で晩御飯を食べようと、駅の方へと向かった。しかし大通りに面した店はほとんど入ったことがあるし、駅が近付くにつれてあの交差点が頭を過ぎったので、小さな人通りの無い路地に入った。

「ま、酔いが冷めちゃう前にとっとと始めますかね」

「さっさとヤっちまおうぜ」

 品の無い声が聞こえる。物陰から覗き込むと薄暗くて良くは見えないけれど男が二人いて、女の子が一人いる。女の子が嫌がっているのは解った。そのうち男の一人が女の子を羽交い絞めにして、もう一人が女の子の服を脱がし始めた。女の子が力なく暴れると、履いていた居酒屋か何かのツッカケが地面に転がった。



   ◆



「どうしたん?」

(え? いや、別に……なんでもないよ)

「今日の朋君、へんやなぁ」

(そんなことないって!)

「あぁ、そっか。いつもへんやもんね?」

(いや、だから……その、なんでもないって)

「はっきり言うてくれたらええのに」

(……え?)

「あたしのこと、好きなんやろ?」

(いや、えっと、その……えーっと)

「……もうええわ。ほんま意気地なしやなぁ朋君。ここまで乙女に言わせて、酷い!」

(ご、ごめん)

「べ、別に責めてるわけと違うんやから、謝らんでもええのに」

(あの、ご、ごめ)

「ほらまた謝ってるやん。これほとんどSMやんか。朋君Mやろ?」

(いや、わかんない……)

「ええで、あたしSやからな。たっぷりいぢめてあげんで?」

 そう言ってから由香里は、二度三度と僕の肩を叩いて「あはは」と笑った。
 そして、そのあとでそっと手を繋いできた。

「あたしは、朋章のこと……好きやで。めっちゃ好きや」

(……)

「無理に言わんでええよ? 朋章がほんまにそう思ってくれたときに、朋章の口からちゃんと聞かせてくれたらええから」

(……)

「ほら、もう駅だし……あたし帰るね」

 由香里は手を放して横断歩道を途中まで進むと、くるりと振り返った。

「じゃあね」

 小さく手を振る由香里に合わせて手を振った直後だった。車のヘッドライトが強く由香里を照らしたかと思うと、目の前から由香里が消えて無くなった。耳に残るブレーキ音、目に映る歩行者信号は青く光り続けていた。
 由香里が消えた、いや吹き飛ばされたであろう方向へ恐る恐る視線を移動させていく。止まった車の向こうに由香里の履いていたミュールがぽつんと転がっていた。




≪第八話へ
第十話へ≫

COMMENT

わあぁ もぅ苦しい あー きついわぁー

でもしっかり読んでるですょ。

キーワードきたっっ!

ぢゃなくて><
目の前で大切な人が奪われるのはツライ。。

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