POSITISM

適度に適当に。

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世界の終わりを変えるモノ - 第四話 -


ハコニワノベル

 僕が声を失ったのは、あまり思い出したくない五年前のことだ。当時好きだった女性に気持ちを伝えられないまま、その女性は僕の目の前で交通事故にあって亡くなった。駅前の交差点でじゃあねと繋いだ手を離した直後だった。それ以来、僕は声を失った。病院で診察を受けたりもしたけれど、声帯などに異常はなく精神的なものらしい。
 会話することが出来ないので、僕はいつもメモ帳とペンを持ち歩いている。ただ、とっさに伝えたい内容を書かなければならないので、意思の疎通はかなり難しい。だから人と会うのはあまり好きじゃない。
 図書館は好きだ。基本的に会話をしなくて済む。それに本を読んでいる最中は他のことが気にならない。特に異国の物語が好きで、今は北欧神話やそれを元にした物語の本を、それこそむさぼる様に読んでいる。
 一応大学に在籍してはいるけれど、日々図書館に出かけていて大学には行っていない。借りた本の返却もあるし、まだ読んでいない本を読むためだ。今日もそうで、自宅の最寄り駅から三駅隣の駅に隣接されている図書館へ向かっている。電車の中はそこそこ混んでいて座れそうに無かった。扉の横にもたれ掛かって、ポケットの中からミュージックプレイヤーを取り出す。無造作にランダム再生させて、すぐにポケットに戻した。顔を上げて窓の外を見る。
 イヤフォンから、君を抱いていたいとか、明日は汽車の中といった歌が聴こえる。昔に流行った曲のカバーだ。今乗っているのは汽車じゃなくて電車だ。なんてことを考えながら、一度オリジナルの方を聴いてみようと思った。
 しばらくして、電車は目的の駅に到着した。ホームの階段を降り、改札を抜けて図書館へと向かう。
 借りていた本を返却し、昨日貸し出し中になっていた本を検索してみたけれど、まだ貸し出し中のままだ。返却予定日は今日になっている。まぁ、明日には借りられるだろう。
 本棚からまだ読んでいない物語を二冊手に取って、いつも座っている窓側の席に腰を下ろした。窓から見える大きな落葉樹が、サァサァと葉を鳴らしている。持ってきた本の表紙を捲る。──ふむ。ありがちな物語ではあるけれど、これは借りだな。もう一冊はどうだろう。
 二冊目を読み進めている最中に、普段は誰も座らないこの窓際の席に女の子が座ってきた。他に沢山席があるのにな。と思ったけれど、その子が無我夢中で本を読み始めたので気にしないことにした。

(それにしても、ずいぶん付箋やメモが付いてる本だなぁ。自前かな?)

 そんなことを考えていると、女の子が顔を上げるような素振りをしたので自分の読んでいる本へ視線を移した。しばらくすると女の子は本を置いたまま席を立った。女の子の姿が見えなくなってから、開きっぱなしの辞典のように分厚い本を覗き込んだ。

(これ……英語? じゃないな、アイスランド語か。翻訳されてない原本じゃないか!)

 無性に読みたくなった。最初から翻訳されている物語は、その翻訳者によって物語の雰囲気が変わってしまったりする。その訳し方で物語そのものが変わってしまっているものも多い。あの女の子が戻ってくるまで、せめて開いたままのページだけでも──。



   ◇



「これはこれは、月の姫さま。また読書ですかな?」

「あ……、ブラム。そうなの、えっと、お邪魔かしら?」

 ブラムは長いアゴヒゲを数回撫でて微笑んでから話した。

「いえいえ、もうこの書庫にある書物は全て読んでしまいましたからな」

「ここにある書物、全部? すごい!」

「月の姫さまも、もうかなりの数をお読みになられてしまいましたかな?」

「ううん、まだ全部は読んでないよ」

「それはそれは。書物は読む者によって、様々なことを教え導いてくれるものです。もし、月の姫さまがお読みになられた書物で何か発見されましたら、このブラムにも教えてくださいませ」

「ブラムにも知らないことあるの?」

「それは沢山ございます。現に今、神王さまの望む知識はここの書物にも、このブラムの頭の中ににも、ございません」

「お父様が望む知識?」

「はい、終わりの予言を引き起こすと言われている怪物を貫く槍、グングニルの知識でございます」

「グングニル……」

「それを求めて、神王さまは妖精の国へ戦争をしかけられましたが……」

「もう、闘いは終わったの? ねぇ、お父様とお姉様は無事?」

「……解りませぬ。今、解っているのは、妖精軍の毒ガス攻撃を受け、戦況は大変に不利ということ」

「そんな!」

「あぁ、月の姫さま! お待ち下さい! まだ勝敗が決したわけではございませんぞ」

 タンクルは書庫を飛び出して、透き通る灰色のローブをたくし上げ王の間へと走った。



   ◇



(へぇ、あの子が訳したのかな? 読みやすい。それに、こんな物語があるなんて知らなかった。どんな物語なんだろう。もっと読みたいなぁ)

「えっと、あの……」

 気が付くと女の子が戻ってきていた。手にはアイスランド語の辞書を持っている。僕は片手でゴメンとポーズを取ってから、ポケットのメモ帳を取り出して

『その本、面白そうだね』

 と書いて渡した。するとキラキラした顔で「面白いですよ」と返ってきた。なんだか嬉しい気持ちになった。けれど瞬間、仲良くなることが怖くなって、二冊目の物語が面白そうかどうかも確認しないまま、僕は貸し出し処理をした。彼女の方を見るとこちらを向いていたので軽く手を振ってから僕は図書館を後にした。
 普段よりもずいぶん早く図書館を出てしまったので、行くあてもなくブラブラと歩いた。毎日決まった場所を行き来するだけだったから、妙に新鮮に感じて、冒険をしている気分になった。

(よし、入った事のない店にでも入ってみるか)

 物語の主人公のようだ。と幼稚なことを考えながら歩いていると、大通りから一本入ったところに整骨院が見えた。中で施術を施している院長らしきマッチョが僕に気が付くと爽やかな笑顔と白い歯で「さぁ、カモン!」みたいな表情をしたので、そそくさと通り過ぎた。
 ぐるりと回ってまた大通りに戻ると、妙にお洒落な喫茶店を発見した。何と読むのか解らないけれど「Alfheim」という名前らしい。普段喫茶店などには滅多に入らない。しかし今日は物語の主人公──とはいかないけれど、冒険をしよう。そう決めて喫茶店「Alfheim」へ入った。

「いらっしゃいませ。空いてるお席にどうぞ」

 店員であろうウェイトレスに促されて、僕は通りに面した窓際の席へ座った。テーブルや椅子、照明、壁やオブジェにいたるまで、全体的に統一された店内は異世界のように感じる。大きな目で優しそうなウェイトレスが水とメニューを持ってきてくれた。「灰皿はご入用ですか?」の問いに片手を振っていらないと伝えた。
 メニューを見てみるとなんだかお洒落な名前が並んでいた。値段もお洒落している。特に何か欲しくて店に入っていないので決めかねていると

「お決まりでしょうか?」

 と、さっきのウェイトレスがオーダーを聞きに来てくれた。僕はメニューをそのウェイトレスに見えるように向きを逆にして、適当に指を指した。

「はい、ハーブティーの……カルカデですね。以上でよろしいでしょうか?」

 僕は大きく頷くと、「メニュー失礼します」とウェイトレスがメニューを下げていった。「カルカデ」ってなんだ?と思ったけれど、もう注文してしまったのだから後には引けない。それにしても、さっきのウェイトレスは素晴らしいな。いつも声が出せないから、指などで注文するのだけれど、嫌な顔をされることが多い。さっきのウェイトレスはまったくそんな顔をせずに注文を受け付けてくれた。それだけで、この店に入って良かったとさえ思える。

「お待たせしました。ハーブティーのカルカデになります」

(ありがとう)

 そう心の中で言いながら頭を下げた。
 運ばれてきたのはティーポットらしきものと、それに被さっている帽子のようなもの、それから砂時計。砂時計? 何に使うのか考えようとすると、ウェイトレスがそっと砂時計を逆さにした。

「砂時計が落ちきってからお飲み下さい」

 そう言うと、ウェイトレスは伝票をテーブルに置き、軽く会釈をしてから店の奥へと戻っていった。砂時計とにらめっこをして、帽子のようなものを取るとガラス製のティーポットの中にはルビー色のハーブティーが待ち構えていた。




≪第三話へ
第五話へ≫

COMMENT

おー、キーワードキターwwやはり俺は筋肉から離れられませんのね(苦笑

今回は青年からの視点なんですなぁ。また違った展開で面白いです!

わー!
キーワード、使ってくださって、
ありがとうございます!!
今回は、るどさんも書かれていらっしゃいますが、
色々な視点からお話が進んで、
拝見するたび、展開にどきどきしています☆

だいだい固まって来てるっぽいなぁ

しかし、どぎついワードに血を吐いてるんだろなぁ(笑)
  • 2008.03.07[金]

整骨院の院長wwwww
いやー、まさかこんなとこで開院していたとはw

目線がたくさんあっておもしろい
物語も少しずつすすんでいくから気になってしょーがない><
(仕事しなさい>自分)

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