POSITISM適度に適当に。 |
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掘りごたつの個室。淡い照明と他の部屋からの賑やかな声。お酒と料理、それからタバコが入り混じったニオイ。席に着くと改めて自己紹介が始まった。
「えっと、知ってるとは思うけど、俺はレン。ステージの上では蓮火だけど、レンでいいからね」
「はい! 山崎です! ヤマサキではなくてヤマザキです! 身も心も春のパ……」
「私、春野日向。よろしく」
「わっ……えっと、城谷景子です」
「……えーっと、とりあえず飲み物頼もうか。みんな生でいい?」
「私は生でいいけど、ケイはお酒飲めないから。ケイ、ウーロン茶でいい?」
「うん、ありがと」
飲み物が届き、レンとひなちゃんが食べ物をオーダーして、微妙な合コンは始まってしまった。山崎という人はなんとか笑わせようと虎視眈々とタイミングを狙い、会話の合間にネタのようなものを挟んできた。その都度、この個室に沈黙が訪れる。ひなちゃんではないけれど、これはある種闘いのような気がしてきた。
レンは音楽をやっている人で、何度か演奏も聞かせてもらったことがある。ひなちゃんに言わせると「ベースを弾いているときは三割り増しでかっこ良く見える」らしい。なぜか面白い動画編集をしてたり、最近は釣りなんかもしていて趣味や特技が多彩で会話のボキャブラリーも多くて話しやすい。ひなちゃんと馬が合うのか、よく一緒に遊んでいる。
山崎という人は大学で私のことを知ったらしい。「大和なでしこタイプが大好きっス!」とか言ってた。ひなちゃんみたいにいきなり拒絶するような態度が取れないので、頑張って会話を続けてみたけれど「好きな本とかありますか?」に対して「週刊少年ジャンプです!」と返されて、そこから話が続かないので断念した。
どれぐらいの時間、そこにいたのか正確には解らないけれど、ひなちゃんが「ちょっとトイレ~」と若干ふらつきながら個室を出て行った。生の中ジョッキを軽く二桁飲んでたけれど大丈夫かな?
──居酒屋のカウンター席に座る男二人が、飲み散らかしながら会話をしている。
「それにしてもさー、今日のお前面白かったわ。女に腕決められて、『マジ、マジごめん』とか言ってんの」
「ほんとうるせーな、お前。あの後ナンパも全敗だしよー。今日はあの女に会って最悪だったわ……って、お?」
「なんだよ? どうしたよ?」
「ほら、あいつ。あの女だ」
「ほんとだ」
「相当酔っ払ってるな……よし」
「行きますか」
──二人の男がふら付いている女の子の両腕を取って店の外に出て行った。
「遅いなぁ、ひなちゃん。大丈夫かな?」
「あいつ今日ちょっと飲み過ぎてるから時間かかるかもね」
「それよりも、景子さん! 自分、景子さんのことが好きっス!」
「えぇ! ? えっと……」
「ちょ、バカ! 初対面でいきなり告白って、もうちょっと考えろよ。ほら、景子ちゃん困ってるじゃん」
「自分の気持ちに嘘は付けません!」
「……」
「あー、ごめんね景子ちゃん。こいつも相当酔っ払ってるからさ、ちょっとトイレで頭冷やさせてくるね」
軽くわめき散らしている山崎を連れて、レンが部屋を出て行った。空いてるお皿と、グラスを片付けようとしたとき、左手の小指だけに塗っていたオレンジ色のマニキュアが削れて落ちた。ひなちゃんのように明るく優しいオレンジがお皿の角でその色を失っていくようだった。
「なにすんのよ! やめろ、バカ!」
「いいことしようぜ、お姉ちゃん」
「そこの路地の裏に回ろうぜ」
「放せ! やめろ! 人呼ぶぞ!」
「はいはい、酔っ払いは困るわぁ」
周りを歩く人達が苦笑しながらその光景を見ていた。酔っ払った女の子を、男二人で介抱しているようにでも見えるのだろう。抵抗するものの、酔いが深いのとトイレを我慢しているのとで力が入らない。ズルズルと人気のいない路地裏に引きずり込まれていく。
(なんとかレンに連絡しないと……)
ポケットの中を探るけれど携帯電話はテーブルに置いてきたままだ。まともに動けさえすればこんな二人に良いようにはさせないのに。悔しくて下唇を思い切り噛みしめた。
──ゴミ捨て場、ゴミは回収された後なのか何もなかったが、独特の嫌な臭いが立ち込める。そこへ軽く投げ捨てられた。
「なにするんだよ! 警察呼ぶぞ!」
「呼べば?」
「ほら、呼んでみてよ」
「……くっ」
「ま、酔いが冷めちゃう前にとっとと始めますかね」
「さっさとヤっちまおうぜ」
一人が後ろから羽交い絞めにしてくる、もう一人が気色悪い顔で笑いながら服に手をかけてきた。
(ちくしょう、なんでこんな奴らに……)
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