POSITISM

適度に適当に。

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世界の終わりを変えるモノ - 第七話 -


ハコニワノベル

 コンビニに寄ってキシリトールのタブレットを購入した。ガムは噛み続けるとアゴが痛くなるし、そもそもクチャクチャという音がうるさい。飴は携帯するには少し大き過ぎるので、タブレットが一番口寂しさを和らげつつ、ポケットとの相性が良い。
 土曜の昼下がりなので人通りはまだまだ多い。駅の方から流れてくる人を避けながら、図書館へと向かう。
 図書館に到着してから喫茶店で読み終えた内容も覚えていない本を返却した。それからすぐに窓側の席を確認してみたけれど、あの子の姿は見つからなかった。なぜかとても残念な気持ちになったけれど、それはあの物語が読めなくて残念なのか、あの子に会えなくて残念なのか解らなかった。
 特に用事もなくなったので、図書館を出る。タブレットを一粒口の中に放り込んだ。爽やかな刺激が口の中に広がる。いつもより歩いたからだろうか。それとも春先の暖かな日差しのせいなのか、電車に乗り込んでからウトウトしてしまう。座った座席が暖房で暖かく、意識は簡単に遠のいた。



   ◆



「どうしたん?」

(え? いや、別に……なんでもないよ)

「今日の朋君、へんやなぁ」

(そんなことないって!)

「あぁ、そっか。いつもへんやもんね?」

(いや、だから……その、なんでもないって)

「はっきり言うてくれたらええのに」

(……え?)

「あたしのこと、好きなんやろ?」

(いや、えっと、その……えーっと)

「……もうええわ。ほんま意気地なしやなぁ朋君。ここまで乙女に言わせて、酷い!」

(ご、ごめん)

「べ、別に責めてるわけと違うんやから、謝らんでもええのに」

(あの、ご、ごめ)

「ほらまた謝ってるやん。これほとんどSMやんか。朋君Mやろ?」

(いや、わかんない……)

「ええで、あたしSやからな。たっぷりいぢめてあげんで?」

 そう言ってから由香里は、二度三度と僕の肩を叩いて「あはは」と笑った。



   ◆



 扉の閉まる音で目が覚める。慌てて駅名を確認すると二条町、次が降りる駅だった。ため息にも似た息を一つ大きく吐いた。それにしても由香里の夢を見るなんて──。



   ◆



 大学に入って最初にやった居酒屋のバイトで僕は由香里と出会った。同い年なのにやたらと上目線な態度に、最初は嫌な奴だとさえ思っていた。けれど、シフトが同じになる度に由香里と話をして、一緒に笑い、時には相談に乗ったり乗られたりするようになった。そのまま気が付けば、僕は由香里を好きになっていた。
 日に日に由香里への想いが大きくなったけれど、想いを伝える事で今の関係が壊れてしまうんじゃないだろうか、由香里も僕のことを想ってくれているように勘違いしているだけなんじゃないだろうか、と考えてしまって何も伝えられないままでいた。
 ある日、由香里と同じシフトになり、予定を大幅に過ぎて深夜近くに上がった。話の流れから一緒に晩御飯を食べに行くことになったものの、開いてる店も少ないので大通りに面したファミレスに二人で入った。

「疲れたわー」

(お疲れ)

「ほんま、店長仕事振り過ぎやわ。あたしらもう上がろうとしてたの解ってたはずやで、あれは」

(そうだろうね。けど、それだけ信頼されてるってことじゃない?)

「それやったらそれで、もうちょっと時給あげてもらわんと、やってられへんよ」

(そんなに今の時給不満?)

「そうやなぁ。あたしぐらいなら時給七千円ぐらいもらわんと」

(それは高過ぎでしょ? しかも中途半端な額だし……)

「なに言っとん! こんな若くて可愛い子、キャバクラなら一時間七千円が妥当やろ?」

(いや、行ったことないから解らないけどさ、居酒屋の店員はキャバ嬢じゃないでしょ)

「なんや、朋章はあたしが七千円には不釣合いやって言うんか?」

(いや、金額じゃないでしょ?)

「ええこと言うやんかぁ。やっぱ中身。心やな、ハートや。ハート」

(そうそう、そういうことにしとこ)

「じゃ、朋章の時給の半分は私がもらわなね」

(ちょ、なんで! ?)

「え? こんなピュアなハートをほぼ毎日味わせてあげてるから、朋章は辛いバイトも頑張れてるやろ? そのお礼やん、お・れ・い♪」

(あぁ、ファーストフード店とかに行くと、飲み物とハンバーガー乗せて運ぶやつね)

「それはトレイや!」

(え? 漏れそうなの?)

「トイレ違う!」

(あぁ! 解ったフラメンコ踊って最後のキメ台詞だ!)

「そうそう、こうやってタッタラタッタラタッタラタンタンタン♪ オレィ! って違うわ!」

(あっはっは……、今の結構踊れてた踊れてた)

「当たり前やろ、中途半端に乗っかったら大ケガしてまうもん。……それにしても朋章も随分上手くなってきたやないか。やっと漫才コンビになってくれる決心が付いたんやな。あたし、嬉しいわぁ」

(一緒にいたら勝手に仕込まれてくだけだって。てか乗ったりかぶせたりしなかったら、いつも怒ってたじゃないか)

「あたし一人だけが一生懸命笑いを取ろうとしてたら寂しいやない」

(別に僕は笑いを取らなくても良いと思うけどなぁ)

「あかん。常に貪欲に笑いを狙わな、この世界では生きていかれへんで?」

(それどこの世界だよ……)



   ◆



 由香里のことを思い出してみたけれど、自分の声は思い出せなかった。
 少しだけ泣いていた。それは失ってしまったから流した涙なのか、それとも失ってしまったものに出会えて嬉しかったから流した涙なのか。電車は速度を緩め、一条町という文字が数回流れて、また現れた一条町と書かれた看板の一つが目の前にゆっくりと止まった。




≪第六話へ
第八話へ≫

COMMENT

どんな気持ちなんだろな。

レス対応感謝!
  • 2008.03.10[月]

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